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 私はやろうと思えばこの世界を滅ぼすことが出来るぐらいの力と知識を持っている。加えて私はこのダンジョンを攻略済みでこのダンジョンの事を知り尽くしていると言ってもいい。そんな私が、分からない。

 これは、異常事態だ。しかもこれはリアの命を脅かすような事態にもなりかねない。私は強いと自負しているが限界はあるし上には上がいるのだと、ダンジョンマスターと戦ったことで思い知っている。

 全能感を覚えるということはどこかに欠陥があるという事であり、自信を持つということはどこかに慢心があるということだ。

 そして、慢心はリアを死に追いやる可能性があることを理解している私に慢心などないし油断だってしていない。

 それなのに私はダンジョンの出入り口が第二階層につながる階段に入れ替わっていたことに気が付かなかった。

 それはつまり、ダンジョンの出入り口を入れ替えた人物は私よりも強い力を持っているということだ。場合によっては私もダンジョンから出られずに死ぬかもしれない。

「道を間違えてたんだろ! とにかく進むぞ! 後ろからバカみたいな数の魔物が追いかけてきてるぞ!」

 ガルドはそう言い切り、バトルトはガルドの言葉を正しいと判断してなのかリアの手を取り第二階層に降りようとし始めた。

「ま、待ってください!」

 しかし、リアは抵抗しその場に留まろうとする。

「リア、いい加減にしてくれないか! 俺たちは君のことを守りたいと思っているのに君はなぜ間違った判断ばかり……!」

 抵抗するリアを前にバトルトは強引にリアを連れて行こうとするので私は考え込むのをやめてリアのもとに駆け寄りそのまま抱き留めるようにしてリアと密着しリアの手を取るバトルトの手を強くつかむ。私とバトルトでリアの体を引っ張り合わない様にするためだ他意はない。

「あれぐらいの数の魔物なら私の魔法でどうとでもなります。当然ですが二階層では第一階層よりも強力な魔物が出現します。それにダンジョンから出ることを目的としているのになぜ下層に降りるのですか?」

「さっき言ったことを聞いていなかったのか!? 魔物の数が多いからだ!」

「二階層にも今と同じ、あるいはそれ以上の数の魔物が押し寄せることになりますよ」

「第一階層と第二階層に出現する魔物の強さは大して変わらない! だから一度下に降りて状態を整えようと言っているのが分からないのか!?」

「第二階層に降りたところでまた今と同じような状況へと追い込まれるだけです」

 埒が明かないと判断した私は阿保三人を放置して後ろに迫ってきている魔物に向けて氷魔法を使う。

「倒せましたよ。これで第二階層に降りる理由はなくなりましたね」

 私は攻撃されない様に阿保三人の様子を魔法使用中も見ていたが阿保三人はこちらを睨みつけるだった。

「……いいから、行くぞ」

「どこに?」

「第二階層にだ!」

「ば、バトルト様……落ち着いてください……もう二階層に降りなければならない理由はありませんよ?」

 いまだにリアの腕を掴んでいるバトルトは、意固地になって第二階層に降りることを強制し始めている。そして、なぜかそバトルトのことをエメルとガルドは止めようとしていなかった。

「それがいい」

「僕も、そうするべきだと思う」

 有ろう事かガルドとエメルはバトルトの意見に賛同してしまった。……さすがに、おかしい。いくら阿保だとしても、見栄やらプライドがあったとしても、ここまで愚かな選択をするだろうか? しかしリア護衛用小型分身で調べても異変は見つからない。

「黙っているということは僕たちの意見を肯定してくれるという事でいいですか」

 エメルは落ち着いた様子で述べる。

「現在の状況を鑑みてそれでも第二階層に降りなければならない理由を示してください。でなければ付いて行くことはできません」

 何が、起きているのか、分からない。リアの命に……別状はないことだけが……唯一の救いで、それ以外が……心のHPゲージを……ガリガリと削っていく。どうすれば……いいの? 今私が取るべき行動は……何? とても嫌な予感がするのに……原因が分からないのは……なんで?

 ……私は本当に……この世界に……存在しているの? 今、私が……見ている物は……現実なの?

