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 それから、少しの時間がたった。試験は無事に終了し、瀕死の重体にあった私の分身に付いた傷はすべて無くなったが未だに昏睡状態にある。

 私の分身体はゲームと同じようにしばらくの間は昏睡状態が続くし、もし目を覚ますことが出来る状態になったとしても私が操作しなければ私の分身体が動くことはない。

 リアや阿保三人は日常生活に戻ったようで今も教室で授業が始まるのを待っている。

 護衛のために着けた分身から阿保三人の様子もうかがっているがリアと阿保三人の関係は幻覚の森での試験が開始される前から大して変わっていなかった。

 ゲームでもそうだったのでひとまずは安心できるがゲームとは違うタイミングでリアが回復魔法以外の魔法を、攻撃魔法を使ったことがやはり気がかりだ。

 そういえば阿保三人は幻覚の森で過ごした三日間のことをどう思っているのだろうか?

 ゲームでもそうだったが阿保三人は幻覚の森でかなりの醜態をさらしたにも関わらず落ち込んでいる様子も、醜態をさらしたことを気にしている様子も見られない。

 図太い神経の持ち主だと言えばそうなんだろけれど……なんとなくこの阿保三人の様子もまたゲームとはほんの少し変わってしまっている気がする。

 そもそも私がゲーム通りに動くつもりなどないのだからゲームと今後の展開が一致する確証はない。

 だから私はできうる限りの情報を集め事に当たるしかない。私の一番の目的はリアを守ることである。必要であれば殺しもするし拷問だってする。私は、そういう覚悟を持っているつもりだ。

「これから試験の結果を発表したいと思います……まあ、今回の試験に順位はありません。試験に合格することが出来たのか、できなかったのかを、この場で発表することが目的だ……」

 教室に到着した途端にハーライト教員は含みある声で全体に声をかける。

 ハーライト教員は手持ちサイズの黒板のようなものを持っていてそこには幻覚の森での試験に失敗した人物の名前が書き連ねられていた。

「では……そうだな……まず最初に、バトルト、ガルド、エメル、リアの四人……ははっみっともないな。根拠のない自信を持つ愚か者だ。この四人は戦闘禁止とされたモフォバを三十体近く討伐したばかりかまじめに試験を受けていた生徒を一人殺しかけている……教育機関内では被害者が望めば退学にするべきだと言う教員が多い……場合によってこの四人は教育機関から去ることになるだろう」

「は、はあぁ!? ふざけんなよ!」

 ハーライト教員の嘲笑とともに発せられた言葉に憤慨するガルドだがハーライト教員はガルドに取り合わずに阿保三人達と同じように試験に不合格だった人物の名前を挙げていく。

 その中にはバトボットも含まれているがバトボットたちは不満を口にすることはなくただ俯いているだけだった。

 教育機関は調子に乗った貴族の子供に現実を見せるのに成功した。しかし、例外は残念なことに存在する。その例外とはもちろんガルド、バトルト、エメルの三人である。

「試験結果の発表も終わったことだし……予定通り授業を行います」

 ハーライト教員は阿保三人を睨め付けながら、言う。

 阿保三人は試験結果の発表中ずっと文句を言っていたのだがハーライト教員に睨みつけられると黙るしかなかった。

 阿保三人は自分の親が持つ権力を振るおうとはしなかったがそれも時間の問題だと思わせるぐらいに阿保三人はみっともなかった。だがリアはその後も、阿保三人に対する態度を変えなかった。ここはゲームと同じで少し安心した。

 試験結果の発表から少しの時間がたち、私が目を覚ませる状態になった。結局私は昏睡状態にあった分身体になんの魔法も使っていないし魔法の状態を更新する必要性も生まれなかった。

