目的のお話
「……そっか。やっぱりそういう話になってたか」
その日の夜。
誠が普段使っている部屋で、話を聞いた誠はそう言った。
話をしてくれた人、葉奈は不安そうな顔をしながら誠を見ていた。
エビルたちに葉奈と一緒にいてもらったのは、葉奈の近くでエビルたちが内緒話をした場合、その内容を誠に伝えてもらうためだ。
葉奈は獣人だ。その身体能力は人間の比ではなく、視力も聴覚も高い。ここなら聞こえないだろうと思う離れた場所であっても、獣人の聴覚なら聞き取ることができるのだ。
「まあ予想通り予想通り。ありがとな葉奈」
「……大丈夫ですか誠さん?」
「なにが?」
「……いえ。おやすみなさい」
「おやすみー」
ぺこりと頭を下げながら退室する葉奈に手を振って見送り、一人になった誠はどさりとベットに倒れ込む。
ベットの上で暫くの間ゴロゴロと転がり、仰向けになった所で呟く。
「……これからどうすっかなー」
やることがない。というのが誠の本音だった。
元の世界に帰る、という目的は完全に諦めている。そもそも帰る方法があるのかも分からないし、あったとしても見つけるまで何年かかるか分からない。見つかって帰ることができたとしても戸籍には死亡とでも書かれているだろう。
葉奈たち獣人の問題も解決している。後は葉奈たちの住む場所を探したり生活できるようにお金を稼ぐあてを探すくらいか。
エビルたちの目的も分からない以上、誠には動きようがない。全部話すと誠が協力したくなくなるような目的らしいが、具体的なことはさっぱりだ。無理やり聞くのは無理だし。
ファニーとマーチェのやることについての心当たりは一応ある。あるからこそマーチェにテズニムの対応を任せたのだから。だがそれによって二人が何を得ようとしてるのか分かっていない状況だ。
どれにしても、今誠ができることなんて何一つない。住む場所探しなんて不動産屋行けだし、エビルたちやファニーたちの目的を聞き出せるとは思えない。
「本でも読むかなー。魔法の方はエビルたちの力で事足りるからいらないけど、普通に小説とかなら暇潰しになるだろうし」
そんなことを言いながら寝ようと目を閉じた瞬間、コンコンと部屋の扉がノックされる。
「……マコトさん、起きてますか?」
「エルシさん?」
ベットから出て、誠は部屋の扉を開ける。そこにいたのは寝巻き姿で枕を持ったエルシだ。
「どうしたのエルシさん」
「え、ええと、今日のお昼頃にちょっと力を使ってしまいまして。一応回復させておこうかと……」
「……………………」
(ツッコミ入れてぇ、お前力使ってないだろってツッコミと、別に回復方法は近くにいることなんだから一緒に寝る必要はないし明日でいいだろってツッコミ入れてぇ!)
誠は、感覚を集中すればエビルたちの力の残量がなんとなく分かるようになっている。大まかになのでどれくらい戦えるかは分からないが、それでも使ったどうかは分かる。
エルシの力は朝見た時から少しも減っていない。恐らくウォンターから提案された魅了云々を馬鹿正直に実行しようとしているのだろう。
(……まあいいや。こっちは何も知らない、何も感じ取れないフリしとくか)
「……オーケー。入っていいよ」
「あ、ありがとうございます……」
一体何を想像しているのか、エルシは顔を赤くしながら部屋に入ってくる。なんかもう反応するのも面倒なので、誠はさっさとベットに寝転がる。
「俺はさっさと寝るから。おやすみ」
「え? あ、お、おやすみです?」
なんで疑問系? とツッコミを入れるのを抑え、誠は目を閉じる。何か話に来たのではなく、単に力の回復に来たと聞かされただけなのだ。起きている必要はない。
暫くしてエルシがモソモソとベットに潜り込んでくる。そのまま横になるのだが、エルシは誠の肩を掴み、軽く抱き着くような形になっている。色々なものが当たっているのだが、これをやっている理由を考えると面倒の極みでしかない。
エルシから全力で意識を外し、誠はさっさと眠ってしまおうとする。だが誠がそのまま眠ろうとしているのを感じ取ったのか、エルシが口を開く。
「あの、マコトさん?」
「……んー?」
「あ、えーと……」
口を開いたはいいが、話題が思いつかないらしく口が閉じてしまう。それでもうーんと唸り続け、エルシはこんな話題を振ってくる。
「えーと、好きな人とかいるんですか?」
「……は?」
絞り出してそれ? という意味だったのだが、エルシは何聞いてんだと言われたのだと感じ取ったらしく慌て出す。
「あ、いや違います間違えました! そ、そう! どんなタイプの女性が好きなのかって聞きたかったんですよ!」
「…………」
なんかもう、意図が透けすぎて呆れてきた。誠の好みのタイプを聞いてそれを演じるつもりなのだろうが、今更演技をしても無理があるだろうにと誠は思う。
面倒になってきたのでさっさと質問に答えて切り上げることにし、誠はこう答える。
「……俺をちゃんと見てくれる人かな」
「……えーと?」
「俺が悪いことしたらちゃんと叱ってくれてさ、良いことしたら褒めてくれる。そんな人が好きだな俺は」
「……うー」
エルシが困ったように唸る。恐らく演技のしようがなくてなのだろう。単に甘やかせばいいってわけでもないし、エルシが誰かを叱る姿を想像できない。
「寝るぞーおやすみー」
「……おやすみなさい」
落胆しているように聞こえたのは、誠の気のせいなのか。




