平和のお話
獣人たちとの騒動から一月が経った。
「平和だなぁ」
「平和だなぁ、じゃないわこの馬鹿者がああああ!」
のほほんとした誠の台詞に対し、怒ったようにエビルが叫んだ。ガタガタと机の上で揺れ動く。
誠はエビルを掴み、手元に引き寄せながら言う。
「なんだよエビル。いきなり叫んで」
「なんだよではない! マコト! この一月何してた!?」
「……食べて、寝て、ぐうたら?」
「動け貴様は! 我が兄弟を探すなりなんなりしろ! もしくは鍛錬に励め!」
「兄弟探しはお前らの目的だろうに……」
面倒そうに机の上に置き直し、誠は席を立つ。部屋に置いてあるコーヒーミルで豆を挽きながら誠はエビルに言う。
「動けって言うけどさ、俺が理由ないんだよ。鍛錬って言ってと素人が型も知らずに剣ブンブン振り回しても腕前が上がるわけないし。ファニーさんとマーチェさんは船が出せるようになったから貿易の交渉とかで忙しいみたいだし。それにいいじゃん平和。お前らの力も一ヶ月でだいぶ回復したし」
「……ぬぅ」
エビルが黙ったので、誠は鼻歌交じりにコーヒーを作る。
「よっこいせっと」
ウォンターの力で水を作り出し、それをエビルの力で温めて湯にする。ペーパーフィルターをカップにセットし、粉を入れて湯を少しだけ注いで蒸らしていく。
それを見ていたエビルがボヤくように呟く。
「……我らの力をそのようなものに使わないで欲しいのだがな」
「そんなこと言われても、力の扱い方に慣れる方法として一番やりやすいのは普段から使うことだし」
そう言うと誠はウォンターの力とエルシの力を混ぜ合わせる。融合爆発は、起きなかった。冷たい風が部屋を満たしていき、室温を下げる。
「ほら、実際に効果出てる」
「やかましい」
お湯を注いで出来上がったコーヒーを飲んでいると、部屋に一人の女性が入ってくる。
「……おふぁようございます」
「……もう昼だぞエルシ」
ノロノロと眠そうに歩くエルシは、さっきまで誠が座っていた椅子にちょこんと座る。机の上のエビルがカタカタと揺れる。
「珍しいな、お前がこんなに遅いとは」
「……だって」
エルシは一度大きく欠伸をし、こんなことを言う。
「マコトさんが寝かせてくれませんでしたから……」
「おいちょっと待つんだエルシさんそれは色々とヤバい!」
寝ぼけているエルシは頭が回っていないらしく、誠の台詞に対しても頭に疑問符を浮かべるだけだ。
これは兄貴からのとんでもない殺意が来るか? と警戒するのだが、エビルは予想とは違う反応を見せる。
「なんだ? 怖い話でも誠から聞かされたのか」
「…………」
「マコト、なんだその何か言いたげな目は」
「いいんです。汚れてないのはいいことなんです」
「は?」
エビルはわけが分からず首を傾げる……ことはできないのでカタッと少し揺れた。
あまりそこら辺の話をすると墓穴を掘りそうなので、誠は話を戻していく。
「昨日の夜に話したのは俺の世界のおとぎ話だよ。桃太郎とか浦島太郎とかそこら辺の。……後、俺が寝かさなかったんじゃなくて、エルシさんたちが他の話は? って延々聞いてきたからだし」
因みにファニー、マーチェ、葉奈、真也、ウォンターも誠の話を聞いていたのだが、ファニーとマーチェは夜遅くまで起きていたにも関わらずいつもの時間に起きていた。本人たち曰く、遅寝早起きには慣れているそうだ。
さらに言えば、真也が昼頃まで寝ているのはいつものことだ。基本的にぐうたらなのだ、あの獣人は。
「葉奈なんかもっと早く起きてるのに、なんであいつはああなんだか……」
ため息をつき、コーヒーを飲む。一息ついてからポツリと呟く。
「……案外、反動だったりするのかね。獣人たちの戦士として動いてたみたいだし」
「そういえば、その獣人たちはどうしたのだ?」
「顎は消えた、じゃなくて倒したってことにしといた。そしたら向こうさんらはあっさり引いたよ。まあ英雄とまで呼ばれた奴を倒した奴と戦いたくなかったんだろうけど」
「……また来る可能性は?」
「暫くはないと思う。来るとすれば葉奈を狙ってだろうけど、儀式を行えるほどの知識を持った博士は死んで後続はなし。同じくらい知識を持った獣人が育つまでは来ないだろ」
それに、と誠は付け加える。
「また来たら、また護ればいいだろ」
「……皆殺しにした方が楽だろうに」
「宿題を放置して後々困るタイプなんだよ俺は」
やれやれと言うエビルと椅子に座ったまま眠りだしたエルシを見て、誠は改めて呟く。
「ほんと、平和だなぁ」