「ソルテット様……?」

 分からない、分からない、分から……ない……

「さっきも言っただろう、体勢を整えるためだ」

 バトルトが……そう答える。

「それはこの階層でも出来ると思います。それに、私がさっき魔物を掃討したのでいくらか時間に余裕があるはずです」

 おかしい、絶対に何かがおかしい。おかしいのはわかっている。だから、後は原因の追究だ。今の私は何者だ? 何を優先するべきなのか分かっているのか? 大丈夫だ、分かっている。優先するべきなのはリアの命だ。それ以外には何もいらない。では、これから私はどう行動するべきなのか? 分からない……わからないが、それでも行動に起こさなければ意味がないことぐらい…………分かって……は……ず。

「いくらかでは意味がないの。一度冷静になって、ここから出るために作戦を立てる必要があるでる。いくらかの時間ではとてもではないが足りないぜ?」

 支離滅裂な……語尾で……ガルドが……言った。

「そうかもしれません。ですが第二階層に降りたところでそのための時間が確保できる保証があるのですか?」

 私は……ガルドの……言葉を……否定……する。

「………………………」

 否定し……第二階層に……降りることを……拒絶したにも……関わらず……先ほどのように……阿保三人の誰かが……私の……言葉に異論を……口にすることは……ない。

「あ、あの……?」

 周辺は……異様な……雰囲気を……まとい……始め……る。

「一体何が……? ソルテット様?」

 …………………………………………

「え、なに……やだ……やめて! は、離して……離してください! 離して!」

 ……リアの……叫び声が……ダンジョン内に……響き渡る。


――敵だ――


 リア護衛用…………小型分身…………が……リアの…………生命力の…………低下を感……知し………………た。リアの命が危ない。

 訳も……分からないままに…………私は…………リアと……分身体と……リア護衛用小型分身に………………空間魔法の一つ『絶対防御』を…………付与する。

「くそっあと一歩だったのに!」

 知らない男の声が聞こえるのと同時に、『絶対防御』を付与したことで、濁っていた思考がクリアになっていく。

「精神汚染魔法……『悪魔の誘惑』」

 私の思考回路をめちゃくちゃにした魔法の名前だ。そしてそれは悪魔が使用する無属性魔法だ。

「へぇ……俺が使った魔法の名前を知ってるのか?」

 そのため必然と『悪魔の誘惑』を使えるこの声の持ち主は、悪魔であるということになる。しかし肝心の悪魔の姿が見えない。『絶対防御』があるので悪魔からの攻撃は一切受け付けていないにも関わらず。

「……逆に俺はお前が一体どんな手法を用いてこのガキを守ったのか分からないわけだ」

 やはり悪魔がどこにいるか分からな……いや、阿保三人の口が同時に同じ動きをしている。もしや悪魔は阿保三人に憑依しているのか?

「おっと、ばれちまったみたいだな」

 そんな声が聞こえたタイミングで阿保三人は糸の切れた操り人形のように脱力しその場に崩れ落ちた。その間に私はリアの様子を確認するが『絶対防御』に守られているリアは意識を失っているだけで命に別状はない。

 リアの状態を確認している間に阿保三人の体からは黒い煙のような物が立ち上っていた。

「そんなところにいたの」

「全く窮屈だったぜ」

 いまだに黒い煙のような物のままだというのに軽口をたたいているが……関係ない。先手必勝だ。使用するのは火属性の火魔法。拳大の炎を黒い煙に対して無数に飛来させるが、煙に直撃したその瞬間に炎は消滅してしまった。

「おいおい、いきなり攻撃してくることはないだろ……ちょっとぐらい――」

「黙れ。『悪魔の誘惑』が最大限効力を発揮するためには対話する必要があるってわかってるから」

「…………なぜそんなことまで……」

 呆然とつぶやく悪魔は未だに黒い煙のようで姿が定まっておらず隙だらけに見える。しかし、先ほどの火魔法が何の効果もなかったことを考えると煙のような状態であっても戦闘可能とみるべきだろう。

 加えて、あの悪魔はかなりの強者だ。『悪魔の誘惑』と言う魔法の存在を知っていてリア護衛用分身は能力の制限をしていなかったにも関わらずリアに対して『絶対防御』を使用しなければ自力で『悪魔の誘惑』の効果を振り払うことが出来なかったというのがその証拠だ。

