神の子たちのお話
一面花畑だったので、花を積むのに大して手間はかからなかった。
花を墓の前に置き、手を合わせる。この行為にどんな意味があるのかと誠に聞いたら、「えっと……会話するための作法?」とわけの分からないことを言った。どうやら本人もちゃんと理解できていないらしい。
「…………」
葉奈は両親の墓の前で静かに目を閉じ、言葉を届ける。
それが届いてるかは分からないけど、届いてくれることを信じて。
「……毎日よくやるわね」
そこから少し離れた場所で、ウォンターがそう言った。
ウォンターはエルシに持たれており、そのエルシの腰にはエビルが下げられている。
誠に「獣人達が何かした時の為に一緒にいといて」と言われて葉奈について来ているのだが、それにしても過剰戦力な気がした。
何か別の意図があるのだろうかとエルシが考えていると、エビルがカタカタと揺れた。
「どうしたエルシ?」
「え? あ、いえ。なんでもありません」
エビルに声をかけられ、エルシは考え事を中断する。こんな所で考えても仕方ないし、何も考えていない可能性の方が高いだろう。
「……しかし、どうするか」
「何がかしら?」
「これからのことだ。あのテズニムと名乗った少年。戦争に我らを使おうとしていたとはいえ、我ら神の子と契約できるようだ。マコトとの契約を切って奴に乗り換えることも可能だが……」
「……!」
エビルのそんな台詞に、自然とエルシの体が強張る。エビルが誠との契約を切らないように話を持って行こうと思い、口を開きかける。
「……あれ?」
「? 本当にどうしたエルシ」
エビルが声をかけてくるが、それに気づかずにエルシは思う。
なんで今、体が強張った?
なんで今、誠との契約を切らせないようにしようとした?
「…………」
「エルシ?」
確かに誠はエルシのことを化け物ではなく普通の人と変わらぬように接してくれたがそれはファニーやマーチェも同じでいやでも喋るきっかけは誠が作ってくれたおかけであって恩義を感じるだろうしそんな誠を友として思うのはいや友でいいのか隠し事沢山してるのに友と言っていいのかいや友達でも隠し事くらいあるかそもそも友達の定義ってなんだどれくらい親しければ友達なんだ?
「……おーい、エルシ?」
「うえっ!? はい友達なんて図々しいですすみません!」
「……何を言ってるのかしらこの子は」
エビルとウォンターに呆れたような視線を向けられ、エルシは二人(人?)から顔を背ける。今考えることではなかった。
「まあエルシはともかくエビル兄さん。乗り換えるのはやめた方がいいんじゃないかしら?」
「む? 何故だ」
「あのテズニムって子の能力が分からないのかまず一つ。それに加えて、マコトの方も力の使い方を覚えてきてるもの。切り離す理由がないわ」
「……むぅ」
「……それに」
そこでウォンターが台詞を止め、杖の先をエルシに向けてくる。
「だいぶお世話になってるみたいじゃない。きっちりお礼をしなきゃいけないでしょ?」
「だが、マコトが我らの目的に付き合うかどうかが問題だ」
「隠して言えばいいじゃないの。別に目的全部話す必要ないんだし」
「だが妙な所で頭が働くからなあいつは。我らが隠していることに気づく可能性が高いぞ?」
「大丈夫よ、ねえエルシ」
「……へ?」
突然名前を出され、エルシはわけが分からず素っ頓狂な声を上げてしまう。
「な、なんで私?」
「せっかく人間の体になってるんだから、その体でマコトを魅了してしまいなさい」
「うえっ!?」
再び変な声を上げてしまうエルシ。その顔が一気に赤くなったのを見て、ウォンターがこんなことを言う。
「随分と感情豊かになったわねエルシ。これもマコトの影響?」
「そ、そんなことより! いきなり何を言ってるんですかウォンター姉さん!?」
「だから、マコトを惚れさせてしまえば色々楽になるっていう話よ。惚れた弱みとかよく聞くし」
「だからってそんな、いや、嫌というわけじゃないですけど……」
「「え?」」
「え?」
エビルとウォンターの声が重なり、続いてエルシが驚きの声を上げた。
二人が沈黙してしまい、エルシは何かまずいことを言っただろうかと自分が言った台詞を思い出す。
(『だからってそんな、いや、嫌というわけじゃないですけど』って、何か変なこと……あ)
そこで、気づいた。
嫌というわけじゃないというのは、結構な好意を持ってなければ思わないのではないか?
「っていやいや違いますよ!? 別にそんなマコトさんに対してどうこうはありませんから!」
「「…………」」
「なんでそこで黙るんですか! ちょっと、エビル兄さん!? ウォンター姉さん!?」
花畑に、エルシの声だけが響き渡った。




