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 短剣を持ち出し殺傷沙汰になりかねない状況を生み出したおかげでしばらくの間はリアをナンパする男は現れなかったが、トーメル湖に訪れる人は多い。数十分もすればリアにナンパする男が現れてしまった。

 その男は先ほどのカトトタス商会の長男とは違いソルテット家伯爵令嬢の顔を知っていたらしくライラの顔を見た次の瞬間には逃げ出していた。

「……あの、少し、歩きませんか? 一か所にとどまっている、どうしても、その……」

 逃げていくナンパ男の背中を見送るリアはライラにそう提案したところライラがそれに賛同した。

 荷物をそのままにライラとリアは移動を開始した。ライラは両方の太ももに短剣と杖を保持するレッグホルダーを装着したがリアはそういったものを所持していない。阿保三人が準備しなかった、と言うのもあるがそもそも今のリアは杖を使っても簡単な無属性魔法の魔法陣を展開することしかが出来ていないため杖を所持するだけ無駄だ。

 トーメル湖は湖だが砂浜がある。だが周辺が山々に囲まれているため砂浜が存在する範囲はそこまで広くない。砂浜の外にあるのは土と雑草だ。定期的に刈り込まれているので背丈を超えるようなサイズの雑草は樹木の生い茂る範囲にしかない。

 そんな小さなトーメル湖の砂浜をライラとリアは歩む。最初の一歩は、リアから。リアの歩くスピードに合わせてライラが歩き二人は横並びに移動している。

 ライラは砂浜と土の境界線あたりに。リアは湖と境界線の真ん中あたりを、歩く。

「……みんな、楽しそうですね」

 リアは呟く。その視線は湖に向けられている。湖では様々な遊戯が行われている。魔法を使い水面に立ちサッカーの真似事をしたり、浮き輪に体を預けただ水面に漂う人もいれば水上バイクのようなもので水面を駆ける人だっている。阿保三人は水上バイクのようなものに乗り水面を縦横無尽に駆け抜けている……特にこれ、と言った問題を起こしていないようなので一安心だ。あいつらなら水上バイクで水面を漂う人をひき殺しかねない。

「…………」

 ライラは、何も言わない。何も言わずにリアの歩幅に合わせて足を動かし、周辺の警戒を怠らない。

「……怖くは、ないんでしょうか?」

 リアは、ふと足を止める。まだ頂上に至るには程遠い太陽は、優しくトーメル湖周辺を照らし風に乗る湖の水気に含まれる冷気を緩和する。

「もう少しで、ここに魔物が来る、と言うのに……」

「私が幻覚の森で使ったのと同じような結界魔法が使用されていますから、問題ありません。アイヴァンの接近を感知してからトーメル湖を封鎖しても十分非難が間に合います」

「それは、私もわかっているんです。でも……なんていったら、いいんでしょうか……」

 リアは、少ししてから砂浜を歩き始めた。

 喧騒が遠くに感じる。砂浜を歩いているのはライラとリアだけだ。今、この空間にはライラとリアしかいない……そんな風に感じる。

 だが、残念ながらこの近くにいるのはライラとリアだけではない。ライラとリアには気づけないが私には、分かる。私は探知魔法を使うことで常に半径五百メートルの範囲を監視しているからだ。

 近づいてきているのはリアに暴力を振るっていたがライラの顔を見て蜘蛛の子を散らす様に逃げていった男達だ。またガタイの良い男を一人連れてきているみたいだ。この男はライラがリアを助けた時には見かけなかった男だ。

 人がいる場所から離れているのを良いことにガタイのいい男は革製の防具を身に着け鉄製のロングソードを装備している。魔力回路がまともに発展していないのでライラでも後れを取ることはないだろう。

 ライラとリアは静かに浜辺を歩いているが、男たちは小走りでライラたちのもとに向っている。

 当然だが男たちの方が速い。男達はライラとリアの後方百メートルにまで、近づいた。ライラとリアではまだ気づけていない。

「手筈通りだぞ……やれ!」

 私達との距離は未だに百メートル近く空いているにもかかわらず、男たちは行動を開始した。だが、これは距離を見誤ったわけではない。

 ガタイの良いロングソードを装備した男が駆けだすのと同時に、リアに暴力を振るっていた男たちが魔法を発動する。

 魔法発動を簡単に見逃すライラではないが百メートルもの距離が開いていると今のライラでは魔法が発動したことに気づけない。

 ただ、魔法が飛来し二十メートルの距離までくればライラでも魔法が接近していることに気づくことが出来る。魔法が接近していることに気づくライラは振り返ると同時に短剣と杖を抜くが、それは男たちの想定内の行動だ。

 ガタイの良い男が飛び出すのと同時にリアに暴力を振るっていた男たちが魔法発動の準備をすることでガタイのいい男が接近する時間を稼いでいるため、ガタイのいい男もすでにライラたちの後方二十メートルにまで接近してきている。