「だから、手加減はしない」

 そういいながらも、私はライラ・ソルテットに掛けていた『絶対防御』を解いた。

「……てめぇ……言ってることとやってることが矛盾してるってわかってんのか?」

 あえて『絶対防御』を解いて『悪魔の誘惑』の影響下に置かれに行っている私に対して威圧的な言葉を悪魔は放った。だから私も悪魔に対して言い返す。

「殺す」

「やってみろガキがぁ!」

 煙が一か所に集まり人型になる悪魔に対して私が使用するのは、空間魔法だ。しかしこれは当然ながらライラ・ソルテットと同じ実力しか出せない分身には使用することなどできない。空間魔法を使用するのは、ダンジョン最下層にいる本体だ。私は空間魔法を使い最下層からダンジョン一階層に転移、悪魔に反応する時間を与えずに悪魔をダンジョン百五十三階層に強制転移。その後、私自身もダンジョン百五十三階層に転移した。ここは弱体化しているにも関わらず有り得ないぐらいに強かった悪魔がいた場所だ。

「な、なんだ!? どうなってやが――」

 状況を理解できていない悪魔に対して私は、蒼色の炎を音速に迫る勢いで飛来させる。先ほどとは比べ物にならないぐらい高威力の攻撃であるにもかかわらず火魔法は悪魔に直撃することなく消滅するが先ほどとは違いあたりに火の粉を散らす。

「目くらましのつもりかよ!」

「いい加減、『悪魔の誘惑』解除すればいいのに」

 意味もなく悪態をつく悪魔に対して私は同じ攻撃を続ける。

「意味ないってわかんないのか!?」

 悪魔の言葉に耳を貸さずに私は同じ魔法を使い続ける。最初は完全に消滅していた私の魔法は使い続けるうちに攻撃の余波をあたりにまき散らし始める。悪魔が私の攻撃を完全に無力化することが出来なくなってきているからだ。

 最初は火の粉をまき散らすだけだったのが魔法の発射数が増えるにつれて火の粉の規模は大きくなり炎と呼べる物になった。また音速に近い速度で放たれた魔法の威力を完全に殺すことも次第に出来なくなっていった。

 威力を殺しきれなかった魔法は次第に破壊不可能と考えれらているダンジョンを破壊し始めている。

 ダンジョンの百五十三階層は広大なため私の魔法の威力が壁にまで及ぶことはないが悪魔の立っていた床の部分はすでに破壊が進んでいる。

 破壊されたダンジョンは次第に土煙を立ち上らせるようになったが、私は気にすることなく魔法の使用を続けた。それも、悪魔の姿が完全に見えなくなるまで。

 土煙で悪魔の姿が見えなくなってから魔法の使用をやめた私に、悪魔は強襲してくる。

 前傾姿勢で私の元に悪魔は肉薄し黒い煙のようなものをまとった拳で私のことを殴り殺そうとする。敵の攻撃を私は氷魔法で生み出した氷の壁で防ぐ。しかし実際に敵の攻撃を防ぐことが出来たのは一瞬だ。

 悪魔の攻撃は余裕で氷の壁を破壊した。攻撃の威力も一切衰えていないみたいだ。

 だがその一瞬の隙に私は攻撃を避け、反撃に氷魔法を使用する。放たれるのは音速を超える直径一ミリにも満たない円錐形の氷だ。氷自体は悪魔に防がれてしまったものの衝撃を殺すことはできなかったようで悪魔は大きく体制を崩した。

 その隙に身体強化を全身に施したうえで脚部に圧縮した氷をまとい悪魔の顔面に蹴りを入れる。攻撃は瞬時に体制を整えた悪魔の手で受け止められてしまうが脚部にまとっている圧縮された氷が衝撃により圧縮から解放される。

 解放された氷は隆起して悪魔の手を貫通し頭部を強打する。圧縮されていた氷は極低温であり圧縮から解放された瞬間にその冷気を周囲にばら撒いたことで周辺の床は氷に包まれることになった。私は攻撃の反動と氷となった床を利用して悪魔から簡単に距離をとる。

「こんなことで俺の防御を――」

 外見的には変化がない悪魔に対して私は追撃を加える。一点に集中させた冷気を悪魔に対して投げつける。悪魔はこの攻撃を脅威とみなしていないのか二の腕部分で防御することを選択した。

 悪魔の二の腕部分に一点に集中させた冷気が直撃すると一点に集中させた冷気は辺りにまき散らされ、広大なダンジョンの通路を一部埋め尽くした。氷自体はそこまで分厚くはないがそれでも悪魔の行動を阻害することには成功した。極低温の氷は空気中の水蒸気を一瞬で凍らせ悪魔の行動を阻害している氷の周りには氷の結晶が発生している。

