第十話:嘘つきの石が、永遠を誓うとき
すべてが解決し、平穏が戻った王宮の夜会。 夕暮れから夜へと変わる「マジックアワー」の時。
アレクセイは、テラスの手すりに寄りかかるリリアの背中を見つめていた。 彼女は、今日も飽きずにアレクセイの瞳を「国宝」「至高の推し」と崇め、騒がしくも愛しい時間をくれた。
「……リリア」
「はい! なんでしょう、アレク様! ……ああっ、今のロウソクの光で、瞳の色が深紅に……! 尊い……!」
振り返ったリリアは、いつものように興奮して頬を染めている。 アレクセイは苦笑しながら、けれどその瞳には、かつてのような自嘲の影はなかった。
「君は本当に、この瞳が好きなんだな」
「当たり前です! 昼は知的な青緑、夜は情熱的な赤紫。一つの石に二つの顔を持つ、この変色効果こそが奇跡なんです!」
リリアの言葉に、アレクセイは静かに首を振った。
「昔は、この瞳が嫌いだった。色が定まらない、嘘つきの石だと疎まれてきたからな。……でも、君が『推し』だと叫び続けてくれたおかげで、僕は自分の色を愛せるようになった」
アレクセイは一歩近づき、リリアの手を取った。 彼の表情から、いつもの「捻くれ」た態度が消え、真剣な眼差しがリリアを射抜く。
「契約は、今日で終わりにしよう」
「えっ……? そ、それは、どういう……」
リリアの顔から血の気が引く。アレクセイは、慌てる彼女の左手を強く握り直し、ポケットから小さな小箱を取り出した。
「勘違いするな。……『契約』を終わらせて、『誓約』にしたいと言っているんだ」
アレクセイはリリアの前に片膝をついて、小箱を開けてみせた。 そこにあったのは、アレクセイの瞳と全く同じ輝きを放つ、大粒の宝石がついた指輪だった。
「こ、これ……まさか……」
「『ジェムエンゲージ』だ。僕の魔力を極限まで凝縮して生成した、この世にたった一つしかない僕の瞳」
アレクセイは指輪を摘み上げると、夕暮れの残光と、テラスの照明の光にかざした。指輪の石は、見る角度によって鮮やかな緑と、妖艶な赤にチラチラと色を変え、まるで生きているかのように輝いた。
「この指輪を作るために、僕の魔力の半分を持っていかれたよ。……重いだろう?」
彼は冗談めかして言ったが、その声は震えていた。 ジェムエンゲージは、自身の命の一部を相手に預ける、究極の自己犠牲と守護の証。
「僕はこの指輪を通して、僕の命と、僕の二面性のすべてを君に捧げる。昼の僕も、夜の『影』としての僕も、すべて君のものだ」
アレクセイは、震えるリリアの薬指に、その指輪を滑らせた。
「リリア。僕の『鑑定士』は、世界で君一人だ。……どうか、死ぬまで僕のそばで、この面倒な男を愛でてくれないか?」
リリアは、指に収まった指輪を見つめ、大粒の涙をこぼした。 宝石オタクとしての感動と、一人の女性としての歓喜が、胸の中で爆発していた。
「……っ、重くなんて、ありません……!」
リリアは泣き笑いのような顔で、立ち上がったアレクセイを見上げた。
「私の大好きな『推し』の命が詰まった指輪なんて……これ以上の宝物が、この世にあるわけないじゃないですかぁっ!」
「……はは、やっぱり君には敵わないな」
アレクセイは愛おしそうに目を細めると、リリアの腰を引き寄せた。 二人の距離がゼロになる。
「愛しているよ、リリア。君は僕の、唯一無二の光だ」
重ねた唇の先で、二人の愛を祝福するように、アレキサンドライトの指輪が情熱的な赤色に煌めいた。 それは、「嘘つきの石」が「真実の愛」に変わった、永遠の瞬間の輝きだった。




