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悪魔は私の攻撃を浴び続けた結果、形を維持することもできなくなって小さな粒子となってぼろぼろと崩れていった。そして、その場に残るのは臨界状態にある魔石のようなものだけだ。私が勝手にこれをデーモンコアと呼んでいるがあの悪魔は心臓と言っていた。臨界状態にある魔石のようなものが悪魔の心臓だとすると私が勝手につけたデーモンコアと言う名前はそこまで的外れではなかったみたいだ。
私はデーモンコアが爆発する前に手に取って右足の魔力回路を切断してから右足にデーモンコアを埋め込む。
これで私の体内にはデーモンコアが三つも存在しているのだがこの三つともが融合しようと体内でうごめいているように感じる。しかしデーモンコアは切断された魔力回路をつなぎとめるだけで実際に融合する可能性は殆どない。
それと、同時に抗いがたい激痛や体が根本的に変質していくような感覚と同時にデーモンコアに保有されていた情報が私の脳内へと流れ込んでくる。
ここには誰もおらず周辺に魔物の気配もない。我慢も体に悪い。
「あ゛Gあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛! い゛Dい゛い゛Dい゛い゛Dい゛い゛Dい゛い゛い゛い゛ぃ゛zぃ゛zぃ゛zzぃ゛zzzぃ゛zzzぃ゛zzzzz!! GZRRKETNSINNNNNNNNNNNN!!」
私は我慢することなくみっともなく叫ぶが思考は冷静に保ち今得た情報を整理しなければならない。
今回得た情報の中で最も重要な情報は悪魔が徒党を組んでリアの殺害を企てているということだ。だがしかし残念なことにこの悪魔には記憶が消された痕跡が見られリアの命を狙う組織がどれぐらいの規模なのかは分からなかった。
次に重要な情報は私が悪魔の攻撃を感知できなかった原因となる魔法についてだ。私が悪魔の攻撃を感知できなかった原因は『魔装結界』という魔法にあるということが分かった。この魔法には結界を張った場所の状態を保つという効果があった。
悪魔はあらかじめこの魔法を自身の体や攻撃の軌道上に掛けることで魔法を発動していない状態を保ち私の探知魔法や魔力感知能力を欺いていた。じゃあ、私が最初に攻撃を吸収していると考えていたあの黒い煙のようなものが何だったのかと言うと、あれは『霧化』と言う魔法だった。
『霧化』とは自身の体を霧にする魔法だ。人間等の物理的に実態を持っていては使えない魔法だ。悪魔などの体が魔力で構築されているような魔力生物でないと使えない無属性魔法だ。今の私が使えば体はミキサーにかけるよりも細切れ状態になり死んでしまうだろう。
悪魔はこの『霧化』を使用することで阿保三人の体内に侵入し『悪魔の誘惑』を使用することで体の自由を奪ったうえで体内から阿保三人を動かしていた。しかしうまくいかず語尾が変な感じになったりしていた。
また、私の攻撃を防ぐ際には『魔装結界』と『霧化』の両方の魔法が使われていた。
『霧化』の魔法で自身の体の一部を霧と化し、『魔装結界』で霧と化した自身の体の一部の現在の状態を保つことで私の攻撃を防いでいたみたいだ。
また、悪魔は攻撃に関しても『魔装結界』と『霧化』の両方の魔法を使っていた。攻撃を防いだ時と違うのは魔法を使う順番ぐらいでやっていることに本質的な違いはない。
悪魔は『魔装結界』を張り何もない状態を保ちその結界内を『霧化』した体の一部を通して体当たりするようにして私に攻撃してきていた。
それに、この『魔装結界』はダンジョンの構造も変化させることが出来るみたいだ。ダンジョンの出入り口とダンジョン二階層へと続く階段を別々の『魔装結界』で覆い、さらに別の『魔装結界』でダンジョン出入り口に張られた『魔装結界』とダンジョン二階層へと続く階段を覆う『魔装結界』をつなぐ。そしてダンジョンの出入り口の状態をダンジョン二階層に続く階段の状態に上書きする。これによりダンジョンの出入り口はダンジョン二階層へと続く階段と位置が変化し、私たちはダンジョンの出入り口にたどり着いたはずなのにダンジョンの二階層へと続く階段にたどり着いてしまった。
