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トーメル湖に遊びに来た阿保三人はそれぞれ思い思いの行動をとっている。ライラも阿保三人に倣って自分一人で行動しようとしていたのだが水着姿でいるリアが複数人の男に囲まれ暴行を受けて意識を失ったリアを連れ去ろうとしている現場を見かけたライラがリアを助けに入った。
なぜそんなことになったのかと言うと、リアが男達の誘いを断り続けたことに原因がある。男たちはリアに一緒に遊ぼうと誘ったのだがリアはそれを断わった。だが男たちはそれで諦めずに誘い続けたのだがリアは男たちの誘いを断り続けた。だがそれが男たちの機嫌を損ねることにつながった。機嫌を損ねた男たちはリアが意識を失うまで暴力を振るい続けた。
何をするつもりだったのかは分からないが男達は顔面を血まみれにして意識を失ったリアを連れ去ろうとしていたところをライラが目撃。何があったのかとリアのもとにライラが駆けつけソルテット伯爵家令嬢の顔を見た男たちは蜘蛛の子を散らす様に逃げていった。
ライラは治癒魔法を使いリアを治療し事情を聴いた。
事情を聴いたライラは自分がリアのそばにいた方が安全だろうとリアのそばにいることを決めた。そしてライラがリアに何がしたいのかと聞いたところ、とりあえずゆっくりしたいと言ったのでライラ達は浜辺にビーチチェアとパラソルを設置して、今に至る。
ナンパしてきた男を顔一つで追い払ったライラはため息をついてリアの顔を、まじまじと見つめる。
「あ、あの……? どうかしましたか?」
顔を見つめられていることに気が付いたリアは不安そうにライラの顔を見つめ返す。しばらくの間、二人は見つめ合っていた。先に視線を逸らしたのはライラだった。
「こんな醜い顔のどこが良いのでしょうね?」
「……すみません」
自分の顔が原因でナンパ男がすり寄ってきていることを否定できないリアは、ただ謝るしかない。
リアの顔に布をかぶせたり周りから見えない様に魔法を使うことでリアをナンパする男はいなくなるだろう。だがライラはそれを行わない。なぜなのかは、私には分からないけれど。
またリアの要望でとりあえずゆっくりしている二人の間にはまともな会話と言うのは発生しにくい。リアは何度かライラに話しかけているのだがライラに話を広げる気が無いせいだ。
「……あの……」
「何か?」
「……えっと……やっぱりなんでもありません。すみません」
「そうですか」
最終的には今のようにリアが委縮してしまい口にしようとした言葉を飲み込む事態となってしまった。それにより二人の間には会話が発生しない様になってしまう。
ライラがリアの傍にいるのは、傍にいる必要があるからでライラとしてはリアの傍になど居たくはない。出来る事ならリアと会話すらしたくはないだろう。
それを鑑みるとリアが何もしゃべらない現状はライラにとっては望ましいのだろう。だが、リアはライラとの間に会話が発生しない現状に落ち着けないのか体を揺すっている。
二人の距離が離れていればなんの問題も発生しなかったのだろうが二人の体は密着している。そのためリアの体の揺れが直接ライラの体に届いてしまっている。
ライラの顔には分かりやすく不快感が現れるがリアはライラの顔を見ようとしないので、そのことに気づけない。
リアが自分の顔を見ていないことに気が付いているのかただ単に我慢しているだけなのかは分からないがライラはリアに対して何も言わずにジッとしている。
「ねえ、君たち……少しいいかな?」
「消えなさい」
ただリアに何も言わないことの反動かナンパを仕掛けてきた男に対してライラは乱暴な言葉遣いをした。近くの机に抜き身の短剣があるのに声を掛けてくるような輩の殆どは調子に乗っている若造だ。そのため乱暴な言葉遣いをされると彼らの自尊心に傷をつけてしまう。
「は、はぁ~!? 俺はカカトタス商会の長男だぞ! 口の利き方に気を付けろよ!」