 相手が人間ならこの攻撃は致命的な損傷を与えることが出来るだろうが、相手は悪魔だ。効果があるはずもない。

「こんな攻撃じゃ、俺にダメージを与えることはできないぜ?」

 悪魔は自身の体を一時的に肥大化させることで動きを阻害する氷を簡単に破壊する。

「さあ、次はどうするつもりだ?」

「……私に、『悪魔の誘惑』を使用するのは無意味だと気付かないの?」

「どうだか。俺が気づかないだけで今も必死で防御しているだけって可能性も、あるだろ?」

「そう、なら好きにすればいい」

 この悪魔は私が何らかの魔法を使っていまだに『悪魔の誘惑』を防いでいるのだと考えているようだ。悪魔がこういう風に考えるのも無理はないだろう。先ほどまで私は『悪魔の誘惑』の影響下にあったのだから。

 しかし体内にデーモンコアを内包している私の肉体には若干だが悪魔的な要素が混じってしいる。だがそのお陰で、様々な魔法に対して耐性を得ることに成功している。恐らく悪魔的な要素が人間で言う『免疫』の機能を引き継いだ結果だろう。

「お前も、いい加減にしたらどうだ? 俺に対して四大属性の魔法は効果ないぞ?」

「どうかな」

 私は、無数の氷片を生み出して悪魔に向けて飛来させる。氷片は薄く目視しにくくなっているのだが悪魔はそれらを物ともせずに氷片を叩き割る。次に私は水を生み出しそれを一点に圧縮したのちに噴出口を限界まで狭めた状態で解き放つ。噴出口の大きさは約一ミリメートル。

 高い水圧が掛けられた水は堅めの金属でも一瞬で切り落とすことが出来る威力を持っているが悪魔はそれを手のひらで受け止める。

「今度は水遊びかよ、ああ?」

 悪魔は私を挑発してくるがどういう訳か私に対して攻撃してこない。悪魔はいつの間にか『悪魔の誘惑』の使用をやめている。もし仮に悪魔が『悪魔の誘惑』と他の魔法を併用できないのだとしても今は私に攻撃できるはずだ。

 悪魔が私を攻撃してこない理由は分からないが、私は攻撃を再開する。これが罠である可能性もあるがその場合は罠ごと悪魔を叩き潰すだけだ。

 私は氷の剣を形成したのちに悪魔に向けて無数の氷の礫を放ちながら距離を詰める。悪魔は私の放った氷の礫に対してなんの行動も起こさずに私のことをじっと見ているだけだ。氷の礫は悪魔の体にぶつかっても砕け散るだけでなんの効果もないように見えた。

 しかし悪魔が防御をしたわけでないので悪魔の体には確実にダメージが入っているはず。悪魔はこの程度の攻撃なら何の問題もないと思っているのかもしれないが雨だれ石を穿つ、だ。

 これを後一年ぐらい続けていたら確実に悪魔は死に絶えるだろう。普通の人は一年間も戦い続けることはできないだろうが私は一年間一度も休まずに戦い続けることが出来る。

 余裕な悪魔に接近した私は氷の剣を振り下ろすが氷の剣は悪魔の体に直撃したその瞬間に木っ端みじんに破壊されてしまう。粉微塵になった武器を一か所に集め剣の形を再形成し今度は氷の剣を振り上げるが、やはり武器は木っ端みじんとなってしまう。

「くだらんなぁ」

 攻撃をくらっても余裕そうな悪魔は隙だらけの私に攻撃を加える様子はないため私は悪魔から大きく距離をとる。

「余裕だね」

「余裕だとも。お前の攻撃は俺には届いていない」

 自身満々な悪魔の顔にはいやらしい笑みが浮かんでいる。

「逆に、俺の攻撃はお前の防御を突破した」

 意味の分からないことを悪魔は言うが、リアに掛けた『絶対防御』が破られていないため悪魔の言う事は残念なことにただの見栄だということが私にはわかってしまう。

「嘘つくの辞めたら?」

「嘘? 嘘なんかじゃない……現に、お前は俺に攻撃されていることに気が付いていない」

 悪魔が何を言っているのか分からないが、確かに私が悪魔の攻撃に気づけていない可能性はある。だが目の前にいる悪魔が扱うことのできる魔法には私が本気で構築した『絶対防御』を破るだけの力があるとは思えない。そもそも、私が使う『絶対防御』はヘルトアブルト大迷宮のダンジョンマスターからのありとあらゆる攻撃を防いで見せたのだ。

 こんな悪魔に破られるはずがないし、もし破られているのなら私が気づくはずだ。慢心しないためにもリア護衛用小型分身は常に最大限の警戒を払っている。これでリアに攻撃が通るということは私にはもうどうにもできないということだ。

