神のお話
「……神になって死んでもらう? え、神にならせて何かやらせるんじゃなくて?」
エルシの言葉を聞き、誠は素直に驚いた。
神になってもらうだなんて言うからには、何かぶっ飛んだことをやらせられるのかと思っていたが、予想とは全く違った。
「……ええと、なんで死ななきゃいけないんだ? わざわざ神になる必要があるの?」
「子供の牛は、あまり食べれませんよね」
「え?」
「牛、というか家畜はキチンと育てて肉が美味しくなる時に殺しますよね? それと同じで、普通の人間を食べても美味しくないし、栄養もないんです。だから、人間を神に育て上げて、美味しくなった時に殺し、喰らう」
理屈では一応理解できる。強くなる為に他人の力を奪うのは鉄板ネタであり、奪い取る力を自分で育て上げるというのも分かる。世界中を歩き回って力をかき集めるよりは確実な手段だろう。
問題は、
「エルシさん、さっきから食べるとかなんとか言ってるけど、誰が俺、というより神を食べるつもりなの? てか神様を殺すってそんな簡単にできるもんなの?」
「普通はできません。神は本来絶対的な存在ですし、殺そうにも肉体は強靭な上世界の力全てを操ることもできます。普通なら触れることもできません」
けれど、とエルシは続ける。
「その神を超える力を持つ神ならば、力押しで神を殺すことができます。力の総量の差がありすぎて、例え力が拮抗しても持久力の関係で負けます」
「……その神ってもしかしてさ、エルシさんたちを生み出した神様? 確かエビルはクリエイターとか言ってた気がするけど」
誠の問いに、エルシは頷きで答える。蒸気で殆ど見えなかったが。
蒸気が消えてきたのでまた作り出しながら誠は問う。
「クリエイターがそうやって神を食べて力を得ている理由は?」
「……父は何も話してくれていませんし、私たちも理由を知る必要なんてないって思ってましたので」
エルシの言葉を聞き、誠は思う。
神は本来絶対的な存在だとエルシは言った。その神を殺せるのは同じ神のみで、戦いは力の総量の差で決まるとも。
絶対的な存在であるはずなのに、力を求める理由は予想がつく。マコト自身がそもそも異世界から来ているのですぐに思いついた。
「……異世界へ侵攻することでも企んでるのかねクリエイター様とやらは」
というよりも、それ以外に理由が思い当たらなかった。
この世界が気に入らないなら作り変えればいいし、新たに神が生まれないようなシステムでも作っておけば自分の身に危険が及ぶことはない。
ならば他に何があるかと考えると、他の世界へと侵攻しようとしていることが一番に考えられた。
単純に力を集めているだけなら逆に異世界からの侵攻を止めようとしているとも考えられるが、その場合この集め方は悠長すぎる。
防衛策なんて攻められそうになってから考えるものだろうし、もうすぐ攻めてくるなら少しでも力を掻き集めようとする筈だ。
それに、エビルは言っていたではないか。クリエイターは隠居していると。
自身が作り出した世界をエビルたち神の子に任せ、自分は悠々自適にやっていこうと思い、別荘を求めるような感覚で異世界へ侵攻することもあり得るかもしれない。
(……まあ本人が何考えてるのかまったく分からないからなぁ。あれこれ考えても答えは出ないか)
「ってやばいやばい。大事なこと聞くの忘れてた」
「?」
そう、誠からすれば神がどうとかなんて話はどうでもいい。そもそもこのまま神にならなければいいだけの話なのだから。
そんなことよりも大事なこと、それは。
「結局、エルシさんはどうしたいの?」
「……私、ですか?」
「俺を神にならせようとしてるのは分かったり、理由も知れた。でも、エルシさんがどうしたいのかがまったく分からない。そもそもエルシさんは神の子で、俺をどうにか騙して神にさせる側なんだから」
「それは……」
風の力を使い、蒸気を一部吹き飛ばす。エルシの顔を見れるようにして、誠は言う。
「言ってよ。エルシさんが何考えてるのか、エルシさんはどうしたいのか。別にどんなくだらないことでも、ちゃんと聞くからさ」
そう言われ、エルシはまた悩むように口を閉ざした。暫く何かを考えるように瞑目し、そして。
「――。」
短い台詞だった。
エルシが初めて、自分のやりたいことを口にした瞬間だった。
多分、神の子たちにとってとんでもなく難しい願いだった。
それを聞いた誠は言った。
「良し。そんじゃあ当分の目的はそれでいこう」




