↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
66/83

やるべきことのお話

 当然の話だが、誠の言う「倒す」は顎を「殺す」というわけではない。

 そもそも人格が顎だからって、体は葉奈の物だ。これから助けようとしているのに、殺そうとしたら色々と終わってしまう。

 だから、誠は葉奈の体を傷つけない。

 傷つけない上で、顎を倒す。

 理想だけ並べてるような気もするが、別に誠だって勝算なしに倒すと言ったわけではない。……殆ど他人任せではあるが。

(それでも、俺が戦いながらやるのは無理があるからなぁ。仕方ないけど、頼るしかないし)

 そんなことを考えながら誠は体を屈めた。直後、誠の頭があった所を顎の拳が振り抜かれた。

 顎の顔が驚愕に満ちるのをしっかり見た後、誠は無様に転がることを覚悟しながら足裏から高圧水流を放つ。

 ボッ! という音と共に誠の体が宙に浮いた。まだ高圧水流は放たれているので、放射の勢いで空中でクルクルとボールみたいに体が回った。

 高圧水流を止め、一度空中で体勢を整えながら再度高圧水流を放つ。背中から放たれた高圧水流は空中の誠を押し出し、その背中に一撃を加えようとしていた顎のバランスを崩した。

 放射の勢いで誠の体が吹っ飛んでいく。途中で水の勢いを調整し、目的地に飛んでいくよう修正を加えていく。

「……ちょっと力の使いすぎじゃない?」

「幾らか無駄打ちしてるのはあるけど、一応最近こんな力を使い始めた身なので多めに見てもらえませんかね?」

「……なんで使い立てでここまで力を扱えるのよ」

「全部想像だから、アニメの内容思い出すだけでも事足りるし」

 そうこう言ってる間も顎の攻撃を凌ぎ、誠は目的地に足をつける。

 本来なら立つことは不可能だが、ウォンターの力を使い、水の上でも立てるようにする。

「どうせ戦うなら有利な場所でっと」

 そう呟いた直後、誠の目の前が爆発した。水が撒き散らされ、少しばかり大きめの穴が出来上がる。

「……海、か」

「いらっしゃーい」

 誠たちは今、海の上に立っていた。

 当然だが、辺りは海水、つまり大量の水がある。つまり、誠にとっての武器が大量にあるということだ。

 ……顎がどうやって立ってるのかとても気になるが、誠はあんまり考えないことにする。どうせ足の握力で海水掴んでるとかそんなのに決まってる。

「……少し、聞かせてもらっていいか?」

「ん?」

 拳を下ろし、戦闘体勢を解きながら顎は話しかけてきた。どうせ見えない速度で動いてくるので、その程度では安心できないが。

「どうして君は、私の拳を何度も防げた? まさか私の動きが見えているとでも?」

「……なんだそんなこと? お前さ、動く度に前動作を入れる、癖なのか体が壊れないようにする為の措置なのか知らないけど、とにかく分かりやすい攻撃の前兆があるんだよ。銃弾撃たれたとしても、『これから引き金引きますよさんにーいちドーン』なんてされたら誰でも避けれるつーの」

「……なるほど」

 因みに、大嘘だ。顎にそんなものはないし、あったとしてもとんでもない速さの前動作だろうから結局見えるわけがないのだ。

 本当の前兆は眼の動きだ。相手はこっちに攻撃する時、自然とこちらを強く見てくる。それにさえ気づければ、後は少し動くだけで避けることができる。

(……結局はただの火事場力。腕力や脚力が上がったところで、脳の反応速度まで上がったわけでじゃない。自分の動きが百倍に速くなっても、自分の動きが見えなきゃどうしようもねえだろ)

 事実、顎の攻撃にはタイムラグがある。一度攻撃した後、当たったかどうか確認する為に動きが止まっているのだ。

 多分、力が強すぎて当たった感触すら感じ取れないのだろう。目の前の空気を殴ったところで抵抗を感じないのと同じだ。

「もう一つ、質問いいか?」

「別に幾つでも」

「……なぜ獣人の問題に関わってきてる? 私の復活を止める為ならこうして失敗した時点で逃げ出している筈だ。お前がここまでする必要が感じない」

「……またその質問か。どいつもこいつも疑心暗鬼になりやがって」

 格郎たちにも聞かれたのを思い出し、誠は溜め息をつきながら言う。

「困ってる人がいたから助けた。ただそれだけでしかねえよ」

「……それを、人間が獣人に言う奴がいるとは思えないから聞いたのだが」

「残念。ここにいる。いや、ここに来たという方が正しいのか?」

 喋りながら、誠は自身のやることを再認識する。

 誠は、葉奈の体を傷つけるつもりはない。

 その上で、顎を倒す。

 これは、そんな理想を実現する為の時間稼ぎだ。

 言葉なんて、相手を引き寄せるための手段でしかない。……本音を言ってることも否定しないが。

(さーて、頼むから働いてくれよー)



「ほらエルシ走る!」

「さあ行きますよエルシさん今すぐ行きましょう!」

「……なんだかなぁ」

 全力疾走を始めたファニーとマーチェを見て、エルシはなんとも言えない顔になってしまう。

 そもそもの発端は、誠の高圧水流がさらっと顎から逃れた三人がこっそりと隠れていた所に飛んできたことだ。

 最初は偶々飛んできただけかと思ったが、水は形を変え、最後には文字を作った。

 逃げながらも文字を作るという細かいことができていることにも驚いたが、作り上げられた文を見て更に驚いた。

『獣人のアジトに行って壊してほしいものがある。どんなのかはそこら辺にデカイ男担いだ獣人がいる筈だから聞いて。俺の名前出せば多分通じる』

 ここまではいい。ここまでは、まだ普通にお願いしてきてるだけだ。

 ファニーが何か言いかけた瞬間、水が再度文を作り上げた。

『あ、ファニーさんとマーチェさんはさっさと帰って。ぶっちゃけあんたらが行動して成功イメージなくて邪魔だから』

 という文の後にニッコリマークのおまけ付きだ。

 絶対に分かってやってる、とエルシは思う。誠は、後で怒られるのを分かってて、ファニーとマーチェがそんなこと言われるとどうするか、分かってこんなメッセージを残してきている。

 事実、

「マーチェ! 獣人の居場所は分かりますわよね!」

「当然! ついさっきまでここらにいて、今逃げているとすればいる場所はある程度特定できます!」

「流石ですわマーチェ! さあ生意気言ってる誠に目に物を見せてやりますわ!」

「私たちだってやればできるんです!」

 こんなにもやる気を出してしまっている。煽り耐性が低すぎる結果がコレだ。ファニーなんて獣人と関わるのをあんなに嫌がってたのに。

 誠が去っていた方向を見ながらエルシは走る。本当は誠の加勢に行きたいところなのだが、ゴタゴタのせいで力が回復していないエルシが行っても足手まといにしかならないだろう。そのことを分かっているからこそ、誠はわざと二人を煽ったのだろうし。

「……今はやるべきことをやらなきゃ」

「……あのー」

 走る三人の元に、一人の少年が現れた。

 どこにでもいそうな平凡な少年は、巨大な本を脇に抱えながら三人にこう聞いてきた。

「神の手助け、必要ですか?」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。