「お前、俺をここに連れてきた時に使った魔法はどうしたんだ?」

 自身満々に言う悪魔を見て、私は悪魔が勘違いしていることに気が付いた。だがそれを教えてやるほど私は優しくない。

 私は悪魔を青い炎で攻撃する。悪魔に着弾した炎は拡散し辺りに散らばった氷や水を一瞬で水蒸気へと変貌させる。急激な体積の変化によって水蒸気爆発が起きるが私は爆発を気にも留めずに爆発の中心地である悪魔のもとに突っ込んだ。

 そこで見えたのは悪魔の全身が黒い煙のようなもので覆われている光景だ。悪魔は爆発の威力をものともせずに突っ込んできた私を驚愕の目で見るが、身体強化を施した私の肉体は爆発の威力では傷一つ付かない強度になっている。衣服にも傷が付いていないのは衣服自体が魔法で生み出した物品だからだ。

 私は悪魔がまとう煙に触れることを目的に、拳を叩き込むが衝撃はすべて殺され悪魔の体には届かなかった。

「貴様……!」

 悪魔が何らかの行動を起こす前に至近距離から青い炎を叩き込むが、やはり煙がすべてを無効化してしまう。脚部に氷をまとって蹴り上げてみるが、やはり効果がない。

 私は右手に炎を左手に氷をまとって黒い煙のようなものに連続で拳を叩き込んでみる。

「なんだ、この速度!」

 黒い煙のようなものはやはり私の攻撃をすべて無効化してしまうが、煙が今までに見たことのない動きをし始めた。この煙は私の知らない魔法でその効果はおそらく攻撃の威力吸収なのだろう。だが、私の『絶対防御』のように攻撃の無力化ではない。吸収できない威力の攻撃を煙に対して加え続ければいつかはこの煙を破ることが出来るだろう。

「は、なれろ!」

 悪魔は私の連続攻撃を受けて危機感を覚えたのか余裕の表情を消して全方位に対して闇属性魔法を使用した。波打つように広がる闇の波動はダンジョンの壁を含む様々なものを破壊していくが、残念ながら私の肉体を破壊するには至らない。

「貴様、ダンジョンより……!」

 私の肉体強度をこんな浅い階層のダンジョン壁と比べないでほしいものだ。依然として私の連打を食らい続けている黒い煙は次第に私が放つ攻撃の衝撃で揺らぎ始めている。

「クソガキがぁ!」

 悪魔は今更のように黒い煙をまとった拳を振り下ろしてくるが私は体を少し逸らし攻撃をよけて悪魔の腕に対して攻撃を加える。攻撃する際にもこの黒い煙をまとっていることからこの煙は攻撃の威力吸収だけではないことが分かるが、悪魔は攻撃にこの煙をうまく使用できていないので関係はないだろう。

 私は攻撃の手を緩めない。揺らぎ始めている部分を重点的に攻撃はしているが残念ながら煙を突破できる気がしない。

「無駄なんだよ!」

 一人で騒ぐ悪魔は自身を中心に闇を解き放った。この魔法は先ほどの魔法とは違い私が生み出した氷の礫のように物体として存在している。また闇属性魔法であるため火属性魔法や水属性魔法での破壊は難しいせいで私は悪魔から距離をとるしかない。

「雑魚が粋がってんじゃねえぞ!」

 なんの対処もできなかった私を悪魔は嘲笑うが、いまだに悪魔は物体として存在している闇の中に身を潜めていて傍から見れば安全な場所から啖呵を切っているだけの小物にしか見えない。

「殺してやる。今まで手を抜いてやってたが、それもやめだ」

 物質として存在している闇を縮める悪魔は先ほどまでとは違って常に全身に黒い煙のようなものを身に纏っていた。

「? 殺すなら早く殺しなよ? 何してるの? って言うかこれは殺し合いなのに、今更何言ってるの?」

「……死んで、後悔しろ」

「残念だけど死んだら後悔できないから。後悔させたいなら私を無力化しなきゃだね」

「いちいち気に障るガキだ!」

 怒気を露わに悪魔は私に向かってくる。私は左右の拳にまとっている炎と氷を解いて悪魔を正面から迎え撃つ。悪魔のまとう煙は少し前までは不自然に揺らいでいたが今は揺らぎを確認できない。あの程度の揺らぎならすぐに修復することが出来るということなのだろうか。