 ライラが振り返り、魔法とガタイのいい男を視界に入れ状況を把握してから最初に対処するのは飛来してくる数々の魔法だ。

 魔法陣を展開し氷魔法を使用したライラは飛来する魔法に向けて氷礫を連射する。これにより大半の魔法を無力化できたが、すべてを打ち落とすのは不可能だ。

 そのためある程度魔法を減らしてからライラは身体強化魔法をかける。これは接近してくるガタイのいい男に対処するためだ。

 魔法は無差別だったがガタイのいい男は明らかにリアを狙っていて、ライラなど眼中にないようだ。

 ライラとリアの間には距離が開いているが、身体強化魔法を使ったライラはガタイのいい男が振るう武器がリアに命中する前に短剣を間に滑り込ませることに成功する。男の武器がライラの短剣とぶつかるのと同時に魔法も着弾する。

 魔法が着弾したのは地面だけでリアにもライラにもガタイのいい男にもダメージはない。

「やるじゃ――」

 いやらしく笑う男の言葉を無視したライラは近くにいたリアを蹴飛ばしガタイのいい男から遠ざける。リアが遠くに行ったことを確認したライラは鍔迫り合いをしていた男のロングソードを短剣の上で滑らせる。それと同時に左手に持つ杖を突きだすことでガタイのいい男の右目に杖を突き刺す。

「ぐあ゛あ゛――」

 痛みに叫ぶ男の顎に掌底を叩き込み、口を強引に閉じさせる。次に右手で持つ短剣を使い男に残っている左目に対して短剣を突き刺す。抵抗する手段をなくすために短剣でロングソードを持つ手を突き刺し、そのまま捻ることで傷口を大きくする。痛みに耐えかねた男は手を開き、武器が手から離れる。

「――――――」

 悶絶するガタイのいい男を蹴り飛ばし、ライラは魔法を使っていた男たちの対処に当たる。

 だが、こちらは簡単だ。いまだに距離があるため氷魔法を連射し意識を刈り取るだけだ。

「っあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛――」

 その間に悶絶する男は手探りで武器を探し始めた。それを見たライラは男の武器を拾い上げて、武器を探すその手に突き刺す。

「ぐっう゛う゛う゛う゛う゛――」

 男は以外にも冷静で手に突き刺さった武器の刀身を掴み引き抜いた。そして男は引き抜いた武器の持ち手を移動し、柄を握った。

「づあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!」

 そして、武器を振り回す。ライラは素早く男から距離を取ったうえで、魔法を行使する。

 発動するのは氷魔法だ。ライラの行使した氷魔法は男の下半身を氷塊で閉じ込める。

「そこがあ゛!」

 男は魔法の発動地点に向けて武器を投擲するがライラは短剣でそれを防ぐ。攻撃が防がれたことを音で察した男は動きを封じる氷塊の破壊を試みる。振り上げた拳が振り下ろされ太ももを叩いたその瞬間に、振り下ろされた拳までもが氷塊に閉じ込められる。

「残念」

 男は必死に藻掻いているが氷塊には罅一つ入らない。

「くそ、くそっ!」

 ライラはゆっくりと男に近づいていき、男の顔に向けて魔法を使用する。

「や、やめろ……」

 標準が向いていることに気が付いた男は怯えた声を出すが、ライラが発動する魔法は攻撃魔法ではない。ライラが発動するのは治癒魔法だ。

 ライラは傷ついた男の眼球が完全に元通りになるまで治癒魔法をかけ続けた。

「なぜ、貴方は私たちに攻撃してきたんですか?」

「な、なにが……」

「答えなさい」

「あ、ああ……俺は、冒険者だ。後ろにいるのは今回の依頼主で……俺はあいつらの護衛なんだ。でも、その、気に入らない奴がいるからそいつを拉致するって……お、俺はやめとけっていたんだ。でも、依頼主は聞く耳を持たなかったんだ」

 冒険者は必死に弁明するがライラは短剣を冒険者に向ける。

「私に攻撃してきた時、貴方は随分と楽しそうでしたね?」

「ち、違う、あれは……とにかく、違う!」

「…………………………」

 ライラは短剣を冒険者に向けたまま、少し考えるそぶりを見せる。

「た、頼むよ! 見逃してくれ!」

「……いいでしょう。私も、少しやりすぎましたから」

 ライラは魔法を使い男を動けなくしている氷を溶かす。

「後ろにいる方たちには、厳重注意を。次同じようなことをした場合、全員殺します」

「あ、ああ……わかった」

 冒険者は、少し迷ってから投擲した武器を拾いなおしてから依頼主のもとに向った。冒険者は少し考えた後にどこからともなくロープを取り出して何人もいる依頼主の足を縛り、依頼主を荷物を運ぶようにして遠ざかっていった。

「あ、あの……」

 遠慮気味に声を掛けるのは、先ほどライラが蹴り飛ばしたリアだ。蹴り飛ばされた先が砂浜だったのでリアの体に傷跡はない。

「なんですか?」

 ライラは血を拭った短剣と杖をレッグホルダーに戻しながら、リアの方を見る。

「あ、ありがとう、ございます……」

「気にしないでください。これから、どうしますか?」

「……その、もう少しだけ、歩いていたい、です」

「わかりました」

 ライラが侍女の様に思えて仕方がないリアは少し戸惑いながらも、砂浜を歩きだす。ライラはリアの歩幅に合わせているので二人は横並びになって砂浜を移動した。

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