カトトタス商会の長男を名乗る男は消えろ、と口にしたライラに向けて唾を飛ばしながら叫んでいる。
マレント王国の関係者なら声を掛けたことを後悔するソルテット伯爵家令嬢を前にしてもカトトタス商会の長男が威張り散らしているのには理由がある。
ソルテット伯爵家はマレント王国において否定することのできない悪評と共に知れ渡っているがそれはあくまでマレント王国内部での話だ。隣国から来た貴族や商人はソルテット伯爵家の悪評はおろかその名前すら知らない場合が多い。
マレント王国において重要な取引を行う商人や外交を担当する貴族あるいは子爵以上の位を持つ貴族はソルテット伯爵やソルテット伯爵家令嬢の名前や見た目を周知している人がほとんどだが、そういった人物はおいそれと国の外には出ない。また、他国で人が集まるような場所に訪れるということも殆どない。お忍びで訪れる場合はあるがその場合はこうやって目立つ行動は控えるはずだ。
つまり、このカトトタス商会は何かの用事でマレント王国を訪れた小規模の商いを行う商会なのだろう。ライラはマレント王国を訪れる可能性のある大きな商会の名前をランロクに覚えさせられたがその中にカトトタス商会の名前が無いことが私の推測を裏付けている。
「口の利き方に気を付けるべきは貴方ですよ……それにしてもカトトタス商会、ですか……」
「そうだ、俺はカトトタス商会の長男だ! パパに言えばお前の商会など簡単に潰せるんだからな! 貴様、どこの商会の者だ!」
「潰す、と脅されているのに商会の名前を明かすわけないでしょう? もう少し頭を使ったらどうですか?」
「あ、あの、ソル――い、いえ、その……えっと、辞めておいた方が……」
リアは話しかけてきたカトトタス商会の長男ではなくライラに向けて忠告をした。ソルテット、と安易に言わないあたりリアはリアでいろいろと考えているのだろう。だがここで一歩引いてしまえば相手は図に乗りただでさえ面倒な現状がもっと面倒なことになる。
「黙りなさい。口を挟まないで」
「す、すみません……」
「君、そこの高圧的な女とは一緒にいない方がいい。さあ、俺と一緒に来るんだ」
カトトタス商会の長男はそういいながらリアの手を取ろうとするがライラがその手を払いのけ、机の上に載っている短剣を掴む。
「これ以上の狼藉を働くようでしたら、切り落としますよ」
そういうライラがつかむ短剣の剣先はカトトタス商会の長男の股間に向っている。トーメル湖に来ているためカトトタス商会の長男の格好も水着であるため防御力は皆無だ。ライラがやろうと思えば彼の股間についているモノを抉り取ることも切り取ることもできるだろう。
「お、お前! そんなことをして許されるとでも思っているのか! おい、誰か! ここに武器を持った女がいるぞ!」
カカトタス商会の長男は明らかに狼狽え周りに助けを呼ぶが私がビーチチェアから立ち上がりその姿と顔を見せるとカカトタス商会の長男の声に集まりかけていた人々はそっぽを向いてしまった。
「ど、どうなってるんだ! おい! そこのお前! 聞こえてるだろ!」
カカトタス商会の長男は必死に叫ぶが声を上げれば上げるほど周辺にいる人はライラから離れていく。全員がソルテット伯爵家令嬢の顔を知っているのだろう。
「もう一度、言います。消えなさい」
「な、なんなんだよ、くそっ!」
そうして誰も助けてくれないことを悟ったカカトタス商会の長男はみっともなく逃げていった。ライラはため息をついて再びビーチチェアに寝転び短剣を机の上に置いた。
「……すみません、私の……せいで」
「…………………………………………」
ライラはリアに返事することなくガラス製のグラスに手を伸ばし、内容物を喉へと流し込む。
「…………………………」
ライラはもう一度大きなため息をついてゆっくりと目を閉じた。そんなライラに対してリアは疲れていると解釈したのだろう。何も言わずにライラの傍により体が触れないぎりぎりまで近づいてリア自身も目を閉じた。




