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 ダンジョンを脱出した私達だが、ダンジョン内に倒れていたためまず最初に怪我をしていないかを確認された。確認される少し前に生命力をリアに与え、私自身も気絶をやめたので私とリアは軽傷、或いは無傷であると判断されいまだに目を覚まさない阿保三人の検査が優先された。

 阿保三人の体からはちゃんとひどい内出血が確認されてすぐに治された。傷を治した後に冒険者が軽く体をゆすると阿保三人は目を覚ました。

 最初は混乱していたようだったが、リアが近くにいることを確認するとすぐに冷静さを取り戻してギルド職員から色々と聞き出そうと話しかけていた。私とリアは阿保三人が目を覚ました後に、個別に検査を受けることになったが、どちらの体からも問題は見つからなかった。

 また、前代未聞の事態が起きたのにも関わらずダンジョンが封鎖されることはなかった。これは他のどのダンジョンでも言えることだがダンジョンが近くにある冒険者ギルドにはダンジョンに潜ることで生計を立てる冒険者が多く所属しているのが原因だ。

 借金の返済が今日までの冒険者も少なくはないし今日を生きるために必要なお金がない冒険者だっている。そのため目下分かりやすい異常事態が現在進行形で起こっていないと冒険者たちはダンジョンに潜ることをやめないだろう。

 そして、それを制限するようなら冒険者たちが暴れだす可能性もあるためギルド側は安易にダンジョンの封鎖が出来ない。その影響でシトラル教育機関の生徒たちもダンジョンに潜り試験のために魔物の討伐に向えると言う訳だ。

 異変の原因である悪魔は私が倒したし悪魔が何らかの罠を仕掛けた痕跡もないので、シトラル教育機関の生徒たちにはなんの影響もないだろう。

 また教育機関側はこの事態を知らないのか知っていて放置するつもりなのかは分からないがなんの干渉も行わなかったため、シトラル教育機関の生徒たちはそのまま試験を続行し次々とダンジョンに潜っていった。

 そして、それを見た阿保三人は遅れてたまるかとリアを強引に引き連れてダンジョンに向かってしまった。

 阿保三人とリアがダンジョンに潜り魔物と遭遇してしまうと間違いなく全滅することになるので、私自身も仕方がなくダンジョンに潜った。

「安心してください、リア。先ほどギルド職員に尋ねましたがこのダンジョンには前例のない異常事態が起きていたようです。私たちが相対したあの数の魔物が、その異常事態だったのでしょう。なので、何の問題もありません」

 エメルの言葉はリアの耳に届いているだろうがリアは何も言わなかった。逆に口を開いたのはバトルトとガルドだった。

「その通りだ。全く、とんだ不幸に見舞われたな」

「だが俺たちはこの不幸にも負けない。必ずこの試験で一番になってやる」

 野心に満ち溢れている阿保三人だが残念ながら阿保三人はまず間違いなく今回の試験では最下位となるはずだ。私とリアはシトラル教育機関から何らかの措置が取られるみたいなので私とリアが最下位になることはきっとない。

「貴方達は本当にダンジョンについて何も知らないのですね」

 これは、私の言葉だ。リアはどこか疲れた表情をして何も言葉を発しなかったのでその代わりだ。

「黙れ」

 バトルトは切り捨てるように会話を切り上げリアの手を引く勢いを強めダンジョン内を素早く移動し始めた。

 私たちが最初にダンジョンに潜った時は悪魔が『悪魔の誘惑』を使い人払いをしていたためダンジョン内には私達以外に誰も居なかった。

 だが今はいたるところに冒険者あるいはシトラル教育機関の生徒たちの姿が見られた。

 ダンジョンに私たち以外がいることで起こるのは、魔物の湧き待ちだ。ヘルトアブルト大迷宮は広く魔物の出現も多いが限度がある。一階層だとなおさらだ。

「くそっなんで魔物が居ないんだよ!」

 ガルドは苛ついているみたいだが残念ながらしばらくの間、第一階層では魔物と出会うことはできないだろう。各所に冒険者やシトラル教育機関の生徒たちが散らばっていて魔物が出現してすぐに魔物との戦闘を開始し終了しているためだ。