つまり、AをBとすることでAにたどり着くはずだった私たちはBにたどり着いてしまった、と言う訳だ。
悪魔はすでに死んでいるがいまだにダンジョンの出入り口とダンジョンの第二階層へと続く階段の状態は入れ替わったままだ。『魔装結界』を破壊すれば正常な状態に戻すことはできるのだがいまだに私は痛みに悶えていて動けそうにないので結界を破壊するのは少なくとも私の体を襲う痛みが引いてからだ。
それと現時点ではリアも阿保三人も意識を失ったまま目を覚ましていない。阿保三人に関しては気を失っている、と言うよりも死にかけているという表現が正しいだろうが特に問題ではない。
阿保三人は『悪魔の誘惑』で意識を刈り取られたのちに『霧化』した悪魔が体に侵入し操られていたみたいだがそれが原因で複数個所の血管が破けてひどい内出血を起こしている。結構酷い怪我に思えるかもしれないが治癒魔法で完治できる範囲内の怪我だ。治癒魔法をかけて外部から衝撃を加えれば目を覚ますだろう。
リアは生命力を吸われて意識を失っているが『生命付与』の魔法で私の生命力をリアに注入すれば目を覚ますはずだ。
しばらく悶えていると痛みが段々と引いてきたので『魔装結界』を破壊した後のことを考えよう。ダンジョンの出入り口はダンジョン第二階層へと続く階段と入れ替わっているためダンジョンの出入り口は塞がっている。そのためダンジョンの中に入れない冒険者たちが足止めを食らってしまっているみたいだ。
私は百五十三階層の床を叩き壊すことが出来るぐらいの力を持っているが一般的にはダンジョンの壁や床は破壊できないものとして知られているため、誰も破壊しようとはしていない。
ここで私が取れる行動は二つ。リアと阿保三人を起こしてから結界を破壊するかリアと阿保三人を起こさずに結界を破壊するかだ。生命力を失っているせいで気を失っているリアは生命力を与えると起きてしまう。そのため今までなら『生命付与』の魔法を発動した痕跡を隠蔽するのが難しいという観点から後者の選択はできなかったのだが今の私は空間魔法の使用を悪魔相手にも隠し通せるぐらいに隠蔽能力が上がっている。
そのためどちらを選択しても私は構わないのだが、阿保三人の目を先に覚ますと問題が起きそうだ。……まずは先に『魔装結界』を破壊しよう。でもその前に私の体をどうにかする必要がある。
リア護衛用小型分身に『魔装結界』を何もない場所に張らせて何もない状態を保つ。その中にリア護衛用小型分身が入り『魔装結界』を分身に定着させる。これにより、分身の魔力供給で、何もない状態を保っている『魔装結界』を維持することが出来る。
分身をリアのもとに向わせてから、本体が悪魔をさらった直後から一切制御していないライラ・ソルテットを演じる私の分身もどうにかしなければならない。
いきなり制御を手放したせいで顔面から倒れ込んでしまった分身は鼻頭を強く打っていまだに鼻血が止まっていない。血液を含め魔法で生み出したものなので分身の状態を更新してやれば、完全に元通りだ。流れ出た血も体内に戻っている。そしてリアと同じように分身を気絶した状態に設定しておく。
下準備は完了した。後は結界を破壊するだけだ。ずっと悶絶していた私の体に走る痛みはもうほとんどなくなっている。最初から魔法の使用自体にはなんの問題もなかったがそれでも悶絶し叫び散らしているとリア護衛用小型分身やライラ・ソルテットを模した分身の制御を行う際に心労がたまることになるので、できれば避けたいところだ。
『魔装結界』の破壊は、リア護衛用小型分身に任せることにした。魔法を維持している魔力を抜いてしまえば問題ないので、分身が『魔力強奪』を使用することで『魔装結界』の破壊は完了した。悪魔が生きていた場合、『魔力強奪』は効果はなかっただろう。
「うお、なんだ……急に開きやがったぞ……」
「おい、あそこにガキが倒れてるぞ!」
その後冒険者たちに救出されたことによって私たちはダンジョンからの脱出に成功したのだった。