「死ねぇぇ!!」

 私に攻撃を仕掛ける悪魔は怒りにとらわれていて冷静さを欠いているように思える。それが原因で隙が生まれればいいのだが、残念ながら怒りが原因で生まれる隙をついたところで私は悪魔に有効打を叩き込める気がしない。

 悪魔は私からかなり距離がある場所で拳を振るう。普通なら当たるはずのない攻撃だが、いやな予感がして私はとっさに屈む。

 私が屈んだ直後に、衝撃波のようなものが通過する。恐らく私に傷をつけることが出来るような威力ではないが、問題はそこじゃない。

「今の攻撃、どうやったの?」

 私はさっきの攻撃を感知することが出来なかった。第六感的なもので私は攻撃を感知できたがそんな曖昧なものに頼っていては敵の攻撃をすべて避けることはできない。

 そして感知できなかった攻撃の中に私に対して致命的なダメージを与えることのできる攻撃が混じっている可能性は確かに存在している。

「教える分けねぇだろうが!」

 悪魔はまたしても拳を振るう。第六感は働かなかったため私は先ほどの攻撃を参考に特定の打点から直線状に感知不可能な攻撃が飛んで来ると考えて私は大きく右に回避行動をとる。

 しかし悪魔の攻撃は私の頭部を激しく強打した。

 感知できない攻撃はどうやら変幻自在に軌道を変化することが出来るみたいだ。

「おら、避けてみろよ!」

 それから、私は感知が出来ない攻撃に滅多打ちにされ始めた。先ほどまで悪魔は拳を振るって攻撃していたにも関わらず今の攻撃は何の予備動作もない。ただ悪魔から感知のできない攻撃が放たれた際には悪魔のまとう黒い煙のようなものが激しく揺らめている。

 あの煙は一体どういう役割を果たしているのだろうか。

「死ね!」

 悪魔は、再び拳を振り上げた。悪魔との間に氷の壁を生み出した私は跳びあがり天井に手を突っ込むことでダンジョンの天井にぶら下がる。

 破壊されたのは一か所のみでそれは悪魔の攻撃の直線状にある場所だった。氷の壁はすぐに複数個所が破壊され穴が開き始めるが一番最初に空いた穴が一番大きくそれ以外の穴は最初に空いた穴の半分以下の大きさしかない。

 また最初に空いた穴は氷の壁に向かって垂直に近い角度で力が加えられていたのだがそれ以降に空いた穴には氷の壁に向かって様々な角度から力が加えられているようだ。

 ここから考えられることは強力な攻撃は変幻自在とは言えず使用する際には予備動作が発生するのではないかと言うことだ。

「いい加減に出て来いよ!」

 氷の壁はもうすでに半分近く破壊されている。天井に張り付いていてもいつかは悪魔に見つかってしまうだろう。

 私は天井に突き刺した腕を引き抜く。その際に壊れて崩れたダンジョンの壁の欠片を手に取る。

「そこにい――」

 自由落下に身を任せ破壊された氷の壁から悪魔の位置を確認した私は手に持っていた壁の欠片を悪魔に向かって投げつけた。投げつけた欠片はやはり黒い煙のようなものに阻まれて悪魔には直撃しなかった。

「……諦めて、俺に殺された方がいいんじゃないか? お前じゃ俺にダメージを与えることはできんだろ」

 悪魔に破壊されたとはいえ半分以上は残っている氷の壁を一か所に集めて悪魔に向けて放つ。氷が悪魔に破壊されたことを確認してから私は破壊された氷の陰に隠れながら悪魔との距離を詰める。

「ばれてんだよ!」

 感知することのできない攻撃が私の腹部に直撃するが身体強化を施す私にはなんのダメージもない。さっきの攻撃は私だけではなく私が体を隠すために使っていた氷も破壊していたみたいでもう私の体を隠すものはなくなってしまった。

 それでも、私は悪魔との距離を詰める。

「自棄になったか!」

 悪魔の攻撃は私の体の至るところに直撃するが私の行動を阻害するほどの威力は持っていなかった。

「なんでそんなに固いんだ!」

 手を伸ばせば届きそうな距離にまで近づいて隙だらけに見える悪魔に向けて火魔法を使う。悪魔の姿を覆いつくす勢いをもつ炎だが、炎は悪魔がまとう黒い煙のようなものに触れた瞬間に掻き消えてしまった。

「無駄なんだよ!」

 悪魔が私に向かって蹴りを放つが私はそれを素手で受け止めた。しかしどういう訳か攻撃の衝撃は私の素手ではなく私の横腹に突き刺さった。無防備だった横腹に攻撃を受けてしまった私は攻撃の衝撃で体が浮いて、吹っ飛んでいってしまう。