「……もういっそのこと第二階層まで降りてみるか?」

 第一階層で苦戦していた阿保がなぜか第二階層に降りようと提案したが今のペースで進むとダンジョンの二階層とつながる階段に到着するまでに二時間ほどかかってしまう。

「それも一つの手ですね」

「………………………………」

 強引に手を引かれて移動しているリアは、私の方を見て目で訴えてくる。恐らくだが私に阿保三人の行動を止めてほしいのだろう。

「まあ、いいんじゃないですか? 第一階層よりも広い第二階層では魔物の湧き待ちも起きにくいでしょうから」

 だが残念ながら私は阿保三人の行動を後押しするような言葉を口にした。リアが目を見張り私を見ているのが分かる。けれど阿保三人の行動を後押しするような言葉を口にする私は正直な話、この時に限ってだが阿保三人に感謝している。

 私は悪役令嬢となる為に必要な落としどころを見失いかけていたからだ。無理に落としどころを生み出しそこに向けて行動すれば不自然な言動をリアに見られてしまう。そのため私は出来るだけ自然な形で落としどころを生み出す必要があった。だが出来るだけ自然な形で落としどころを生みだせるかどうかは、ギャンブルだった。しかし阿保三人は自然な形で落としどころを生み出す切っ掛けとなる物を手に入れた。

 切っ掛けとなる物が使用された時、私の目的は不自然な行動をとることなく達成することが出来るだろう。そのため私は切っ掛けとなる物が使用される様に行動しなければならない。

「第一階層は私が余裕をもって対処できました。第二階層でも通用はします」

 私はリアを安心させるような言葉を掛ける。リアは私の言葉にある程度納得してくれたみたいだが阿保三人からは睨まれてしまった。

 私を罵倒する言葉は飛んでこなかったがそれはおそらく私と会話するつもりがないからだろう。

 それから私たちはダンジョンの二階層に向けて移動し始めたがそれから四時間ほどダンジョン内部をさまよい続けるだけでダンジョン二階層へと続く階段を見つけることはできなかった。

「そこの通路を右に行ってください」

 私は今のように何度かダンジョン二階層へと続く階段がある場所まで案内しようとしているのだが阿保三人は聞こうとしない。

「次の通路を左です」

 そのため私はあえて間違った通路を通るように言ってそれを聞き入れなかった阿保三人が第二階層へと続く階段を見つけられるように誘導しようとしている。

 四時間もたてば魔物と遭遇しそうなものだが、残念ながら遭遇しない。

 普段なら四時間もダンジョン内にいて魔物と遭遇しないなんてありえない。だが今は冒険者に加えてシトラル教育機関の生徒たちがダンジョンの第一階層で魔物を討伐しているのが原因で四時間で一度も魔物と出会わないのだ。

 同じ場所から動かなければ魔物と戦うことはできたのかもしれないが阿保三人は第二階層に降りると決めたのだろう。

「下に続く階段だ!」

 結局、第二階層に降りることが出来る階段にたどり着くまでに五時間もかかってしまった。私は間違った通路を通るように言っていたのだが阿保三人にはそのことを指摘されなかった。

「おりましょう。ようやく、僕たちの実力を見せるときが来ました」

 阿保三人は自身満々で階段を下りていきダンジョン第二階層にたどり着いた。

 外観や出現する魔物の種類には大差がないのだが、第二階層には第一階層では出現しなかった魔物が出現するようになる。特に厄介だとかそういうわけではないがやはり物量で押しつぶされない様にしなければならない。

「よっしゃ……気合い入れなおせよ」

 ガルドはエメルとバトルトに注意を促してダンジョン二階層を探索していく。ダンジョン二階層にも冒険者やシトラル教育機関の学生はいるが第一階層に暮れべれば数は少なくなっている。