 ゲームと同じタイミングで私の分身体は昏睡状態から回復したからだ。

 目を覚ましたのは五月の中頃だが……実はゲームと同じで六月に実施される試験の内容は私が目を覚ませる状態になる一日前に発表されていた。

 私はリアに着けている護衛用の分身体から試験内容を耳にしているが……試験の内容はゲームの内容と全く違っていた。

 目を覚ました私はハーライト教員から試験内容について説明を受けている最中だが、正直に言うと信じられないし信じたくもない。

「六月にも試験は行われます。実施日は六月が始まったその日から二週間……試験場所は世界最大と噂されるヘルトアブルト大迷宮です。大まかに話すと試験内容としてはヘルトアブルト大迷宮での魔物素材の収集となります。低い階層に出現する魔物素材でも深い階層に出現する魔物素材でも構いませんが収集された魔物素材に応じて収集してきた個人あるいはパーティーに点数が与えられます。六月の試験は五月の試験とは違い基準点が設けられています。もし与えられた点数が基準点を超えれば超えた点数が成績に加算されます。パーティーを組んで挑んだ場合でも基準点は同じですが基準点を超えて成績に加算される点数はパーティー人数分に分割されて均等に配布されます。一人でこの試験に挑み基準点を超えた場合は当然ながら点数は独り占めすることが出来ますがヘルトアブルト大迷宮に一人で挑むというのはかなり危険だ、ということを頭に入れておくように。逆に与えられた点数が基準点を超えられなかった場合、基準点に届かなかった不足分の点数が成績から減算されますが減算される点数はパーティーで分割されることはありません。基準点が五点だとして四人パーティーが九点をとった場合、パーティーメンバー全員の成績に一点ずつ足されますが四人パーティーで一点しか取れなかった場合は四人全員の成績から四点ずつ引かれていく、ということです。基準点と同じ点数を得た場合は成績の点数に影響はないので基準点と同じ点数をとることを目指すというのも、一つの手です」

 ヘルトアブルト大迷宮……最高到達階層が二十階層であるのに対して最下層が二百二階層もある巨大ダンジョンだ。このヘルトアブルト大迷宮が私以外に攻略されない原因は出現する魔物が多すぎるからだ。

 十五階層階層まで潜ることのできる冒険者が物量で押されて第一階層で死んでしまった、なんて噂話があるぐらいに、出現する魔物の量が多い。

 そんなダンジョンに試験と評して学生を送りだすなんて、この試験内容を決定した人物の神経を疑いたくなる。

 ゲームでは六月の中頃に試験が実施されるが内容は魔法陣を描くというものでなんの危険性もない試験内容となるはずだった。

 ゲーム内で実施された魔法陣を描くという試験の結果で七月の試験内容が決まっていたのだが、今回の試験もその役割を果たせるだろうから今後もゲームの展開通りに進む可能性はある……あるが、怪しくなってきた。

 だが少なくとも幻覚の森での試験ではゲームと同じように物事が進んでいた。

 私からの干渉が少なかったからだろうか? それとも私が忠実にライラ・ソルテットを再現できたからだろうか? いや、それでいえば私はリアに侍女をつけるように国王に直談判しに行ったにも関わらずリアに侍女は派遣されなかった。これはどういうことなのか? ……そういえば、私はあの時、あのタイミングでリアに対して護衛用の分身をつけた……それが原因なのか?

「ライラさん? 大丈夫ですか? 何やら考え込んでいるようですが」

「あ、すみません。気が散っていたようです」

「そうですか……では試験の説明に戻ります。試験の内容は先ほど述べた通りですがこの試験にも前回の試験同様に禁止事項があります。今回の試験では武器、防具、ポーションなどのダンジョン内で使用される消耗品の購入にダンジョンで得たお金以外を使用してはいけません。また、ダンジョン攻略のために武具の更新やポーションを購入するにはシトラル教育機関が指定した場所でダンジョンに潜って得た魔物素材を換金して得たお金を使用してください。シトラル教育機関入学時に支給された武具は使用していただいても構いませんがダンジョンに深く潜るつもりなら心もとない装備であることは覚えておいてください。ですが今回の試験では不正を働いても良いものとします。しかし、それはシトラル教育機関が不正の証拠を掴めなかった場合に限ります。禁止事項を破り親族などから与えられたお金を使って武器や防具、ポーションを購入した場合、銅貨一枚に付き百点が成績から減算されます。また禁止事項を破った場合に課せられる得点の減算は試験終了後に行います」

 ハーライト教員から試験についての話を聞いたがやはり不正をしようとする生徒が現れるとは思えない内容となっている。

 冒険者がダンジョン内に持ち込むポーションの価格平均は銀貨一枚……今回の試験で不正を働き銀貨一枚するポーションを一つ持ち込んだだけで千点を失う可能性があるのだから。

「それから、今回の試験における基準点は二百点となります。では収集した魔物素材の点数配分などを伝えます。魔物素材の点数は魔物が出現する階層の数字分とします。そのため第一階層の魔物なら一週間の間に最低でも二百体は討伐しなければならないということです。そして、ダンジョンで得た魔物素材は冒険者と同じように冒険者ギルドにいる受付嬢に提出してください。また、提出する際にはこの臨時冒険者カードを提示し魔物素材を換金するのか試験の得点とするのかを受付嬢に伝えてください。ああ、それとダンジョンに入る前に受付嬢に臨時冒険者カードを提示することを忘れないでください。この処置は全員行って下さい」