 吹っ飛んでいった私の体はダンジョンの壁に直撃しダンジョンの壁に体の一部が埋まってしまう。

「もらった!」

 ダンジョンの壁に埋まった私に向けて悪魔は拳を振るう。悪魔の攻撃は見事に私の頭部に命中し私の体をさらにダンジョンの壁に埋め込んだ。

「もう一発!」

 調子づいた悪魔は再度拳を私に向けて振るった。だがその瞬間に私は悪魔の腕に向けて火魔法を使用し火柱を立てた。

 魔法発動地点はダンジョン百五十四階層。私たちが今いるのはダンジョン百五十三階層でダンジョン百五十四階層で発動した魔法をダンジョン百五十三階層に届かせるためにはダンジョン百五十四階層の天井をぶち抜かなければいけないのだが、この階層を形成しているダンジョンの壁や床は柔らかい方だ。火魔法で生み出した火柱でダンジョン百五十四階層の天井を焼き切るのはそう難しいことではない。

 ダンジョンの天井を焼き切り悪魔の腕に向けて放たれた火魔法は、悪魔の腕を焼き切った。

「………………あ?」

 自分の腕が切り離されたことに驚愕したのか私の火魔法に有効打を与えられたことに驚愕したのかは分からないが、悪魔は自分の腕を見て硬直している。

 私は悪魔が硬直している内にダンジョンの壁から這い出るが、悪魔は私がダンジョンの壁から這い出ている間も私が這い出た後も硬直したままだった。

「は? …………はぁ?」

 悪魔は、闇属性の魔力で構築されている魔力生物だ。今は無属性魔法の一つである変身魔法で人の姿になっているが人間のように血が通っているわけではないので焼き切られた腕の断面に見えるのは血肉ではなく単なる闇属性の魔力だ。

「ど、どうなって、やがる……」

 焼き切られた腕を呆然と見つめていた悪魔は私のことを見る。

「い、いまお前が使ったのは火魔法の…………はず……」

 自信なさげに聞く悪魔の魔力がどう変化しているのかに注視している私は、時間稼ぎのためにも悪魔に応える。

「そうだよ。私が使ったのは四大属性の内の一つである火属性魔法の火魔法で間違いない。悪魔の体が闇属性魔力で構築されていることを考えると火属性魔法は相性最悪。相当な実力差が無いと悪魔に火属性魔法でダメージを与えることはできない」

「……それは、いや、でも……そんなことが……」

「女々しいなぁ」

 悪魔の魔力に問題が無いことを確認できたので私はこの戦いを終わらせるために魔力を右腕に集めたうえで身体強化魔法を使い右腕を重点的に強化する。

「どうなって――――」

 悪魔は私が使った身体強化魔法に使用した魔力量を感じ取って呆然としているみたいだ。

 私は悪魔との距離を一蹴りで詰め強化した右腕を使い悪魔を地面に叩きつけるようにして、殴った。

 轟音が鳴り響きすさまじい衝撃とともに土煙が一気に立ち込める。

 殴られた悪魔は攻撃を黒い煙のようなものでは受け止めきれずにダンジョンの床に叩きつけられた。私の攻撃が強かったせいかダンジョンの床が脆かったからなのかは分からないが悪魔はダンジョンの床を突き破りダンジョン百五十三階層よりも下の階層へ移動してしまった。

 私はなんの躊躇もなくダンジョンの床にできた穴に飛び込んだ。

 少しして私は悪魔のいる階層まで落下してきた。数えると突き破られたダンジョンの床は八枚だった。つまり私の攻撃で悪魔はダンジョンの床を八枚も突き破り百六十階層まで落ちてきたということだ。