 その証拠に十分もしないうちに私たちは魔物と相対することになった。出現した魔物は第一階層で出現した魔物と同じ魔物だ。数は三十三体だ。

「なっ……どうなってるんだ! ダンジョンの状態はもとに戻ったんじゃないのか!?」

 慌てふためくガルドは急いで武器を構えるが、自分から魔物に接近することなく魔物が接近してくるまでなんの行動も起こさない。それはバトルトもエメルも同じだ。

 阿保三人が戦闘態勢に移ったため腕を掴まれて強引に連行されていたリアの拘束が解ける。

「あのギルド職員……もしや後ろにいるあいつの手下で誤った情報を流したのか……?」

「……この、ダンジョンでは一度に、三十体近い魔物が出現、します……異常事態では、ありません」

 強引に手を引かれた状態で五時間も移動していて疲れているリアが息も絶え絶えに言うが、阿保三人はリアの言葉に耳を貸していない。

「やっぱり、そうなのか……」

「大丈夫だ。俺達なら切り抜けられる」

「その通りです」

 聞くに堪えない妄言を吐く阿保三人は魔物に向って突進していった。だが第一階層で魔物と戦った時と何も変わっていない阿保三人は三十三体の魔物を一体も討伐することが出来なかった。そのうち私たちを挟み撃ちするように魔物が出現し始めたのだがこの時になっても魔物はまだ一体も倒せていない。

 挟み撃ちをするように出現した魔物は四十一体だったが私が魔法で掃討した。

 私が魔法を使って魔物を倒したにも関わらずリアは何も言わずに阿保三人の戦いっぷりを見ていた。初めて阿保三人がヘルトアブルト大迷宮に出現する魔物と戦った時は手助けをするようにお願いされたのに今回はされなかった。

 この短い時間でリアの心境は変化したのだろう。あるいは生命力が低下したことが原因で疲れていてしゃべる気になれないのか。リアの生命力は補充したが生命力が著しく減少し命の危機に瀕したことは事実だ。ダンジョンに入った時からリアは疲れた表情をしていたしもしかしたら生命力低下の後遺症として倦怠感が伴っているのかもしれない。

 リアの生命力は健全な状態へと戻っているので今の私にできるのは経過観察ぐらいなのが、少しもどかしい。

 それはそうと阿保三人が相対している魔物の数は段々と増えて言っている。私たちを挟み撃ちしようと背後に魔物が出現することはあるのだがそれは私がすべて魔法で掃討している。そのため阿保三人のもとに後ろから魔物の増援が届くことはないが前からはどんどんと魔物の増援は届いている。

 今や阿保三人が相手取っている魔物の数は二百を超えている。今も必死に戦っているがここまでで倒せた魔物の数は十体に満たない。今は何とかなっているみたいだがそれも時間の問題だろう。

 そして、時間が来ると阿保三人は私の望む行動をとってくれるだろう。最悪私が阿保三人に『悪魔の誘惑』を使用し私の望む通りに動かすことも考えているが阿保三人に操られているという感覚を与えてしまうかもしれないので、できれば遠慮したいところだ。

「あの……そろそろ、限界みたいなので……手を貸してあげられませんか?」

 しばらく阿保三人が奮闘しているところを見ているとリアが声を掛けてきた。確かにそろそろ阿保三人は限界に到達するだろう。三十体程度で苦戦している阿保三人が二百体近い魔物を相手に戦い続けるというのは不可能だ。今はただひたすら敵の攻撃を避けるばかりで一切の攻撃を行えていない。

「手を貸すとあの三人は私が邪魔をしたと言い訳をして自分たちの実力不足を認めようとしないでしょう。貴方がそれでもいいというのなら、手を貸しますが……どうしますか?」

「……わかり、ました……本当に危なくなったら、その……」

「わかっています。本当に危なくなったら手を出しますから」

「……ありがとうございます」

 リアの同意も得られたので、私たちは阿保三人が戦う様子を見ていたのだがやはり魔物を倒すことが出来ていない。魔物を倒すことが出来ないので数は増える一方だ。現時点で阿保三人が倒さなければならない魔物の数は三百体以上になっている。それでも致命的なダメージは追っていないので阿保三人のスペックが高いことが分かるがなぜそれを攻撃にも活かせないのだろうか?

「くそ! これ以上は無理だ! 数が増えるまに逃げるぞ!」

 一番最初に限界を訴えたのはガルドだった。しかし他の二人も限界が近いと考えていたのか特に反対することはなかった。阿保三人は逃げることを選択したいだけど一体どうやって逃げるつもりなのだろうか?

