科学者の話
「マーチェさん、サイジェスタの科学者じゃん」
「…………」
ピタッと、マーチェの動きが止まる。豆を挽くのをやめ、誠の方へと向き直る。
「どこで知りました? ファニーが言っちゃいました?」
「サイボーグ忍者。サイジェスタの魔術師であるアクリア。どこぞの革命軍が言ってた生物兵器。……後はあれだ、猛とかいう武士の言ってた救援要請。あれで分かっちゃったよ」
「……もうちょっと詳しくお願いできます?」
マーチェはそう言うと誠と向かい会う場所に座る。その目にはいつものおちゃらけたものはなく、何かを見極めようとする冷たい目だった。
以前の誠なら、それだけで萎縮しきっていたかもしれない。だが、何度も殺意を向けられるうちに、この程度の視線には慣れてしまった。
「というか、いつから私たちに疑念を持ってました?」
「最初から」
「……へ?」
「いやだから、最初から」
予想外の答えだったのか、マーチェがキョトンとした顔で誠を見てきた。そんな顔を見て、誠は呆れたような顔で言う。
「あのね、マーチェさんもファニーさんと俺が知り合った時のこと知ってるでしょ?」
「ええと、確か誠さんが門番に捕まってて、そこをファニーが助けたんですよね?」
「それだよそれ。普通見ず知らずの人間なんて助けないでしょ? ……何その顔」
「……誠さんが言いますその台詞?」
「やかましい。自分が普通じゃないことは理解してる。って話がズレるなもう。まあ門番から助けるまではいいんだよ、問題はその後。ファニーさんが俺を雇用してきたところだよ。普通会ったばかりの人間を自分の家の使用人にしないだろ」
「…………」
「さらに言えば、そうやって雇ってきたくせに初日から剣の稽古をさせてきた。そう、まるで俺が剣を使う時が来ることが分かってるみたいにな」
そう言い終えた後、誠は左眼を叩く。
眼帯で隠してはあるが、そこにあるのは人間の眼ではなく、エビルに作られた眼が埋め込まれていた。
「何かを仕込んでるって確信したのはその後。マーチェさんの所まで馬車で移動した時に都合良く山賊に襲われたことに加えて、持ってきた覚えのないエビルが何故か馬車に積んであったことだよ。……正直あれ失敗だろ。何か企みがありますって言ってるようなもんだし」
「……まあ、ファニーは抜けてますから」
「……否定しないの?」
「否定して聞きますか?」
「いや? 聞くわけないけど」
即答した誠を見て、マーチェは諦めたように息を吐く。
「……やっぱり説明はいいです。なんか一つ一つ説明されたら自分たちの失敗を責められてる気分になって鬱になりそうです」
「えー? まだまだあるよ? わざわざ俺らにも見えるような所にこの国の情報置いておいたのとか、ロボとかサイボーグ忍者に襲われた時には必ずファニーさんたちがいなかったりとか、怪しいところ満載なのに」
「止めてください。いや本当に」
笑顔で言ってくる誠の顔を見れず、マーチェは視線を逸らす。逸らした先に立ってやろうかと考えたりするのだが、面倒なので誠は話を進める。
「まあもういいよそこら辺は。とりあえずテズニムたちの件はよろしくお願いします。マーチェさんとしても大量虐殺は嫌でしょ?」
「私はファニーさえいれば他の殆どのことはどうでもいいんですけどねぇ……」
「……そこは嘘でも分かりましたって言おうとマーチェさん」
「わかりましたーてずにむさんたちのことはよきにはからいますー」
「幾ら何でも棒読みすぎない!?」
誠がそう叫ぶと、マーチェはブフッと軽く吹き出した。誠の方へと視線を向け直し、こう聞いた。
「……聞かないんですか?」
「何を?」
「なんで誠さんに対して色々やってたのか」
「興味ない。……って言うと嘘になるけど、いいよ別に。確かに色々されたけど、マーチェさんを殴る気分にはなれないし」
ただ、と誠は付け加える。
「……何かしたいんなら、協力を求めた方が良いとだけ言っとくよ。余程のことじゃなければ、俺らもマーチェさんたちに協力するからさ」
「……貴方は」
マーチェは眼を閉じ、呟く。
「……甘いですね、ほんと」
「なに?」
「なんでもありませんよ。……まあ、革命軍のことは適当にやっときますよ。誠さんに嫌われたくないですし」
そう言うとマーチェは立ち上がり、部屋から出て行く。扉を閉め、扉に背中を預けながら呟く。
「……嫌われたくない、か。私も変わりましたねー」