「はぁ……はぁ……はぁ……くそ、どうなってやがる」

 悪魔は体の自由が利かないのか地面を張って移動していた。また私が来たことに気が付いていないようだ。

「どこに行くの?」

「くそがっ……ちょっとぐらい隙を見せてくれてもいいんじゃないか?」

「だから、私には『悪魔の誘惑』は意味ないって」

「そうかよ、くっそ」

 起死回生を狙って『悪魔の誘惑』を悪魔は使用したみたいだが、私に効果はない。それに私が隙を見せることも、おそらくない。

「はぁ……はぁ……な、なんで俺を生かしてるんだ」

「なんでだと思う? ちょっと考えてみれば?」

「わ、分からないから効いてるんだが?」

「それも、そうだね。じゃあ教えてあげよう。私はね、情報が欲しいんだ」

「じょ、情報? い、いいぞ。何でも応えてやる」

「それは、いいかな」

「な、なんでだ! 情報が欲しいんだろ!?」

「その通り。でもさ……別に、貴方の口から聞き出さなきゃいけないってわけじゃない」

「……は? お前、もしかして、ダンジョンにとらわれた二柱の悪魔を消したしたやつなのか……?」

「……より一層に、貴方が持つ情報を得なければならない状況になっちゃった」

 私が悪魔を討伐したのは確かだが、なぜそれを他の悪魔が知っているのだろうか? 私はすでに二体の悪魔を倒し二体分のデーモンコアを体内に保有し悪魔二体分の記憶を所持している。

 だが、あの悪魔二体は戦闘関連の記憶しか所持していなかったため悪魔の生態については何の情報も得られなかった。そのため悪魔は悪魔同士の間で交信を可能とする特殊なネットワークを所持していている可能性を否定できない。

 もしかしたらそこからダンジョンにいた二体の悪魔が倒されたことを知ったのかもしれない。

 だがそうなると、私は大きな失態を犯してしまったことになる。

 悪魔同士が特殊なネットワークでつながっていた場合、私と目の前にいる悪魔が戦っていた情報が他の悪魔に知られてしまうからだ。

 姿形を変えるのは簡単だが探知魔法から逃れるために魔力反応を変化させるのは至難の業だ。私は魔法発動の痕跡を残さなかったり私の魔力反応を探知魔法では探知できない様にして対策しているのだが残念ながら悪魔を欺くことが出来るほどではない。そのため私がどう足掻いたとしても悪魔から隠れることが出来なくなってしまう。

 隠れることが出来なくなるということは目の前にいる悪魔と同じ方法で奇襲を仕掛けられる可能性が無くなるという事でもあり私を無力化する作戦が立てられ実際に無力化される可能性が出てきてしまうという事でもある。

 それともう一つ。目の前にいる悪魔はなぜか私が口から聞き出さなければならない訳ではない、と言う言葉から二体の悪魔を倒したのが私だと考えるに至ったのだろうか?

 まあ、こうしてグダグダと考え続ける意味がない。実際に悪魔が持っている記憶をのぞかせてもらおう。

「や、やめろ!」

 私は悪魔の頭部を鷲掴みにして持ち上げる。

「クソが! 辞めろって言ってんだよ!」

 悪魔は自身を中心に闇を解き放った。実態の伴う闇は私を押しのけようとするが私は闇に対して光属性魔法を使用。悪魔が解き放った闇はまるで飴細工かのように一瞬で粉々に粉砕された。

「は、はぁ? な、なんでだよ。お、おかしいだろ……『悪魔の誘惑』は効いているはずだ……」

「私が貴方を一撃で殺す方法を持っていながら使っていなかったのは貴方の魔法が私に効いたからだと勘違いしてた?」

「畜生……最初から俺の心臓が狙いだったのかよ……!」

「心臓、ねぇ……あなたたちはそう呼んでいるんだ」

 私は、悪魔の頭部を鷲掴みにしている手のひらから炎を噴出する。

「クソが! 離せ……! 離しやがれ……!!」

 悪魔はじたばたと暴れるが私の拘束から抜け出すことが出来ていない。私は拘束系の魔法を使用しているわけではない。悪魔を拘束しているのは私の握力だけだ。

 ただの握力から逃れられないことを考えると悪魔はすでに瀕死状態なのだろう。それか、私が感知できなかった魔法の発動に意識を割いていてちゃんと藻掻く余裕がないのだろうか。

「くたばりやがれ!」

 どうやら、後者だったようだ。悪魔を掴んでいる腕に対して衝撃が加わった。続いて顔面に。やはり、一体どうやって私に攻撃を加えたのかが分からない。今までのどんな攻撃よりも威力は高いが身体強化魔法を使っている私をどうにかするにはまだまだ威力が足りない。

「クソが! 硬すぎるんだよ!」

 悪魔は悪態をつくが、私には関係ないことだ。これ以上抵抗されない様に私は噴出する炎の威力を上げる。

「ぐあああぁぁ! 離せ、離せぇぇぇ!」

 より一層激しく暴れる悪魔だったが、悪魔はもう私に魔法を使って攻撃する余裕がなくなってしまったみたいだ。悪魔はデーモンコアになるまでずっと藻掻いているだけだった。


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