 阿保三人は三百体近い魔物に囲まれていて逃げるためには魔物の間を抜けるしかないのだが三百体も魔物が居るせいで魔物と魔物の間には逃げることが出来るような隙間が無い。魔物からの攻撃を受けることを前提とすればなんの問題もなく逃げることが出来るかもしれないがきっと阿保三人はそんなことしないだろう。

「エメル! 援護するから退路を切り開いてくれ!」

「任せてください!」

 今までは個人の思うがままに行動していたにもかかわらず阿保三人は一か所に集まりガルドとバトルトはエメルが魔法の発動に集中できるように周りの魔物をけん制し始めた。

 魔物の攻撃を避けることで精いっぱいだったエメルが魔法の発動準備に集中できるようになったためエメルは魔法の発動に成功した。魔法は魔物を蹴散らし退路を開くことに成功した。

 今と同じことを繰り返せば三百体近くいる魔物もそう時間を掛けずに掃討できると思うのだが阿保三人は当初の目的通りに魔物の群れから逃げ出すことを選択した。阿保三人の目線の先にいるのはリアだ。連れて逃げるつもりなのだろう。リアの体調がすぐれないようなら私が連れて走るつもりではあったのだがリアの体調はいくらか回復したみたいなので阿保三人が乱暴に連れて行っても問題は無いだろう。

 阿保三人は逃げることに集中しているみたいなので私は阿保三人が倒せなかった三百体近い魔物を氷魔法で掃討しておく。放置しておくとここら辺を通りがかった冒険者かシトラル教育機関の生徒達がいきなり三百体近い数の魔物と戦闘する羽目になるからだ。

 ライラ・ソルテットでは三百体近い魔物を一瞬で掃討することはできないので何もしなければ阿保三人とリアに置いていかれてしまうがちょうど私たちの背後から三十体近い魔物が出現した。この魔物を阿保三人に任せれば私が三百体近い魔物を掃討するだけの時間は稼げるだろう。

 私は時間を掛けずに魔物三百体を討伐するが、阿保三人は三十体近い魔物を討伐できていないみたいだ。先ほどのように役割を分担すればいいのにまた全員が魔物の群れに突っ込んでいき何もできなくなっている。

「ソルテット様……!」

 縋るように名前を呼ぶリアの声に応え私は氷魔法を使い魔物を串刺しにして殺していく。この攻撃は阿保三人の援護を目的とした魔法なので氷魔法は魔物の数を少しずつ減らしていくにとどめる。

 私が氷魔法で阿保三人がちゃんと戦える数にまで魔物を減らしていくのだが、最終的に残ったのは八体だけだった……もしや彼らは一対一の対人経験しか積んでいないのだろうか? もしそうなら色々と納得できるのだけれど。

「リア、早く来い!」

 焦っている阿保三人は周辺に魔物が居ないことにも気づかずにリアの手を取って走り出した。だがどういう訳かダンジョン二階層の出入り口から遠ざかっている。第二階層に降りてからの道順を覚えていないのだろうか。少なくとも何らかの魔法によってダンジョンの構造が変化していると言う訳でもないし阿保三人に何らかの魔法が仕掛けられた痕跡はない。

「ま、待ってください! 出入口から遠ざかっています!」

「今は逃げることに専念するんだ!」

 まるで自分が正しいと信じて疑わないみたいだが、このヘルトアブルト大迷宮では逃げに専念するのは間違った行為だ。ダンジョンが逃げ惑う人間を殺そうと大量の魔物を生み出すかもしれないしもし現在位置が分からなくなればダンジョンから脱出するのに時間が掛かることになる。また道に迷っている冒険者を殺そうとダンジョンはさらなる魔物を遣わせてくることも考えられる。

 十五階層階層まで潜ることのできる冒険者が物量で押されて第一階層で死んでしまった、なんて噂話があるダンジョンで魔物を呼び寄せるような行為は避けるべきだ。

 だがリアの静止も効かなかった現状で私が何か言ったところで一蹴されてしまうだけだろうから私は黙って阿保三人とリアについていった。

 それから十二分ほど阿保三人は逃げ惑った。逃げる、という観点から言えば文句のつけようがない逃げ方だったがダンジョン内で魔物から逃げるという観点から言えば最悪だ。私はこのダンジョンを攻略済みだし魔法で第二階層の構造を把握しているから私の言う事を阿保三人が聞いてくれれば私はリアと阿保三人をダンジョンから脱出させることが出来るが阿保三人は私の言葉など聞き入れてくれないだろう。

 リアの言葉なら聞き入れてくれるかもしれないが、果たしてリアは現在位置を把握できているのだろうか?