 ハーライト教員が話したように今回の試験での基準点は二百点。銀貨一枚のポーションを一つ買いそれがばれると基準点を満たす点数を得るためには合計で千二百点が必要となるが千二百点を稼ぐためには十二階層の魔物を百体も倒さなければいけなくなってしまう。ポーション一つを手に入れるために掛けるべき労力ではない。

「試験の説明は以上となります……何か質問はありますか?」

「……一つ、いいでしょうか?」

「なんでしょう?」

「冒険者は、消耗品という判定ではありませんよね?」

「……もちろん」

 これはリアに着けている護衛用の分身から試験内容を聞いた時から思っていたことだ。わざわざ不正をしても構わないと口にするのはおそらく今回の試験でダンジョン探索で得たお金以外を使用する方法があると遠回しに生徒たちに伝えるためだろう。

「やっぱり、頭が回る。実は、昨日の内にあなたのクラスメイトには今話した試験内容を伝えているの……でも、冒険者が消耗品と判断されるのかを聞いてきたのは貴方だけ」

 楽しそうに笑うハーライト教員は席を立つ。

「これも昨日、話した事ではあるけど……何かわからないことがあれば遠慮なく聞きに来て」

 そういって、ハーライト教員は部屋から出ていったのだった。

 私が試験の内容についてハーライト教員に教えてもらった次の日から私はシトラル教育機関の学生としての日常生活に戻ることになる。

 だが、それまでに考えなければならないことが、決めておかなければいけないことがある。それは、私が今後どういった立ち居振る舞いをしていくか、だ。

 私の目的がリアの命を守ることである以上、私が悪役令嬢となる方が都合がいい。

 私が悪に振り切ることで私をリアに殺させてリアを守るという判断をしなければならない時にリアが私のことを殺しやすくなるからだ。

 そのため私が悪役令嬢となることは決定しているが、悪役令嬢となるタイミングを考え直さなければならない。

 なぜか? それは私が悪役令嬢となりリアをイジメると六月に実施される試験に影響しかねないからだ

 試験内容が発表された時点でリアは阿保三人とパーティーを組むことが決まった。

 そのことは私としては安心できる内容ではあった。なぜならリアを気に掛けないものの阿保三人の実力は高いからだ。

 不安なのは阿保三人でもダンジョン探索の中で命を落とす可能性があるということだ。阿保三人が命を落とすのなら回復魔法しか使えないリアもまた命を落とすことになるだろう。

 しかし阿保三人の実力を考えると即死するということは考えにくい。幻覚の森の時のように必死にあがいてくれるだろう。

 必死にあがいている阿保三人がどうなるかは分からないけどリアの回復魔法があれば阿保三人の生存率は高くなる。阿保三人の生存率が高くなるということはリアの生存率も高くなるのだがここで懸念されるのはリアの回復魔法は不完全な状態にあるということだ。

 普通の魔法使いに不完全な状態の魔法と言うのは存在しない。それは大半の魔法使いが魔法陣を介して魔法を使用しているからだ。

 魔法陣とは、特定の性質を持つ魔力を放った際に起こる魔力現象と特定の状態を保つ魔力現象が引き起こす魔力現象を理論的に組み立てるためのテンプレートである。

 テンプレートは決まった事象を再現する枠組みであると私は考える。理論的に決まった事象を再現するための枠組みを組み立てるのだから枠の組み方が間違っていた場合、決まった事象は起こらない。

 そのため魔法陣を介して魔法を発動する場合は不完全な状態の魔法など存在しない。

 ではどういう場合に不完全な魔法が発動するのかと言うと魔法陣を介して魔法を発動しない場合、つまりは感覚的に魔力放出を行い魔力現象を起こしそれを魔法とした場合だ。

 極大属性には魔法陣が存在していないためリアは感覚で光属性魔法を使っている。

 だがこの場合に問題となるのは魔法を使う感覚を忘れてしまった場合、魔法が使えなくなってしまうということだ。

 これは魔法を使用する方法の主流が魔法陣を介した魔法になった理由と絡んでくるのだが感覚と言うのは、忘れやすい。例えば、極限状態にあった場合や長期間にわたって魔法を使用していなかった場合など多岐にわたるのだが精神的に病んでしまった場合、病んでしまう前は覚えていた魔法を使う感覚を忘れることがあるのだ。

