女の子を泣かせたお話
結局何も話が聞けなかった。その理由は、誠の目の前に置かれていた。
「anmnktkykかいti」
「……はぁ」
誠はバラバラに分解されて大きな机の上に置かれたエビルを見て溜息しか出なかった。
エビルをバラバラにしたマーチェはというと、興奮したまま何処かに行ってしまった。
「一応今は夜なのに元気だなー」
「yrgtnndru」
「エビル、雑音にしかなってないから喋るな耳が痛い」
はぁーと大きく溜息。なんだかんだで今は夜なのだが、誠はまだ眠くない。
部屋にはソファーが置かれているのだが、なんだか座る気になれない。
何となく部屋を見回すと、何故か置かれている鏡に目が向いた。正確には、そこに映るエルシにだが。
(……今さらながらに気づいたんだが、いつまで手を繋いでればいいんだ?)
ここまて帰る道中、誠はずっとエルシに手を握られていた。何故か手を振りほどこうとすると若干悲しそうな顔をするので誠にはどうしようもない。
「……人肌が恋しいのか?」
「…………」
エルシは無言で頷く。
(ならばファニーさんにバトンタッチすれば解放される! ファニーさん来てー!)
そんな念を送ったからかどうかはわからないが、ガチャリとドアが開く音がした。
「マジで来た!?」
勢い良く振り返る。
そこには黒装束の人、ドラマに出てくるような忍者がいた。
「……………………………………………………………………まさかファニーさん?」
ぽいっと、忍者が黒い何かを投げた。
それは、FPSゲームで結構使われる投擲武器だった。
「手榴弾!?」
慌ててエルシを引っ張りながら部屋のソファーの後ろに隠れる。
ゴッ! と爆発音が部屋に響き渡った。幸いにも手榴弾は破片で敵を傷付けるタイプだったらしく、ソファーで防ぐことはできた。
飛び散った破片で鏡が割れたが、そんな音を掻き消すように莫大な音が部屋に響き渡る。
「あがあああああああああああああああ!?」
頭をハンマーで叩かれたような衝撃に誠は悶絶する。あまりにも巨大な音に耐えられなかったのだ。
(なんだよなんなんだよ!? 何だって異世界にそんな科学的な物が存在するんだよ!?)
キラリ、とグレネードの破片で砕けた鏡に何か映った。
「っ!?」
動いたのはほとんど反射だった。エルシを押し転がし、自分も転がってソファーから離れる。
ストン、とソファーがあっさりと切れた。忍者の持つ日本刀のような物が再び振り上げられる。
「え、エビル!」
助けを求めるように誠はエビルの名前を呼ぶ。
「smngmrd」
しかし帰って来たのは言葉にすらなっていない音だった。
「役立たず! 後で叩き折ってやる!」
「mt! srhknbnstkr!!」
何か叫んでるが聞いてる暇などない。そうこうしてると忍者はエルシに斬りかかっていた。
エルシはまだ立ち上がることができていない。放っておくとどうなるかなど、考えるまでもない。
「わあああああああああああああああああああ!!」
恐怖心を紛らすために叫ぶ。思ったり効果があったのか、それとも内心ゲームだと思ってるのか身体はあっさり動いた。
忍者に全力で体当たりする。勢い余ってそのまま地面に倒れたが、忍者も一緒に床に倒れていた。
忍者が倒れたまま刀で誠の頭を突く。とっさに後ろに下がると、運良く刀は誠の左眼を突いた。
バキン! と、刀の方があっさり折れた。
「よっしゃ!」
ガッツポーズをとる誠だが、忍者はすぐに小刀を取り出し、今度は腹を狙ってきた。
「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!?」
情けなく転がって全力で逃げるが、逃げた先を狙うように忍者が小刀を投げてきた。
(死……!?)
小刀が飛んできたその瞬間、時間の進みがゆっくりになった。
わけのわからない状態でふと思いつく。
(これはあれだ! 走馬灯の一種だな! 死にかけの状態だと一気に昔の記憶が流れるとかのやつ! あれの亜種だな!)
ゆっくりと、小刀は飛んでくる。
(はっはー! だったら小刀を掴んで投げ返してやんよ! 火事場を見せたれぇぇぇぇ!!)
腕を動かして小刀を掴み取ろうとする。のだが何故か腕が全然動かない。
(あ、あれ?)
いや、動いてはいるのだが遅い。遅すぎる。これでは全然間に合わない。
(あ、そっかそっか身体が加速してるわけじゃないから無理なのかはっはっは…………。じゃないよ!? 動け動けとれなくても頭を護れ!!)
そうこうしてると小刀は目の前に来ていた。
(……南無)
誠がもう完全に諦めたその時、視界の端で何かが動いた。
轟っ! と突然風が吹き荒れた。
その風によって小刀は吹き飛んだが、誠も吹き飛んだ。
「南無〜〜!?」
ゴンッ!と頭を思いっきり壁にぶつける。痛みに悶絶しながら何が起きたのかを探ろうとするが、その直後に、ドゴン! と何かが砲弾のように飛んで壁を貫いた。
「もう何がなんやら!」
とりあえず何が飛んだのかを確認しようと恐る恐る外を見る。外には木が大量に生えて林になっていた。
「……あーあー、そういえば風がどうとかそんなこと言ってたっけ」
轟っ!! と外では暴風が吹き荒れていた。竜巻のような物まで発生している。
「あ」
すぽーんと黒い人影が空高く飛んで行き、それと同時に竜巻も消え去る。
「まあ、大丈夫だよな多分。普通の忍者ならともかく異世界のはNINZYAだろうし」
竜巻の中心辺りに歩いていくと、エルシが立っていた。周りの木々が綺麗に消え去っている。
「やあやあエルシさん。随分派手にやりましたねー」
誠はかなり気楽に話しかけたのだが、何故かエルシはビクッ! と体を震わせた。
「な、なに? 話しかけるの駄目だった?」
「…………」
エルシはとても驚いているのだが、誠は何に驚いたのかとキョロキョロ辺りを見渡す。が何もないし誰もいない。
「えーとちょいまち」
携帯の電源を入れてアプリを起動させてエルシに渡す。エルシはちょいちょいと書いて誠に見せる。
『怖くない?』
「は? いや怖かったよそりゃ殺されかけたんだもの」
『そうじゃなくて、私が』
「はい? なんで?」
『だって、私こんなんだよ? 私の気分一つで街が滅んじゃうよ?』
「は、はぁ。何が言いたいのかさっぱり……」
「…………」
震える手で書かれたのは、最初の問いと同じだった。
『怖くない?』
その文字を見て、誠は素直に何も考えずに言った。
「怖くない。……ああそれと、助かったありがとう」
「…………」
カタン、と携帯が地面に落ちた。誠は落としちゃったのかとしゃがんで拾い上げる。
エルシに渡そうと立ち上がり、立ち上がると同時に抱きつかれた。
「え、え!? な、なんでせうか!?」
戸惑いながらも誠はエルシの顔を覗き込む。
「……ヒック、うあぁ……」
完全に泣いていた。
「泣いてらっしゃる!? なんで!? 俺が何をした!?」
あわわあわわと慌てる誠が出来たのは、よくわからないままとりあえず頭を優しく撫でることだった。