「よし……何とか巻けたみたいだな」

 それに、私たちは十分近く逃げることに専念していたわけだが一度も魔物が私たちの近くに産み落とされることが無かったことも気になる。第二階層にもそれなりの数の冒険者がいるから偶然と言ってしまうことは簡単だがダンジョンを攻略した身としては偶然などと楽観的なことは言えない。

「じゃあ、まずは平気な顔してここまでついてきたこいつを殺さないとな」

 バトルトはそう言って剣を抜き放ち剣先を私に向けた。エメルやガルドにも異論はないようだ。

「待ってください」

 しかし、リアはそれに待ったをかけた。青い顔色で。

「ここ、どこですか?」

「どうしたんですかリア……? ここはヘルトアブルト大迷宮の第二階層ですよ……?」

「そんなことわかってます。私が聞いているのはヘルトアブルト大迷宮第二階層のどの位置に私たちがいるかと言うことです」

「それは重要なことじゃない。別にここがどこなのか分からなくてもダンジョンから出るぐらい簡単だ。それよりも異常は起きていないと嘘をついてダンジョン内に誘い込んだこいつに処罰を下さなければならない」

「………………ソルテット様……その、分かりますか?」

 リアは阿保三人と話すことを放棄して私の方を見る。

「ええ、分かりますよ。ここはNの十五、E三十の区画です」

「現在位置、は……?」

「わかりますよ。そこにいる三人が私のことを殺さなければ第一階層へと続く階段まで案内できます」

「じゃ、じゃあ案内をお願いしてもいいですか? あの三人は気にしないでください。自力でダンジョンから出ることが出来るようなので」

「貴方がそれでいいのなら」

 本当は困るのだが、リアがいいと言ってしまったので私は阿保三人を置いて移動を開始した。

「ま、待ってくれリア!」

 本当にリアに置いていかれそうになった阿保三人は慌てて私たちの後を追ってきた。それから阿保三人は自分を無視し続けるリアの気を引こうとしたり自分の主張が正しくリアが間違っているのだと説得しようとしたもののリアは聞く耳を持たなかった。

 すると阿保三人は幻覚の森で試験が行われた時と同じように私がリアに何かしたのだと私に対して攻撃的な言動を見せ武器も私に向けてきた。私がどうしようかと悩んでいるとリアは体を密着させて腕を組んできた。びっくりはしたがリアの行動によって阿保三人は私に攻撃することができなくなった。代わりに私を非難するような罵声を浴びせられたが気にしている余裕はない。

 Nの十五、E三十の区画からダンジョン二階層と一階層をつなぐ階段まで歩きで大体一時間掛かる。私達は現在時点で三十分近く歩いているため、あともう三十分ぐらいあればダンジョン二階層の出入り口にたどり着くのだが今の今まで魔物が一体も出現していない。

 これは明らかな異常事態だ。

 ヘルトアブルト大迷宮は基本的に魔物の湧き待ちが起こらない。それは第一階層でも同じことだ。しかし今日は大勢のシトラル教育機関の生徒たちが第一階層に集まったことで湧き待ちが発生していた。つまり大勢のシトラル教育機関の生徒たちが第二階層に降りてこないと魔物の湧き待ちなど起こる訳が無いということだ。だがこのダンジョンについて調べたならダンジョンに初めて足を踏み入れたその日に第二階層へ向かう生徒たちの数は少ないはずだ。

 それにリア護衛用小型分身が第二階層全域を魔法を使って捜査しているのだが第二階層には三十分前から一体も魔物が出現していない。

 私たちがダンジョンの第二階層に到着した時にはそれなりにいた冒険者は魔物が出現しないことに違和感を覚えてダンジョン一階層に移動したみたいで今も二階層に残っている冒険者は少ない。また残っている冒険者も一階層に向かっていて十分以内にダンジョンの一階層へとたどり着くだろう。

 何が起きても不思議ではない、それが現状であり現状を把握できていないのは阿保三人だけだ。

 出来るだけ急いで行動したい気持ちはあるのだが急いで行動するとライラ・ソルテットの実力では魔物からの奇襲に気づけない可能性があるため急ぐこともできない。現状を把握していない阿保三人は私たちの後をついてきながら時たま私に対して暴言を吐いているだけで使い物にならない。

 急ぐこともできないまま私たちは十分ほど移動したところで、決定的な瞬間が訪れる前兆が現れ始めた。

「こ、この音は……」

 まるで雷でもなっているのかと思う様な音がダンジョン内に響き始めたのだ。


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