 ゲームでは悪役令嬢となったライラ・ソルテットからイジメられたリアは一時的ではあるが精神を病んでしまった。

 精神を病んでいた期間は試験期間と被っていたがゲームの試験には危険がなかったので何の問題もなかったが、今回の試験はそうではない。

 もし私がゲームの通りに動いてリアもゲームの通りに精神を病むとすれば、リアはダンジョン探索で回復魔法が使えなくなってしまう可能性がある。回復魔法が使えないということは有事の際に生還率が下がることと同義だ。

 別に護衛用に着けた分身体を使えばリアの命を守ることはできるが今後の展開に影響する可能性があるのでできる限り使いたくはない。そのためリアには自力で今回の試験を乗り越えてもらいたい。そのためには回復魔法を使える状態で試験に挑んでもらわないといけないのだ。

 これらの事情があるため私はゲームと同じ時期に悪役令嬢になることはできない。では、一体どの時期に悪役令嬢となるのか、悪役令嬢となるまでの期間で私はリアに対してどんな反応を見せれば良いのか。それを考えなければならない。

 しかし、どうするべきかを考えている内に日が昇ってしまい、私はリアに対する反応をどうするかを決めきれずに次の日を迎えることになってしまった。

 募る不安が表に出ないようにしながら私は教室に入る。私が教室に入ったところで私に視線を向ける人物はいない。

 私は今まで他人との接触を避けてきたので仕方がないだろう。それはそうと、リアが昨日から思いつめた表情をしているのが気になってしまう。現段階ではゲームの知識が全く通用しないのでリアの考えていることが全く分からないのが余計に私の不安を募らせる。

 焦れば焦るほど考えはまとまらなくなってしまう。だからと言って素の私がリアと関わると今後の展開に大きく影響してくるだろうから、素の私をリアに見せることはできない。

 私は、演技上手ではない。今まではゲームでのライラ・ソルテットの反応を覚えていたから何とかなっただけなのだ。

 どうすれば――

「あ、あの……少し、いいでしょうか?」

 話しかけてきたのは、リアだ。接近に気づいていないわけではないけど話しかけてくるとは思わなかった。

「……何?」

 とっさに出た私の声は、酷く突き放すようなリアに対して攻撃的であることを示すような声色だった。

「そ、の……六月の試験について、相談したいことが……」

「…………」

「えっと……私、ガルド様とエメル様……それにバトルト様と一緒にパーティーを組むことになったんです……それで、その……わ、私のパーティーにソルテット様も加わってくださいませんか!」

 私がどう返事しようかと内心であたふたしている内に、リアが話を続けた。しかし、その話の内容は今の私から見ても到底受け入れることのできない内容だった。

「貴方達が、私に何をしたのか忘れたの?」

 思わず素が出てしまったが、前後の私の態度からすればこういう風な言葉をリアに投げかけるのは不自然ではないだろう。

「覚えています……覚えているから、謝りたいんです」

 パーティーを組もうと誘うことが謝罪とどう関係しているのかわからないけど、ここで私の態度が変わるのはリアに猜疑心を植え付けることになるかもしれないので、今までの私がリアに対してとった言動に合わせなければいけなくなってしまった。

「具体的には?」

「その……今回の試験は前回のように一人で挑むのは危険だと思うんです。ですが、試験の内容が知らされた直後に皆さんはパーティーを組まれてしまいこのままではソルテット様は一人で試験に挑むしかないことに気づきました。その時にこれはソルテット様に謝る機会になると思ったんです。言葉だけで謝るのではなくて行動で……私が前回の行動を反省し次に繋げている……自分が何をしてのか理解していることをソルテット様に行動と言葉で伝えることが、ソルテット様に対する謝罪になると、思っています……私……私に謝罪する機会を与えてはくれませんか?」

 リアを拒絶することは簡単に思える……しかし、これはチャンスなのではないか? 阿保三人は前回の行動を反省などしていないだろうからきっと今回の試験でも問題を起こすだろう……その問題を利用して今回の試験終了後に悪役令嬢となればいいのでは……?

 これは、明らかにギャンブルの要素を含んでいる。しかも、リアの命を懸けたギャンブルだ。慎重になる必要があることは間違いないが……今後のことを考えると今回のギャンブルに乗る方法が一番だ。いや、そもそもこのギャンブルに乗る以外の方法が思いつかない。少なくとも一晩考えて何も思い浮かばなかったことは確かだ。

「……わかりました」

「ほ、本当ですか!? では他の三人にも許可をとってきます!」

 リアは嬉しそうに阿保三人の説得に向かったのだが……こういう場合はまず最初に阿保三人から同意を得ておくものではないだろうか?


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