風の少女とのお話
トルネア。
ここの街の名前はそう呼ばれるらしい。
ここは飛空挺の補給地点のような所で、街には疲れを癒したり遊ぶための娯楽施設が沢山存在する。
今は夜だからなのか、娯楽の中に十八禁指定が入りそうな店があるが、まあ一生関わることはないだろう。
そんな街を、誠は一人で歩いていた。
とはいえ別に迷子とかではない。ただ前の街(マーチェと出会った街。名前はルーチュバルクだった)から飛空挺でここまで飛んでくる間爆睡していたため、まったく眠れないのだ。
エビルはいない。マーチェが「ぜひ解体――違いますね調べさせてください!」と言ったからマーチェに渡してある。エビルが何か言っていたが無視した。
ファニーはエルシとエビルに呼ばれた少女と一緒にいる。エルシはまだ意識不明で、エビルも起きたら色々話すとしか言わなかった。
「……なーんか祭りみたいだなー」
どうも屋台が連なるルートに入ったらしい誠は、少し懐かしさを感じながら歩く。
屋台にはこの世界の言葉で売り物の名前が掲示されていた。中には誠の知らない言葉もあったが、絵と見た目でだいたいわかった。
「たこ焼き焼きそばフライドポテト、かき氷に……ラーメン屋?」
ラーメンを食べようと思い、持ってるお金を確認する。手持ちはファニーに何かあった時のためにと渡された銀貨が十枚ほどだ。
ちなみに銅貨、銀貨、金貨とあり、銅貨百枚で銀貨一枚、銀貨百枚で金貨一枚になっている。ラーメンは銅貨二十枚だった。
「銅貨って一円じゃないのか? うーん、銅貨が一枚十円かなぁ。同じ銅だし」
とりあえず銀貨を一枚渡して銅貨八十枚という面倒な数を渡される。貰った皮袋に入れてるのだがジャリジャリとうるさい。
紙カップのような物に入れて渡されたラーメンを食べて、なんとも言えない顔で感想を呟く。
「……不味くはない。だが美味いというわけでもない」
ほとんど飲むようにラーメンを食べてゴミ箱を探しにいく。
ゴミ箱はベンチの近くにあり、ベンチには茶色の外套を着た金髪の少女が一人座っていた。
ゴミ箱に紙コップを捨てて別の何かを食べに行こうとして、
「はいぃぃぃぃぃ!?」
周りの視線を集めた。
ペコペコと周りの人に向けて頭を下げながら、ベンチの少女に近づいて呼びかける。
「エルシさん、エルシさんやい?」
名前に反応したのか少女、エルシはこちらを見た。とりあえず間違ってなかったことに安堵を覚えながら誠は話しかける。
「何で一人? ファニーさん……水色の髪の女の子は?」
エルシは完全な無表情で両手を合わせて傾け、頭をそこに置くように傾ける。幼稚園で見るようなおねんねのポーズだ。
「あー、ファニーさん寝てるってこと?」
エルシはこくりと頷く。それを見て誠は思う。
(何か喋れよおい……)
まあ伝わらないわけじゃないしいいか。と誠は思う。エルシは見た目もとても可愛らしく、見ていて気分を害すこともない。
「…………」
そうやって見ていると気づいたのだが、エルシはさっきから視線が一点に集中していた。
何気なく視線を追いかけるとホットドッグの屋台があった。一つ銅貨十枚だ。
(あーそういうこと)
誠は屋台に近づいてホットドッグを二つ買ってベンチに戻り、片方をエルシに渡す
「…………」
エルシはチラチラと誠とホットドッグを見る。誠はホットドッグを食べながらどうぞお食べという意味を込めながら指で丸を作る。
意味は通じたらしくエルシはホットドッグをハムハムと食べ始める。ハムスターかお前はと突っ込みたくなる食べ方だった。
喉に詰まらせそうな気がしたので屋台からオレンジジュースらしき物を買ってくる。買ってくるのと同時に詰まらせるのでもう笑うしかない。
ジュースを渡してやるとエルシは慌ててジュースを飲む。そんな状況でも全く声を出さないのでもしかしたら声は出さないのではなく出せないのかもしれない。
「…………」
「ん、なに?」
ちょいちょいと肩をつつかれてエルシを見ると、エルシはぺこりとお辞儀してきた。若干顔に笑みを浮かべてた気がする。
「で、エルシさんはどうする? 何か食べるならついて行くし、戻るなら一緒じゃないと帰り道わからないよね?」
「…………」
エルシは静かに首を傾ける。何かを疑問に思ってるのだろうが、何が疑問なのかがさっぱりわからない。
「……あ、そうだ! 確かアプリに絵描きみたいなのが……えと、大丈夫かな電池」
久々に携帯の電源を入れる。少々不安だったが問題なく起動し、アプリもちゃんとあった。
不思議そうにするエルシに携帯を見せて文字を書く。ほんの少し驚きの表情を見せたエルシに誠は携帯を渡す。
「……」
暫くあれこれいじっていたエルシは携帯の画面を誠に見せてくる。そこには、
『なんでそこまでしてくれるの?』
と書いてあった。
「えーと、知ってる人だから? 奢ったのらお金があって、この世界の金銭感覚に慣れてないから、か?」
エルシはスラスラと書いて誠に見せる。
『私は人じゃないよ』
「あー、そっか。エビルの兄妹とか言ってたもんな。そりゃあ人じゃないな……って、これどう会話が繋がったんだ?」
わけがわからないと言いたげな誠に対してエルシは書く。
『怖くない?』
「……なんで? てかこの会話はどう繋がった結果なんだろう……」
本当にわからないといった感じに誠は呟く。
「…………」
エルシは無表情のまま、誠を見つめる。誠はただ頭に疑問符を出すだけだ。
暫くしてエルシは携帯を渡してきた。そこにはこうある。
『エビル兄さんの所へ行きましょう』
「了解。んじゃあ行きましょう……?」
先を歩こうとした誠の左手を、柔らかい物が包み込んだ。見るとエルシが誠の手を握っている。
「……ま、とにかく行きましょ行きましょ」
「…………」
エルシは何も言わない。代わりに手に力が入った。
誠とエルシは歩いていく。そんな光景を、『何か』は観ていた。




