空を跳ぶお話
ウォンターを使えるようになると、周りの見え方がかなり変わった。ウォンターの力なのか、周りの湿気がどのくらいなのか、水はどこを流れているか、周りの獣人の血液型は何なのかが分かるようになったのだ。
幸いにも獣人たちの中に格郎と同じ血液型の奴がいて、格郎に輸血をすることが出来た。
ウォンターを使って獣人から死なない程度に血を貰い、格郎の傷口から血を流し入れる。血液の流れを感じ取る限り、血はもう充分のようだ。
ほっと一息つくと、格郎が誠の腕を掴んできて、呻くように言う。
「……誠君。もう私は大丈夫だ」
「格郎さん?」
「頼む、葉奈たちの所へ行ってくれ。このままだと、葉奈が奴らに捕まってしまう」
格郎は誠の体を押しのけ、瓦礫を支えにして立ち上がる。格郎は誠を安心させる為にか、ニヤリと口元を歪ませる。
「私ならこの通りもう動ける。戦うことは無理かもしれないが、逃げ隠れるくらいのことならできる。本当は私自身が葉奈の元へ行きたいのだが、この体では足手まといにしかならない。……葉奈たちのこと、お願いしてもいいだろうか?」
「……任せてください」
頑張るのは俺よりウォンターじゃね? と思いつつも誠は言い、格郎にエビルを渡す。
「エビル、格郎さん一人なら問題なく飛べるだろ。格郎さんと一緒にいて逃げる手伝いをしてやってくれ」
「……我がいなくて良いのか?」
「どうせ大して力残ってないくせに。それに、後で合流するのにエビルがいた方が都合がいいんだよ。なんとなくエビルたちのいる場所は分かるようになってきたし」
そう言うと誠はウォンターは振るって幾つもの水玉を作り出し、それを足に纏わせた。
「いったい何をするつもりなのかしら?」
「ウォータージェットみたいなことして加速できないかなって」
「やりたければやれば? 両足だけでそんな風に噴射しても、空を飛ぶどころかその場で地面とキスすることになるけど」
「よし走ろう。人間の足は歩く為にある」
そんなくだらないことをしながらも誠は両足に力を込め、勢いよく走り出す。
ボゴッ!! と、誠の体が勢いよく瓦礫へと突っ込んだ。
音速並みの速度で頭から突っ込み、土煙を上げながら十数メートルほど誠の体が滑って行き、幾つかの壁を破壊してようやく誠の体が止まる。
声にならない声を上げながらゴロゴロと転がりながら痛みに耐える誠に対して、ウォンターは若干呆れたような声を上げる。
「貴方の脚はもう人間の物ではないのよ。私の作った脚は獣人のを真似て作ったものだから、前の感覚で走ったら音速なんて簡単に越えるわよ」
「……なんで俺の体大丈夫なんだか」
「貴方の体もう胴体以外人間のものじゃないことを忘れてるでしょ? その胴体も幾らか強化してるみたいだし」
「これ走るのは駄目だな……」
誠は起き上がり、もう一度両足に力を込める。ただし、両足に込めた力の殆どを前ではなく上へと向ける。
ボンッ! と爆発に似たような音がし、あっという間に五十メートルほどまで誠の体が飛んでいく。
「ああ、確かに跳ぶ分には力の調整考えなくていいわね」
「ジョギング感覚でも体が吹っ飛びそうだし、今は新しい脚に慣れる時間もないしな。それに高い所から見下ろせば……」
「……よく見えるって? 建物とかが邪魔で見えないと思うけど」
左眼に意識を集中し、建物を全て透明にする。建物が透け、中にいる人たちが見えるようになるのだが、今度はどれが人間でどれが獣人なのかが分からない。
今度はウォンターの水の力を使い、獣人の血の流れを感じ取る。人間と獣人が区別化されたので人間を全員透明にし、獣人のみ見えるようにする。
後は一人一人確認していけば……、
「……いた! 葉奈が真也に担がれてるけど、見た感じ無傷か」
「いや、私は獣人関係のこと知らないから、言われても反応のしようがないんだけど……」
地面に着地し、もう一度跳ぶ。何度か跳躍を繰り返し、葉奈たちがいる場所の近くの家の屋根に降り立つ。
「……なあ、この世界はいつからアクション映画の世界になったんだ?」
「いや、どいつもこいつも音速が当たり前とかなんだから、最初からだとは思うけど」
「俺もう人間辞めてるよなほんと……」
溜め息をつきながら周りを見回し、他に誰もいないことを確認した誠は跳躍して葉奈たちの側に降り立つ。
「真也! 真奈さん! 今どんな感じなんぼぁ!?」
着地した瞬間、誠の顔に向けて真也の拳が振られた。慌ててしゃがんで避けたのと同時に伸ばされた腕を掴み、誠は叫ぶ。
「待て真也! 俺だから! 俺だから拳を下ろしてくださいお願いします!」
「あ、あれ? なんだ誠か」
真也が誠の顔を見て腕を下ろす。その隣で真奈が上げかけていた脚を下ろしていた。
脚や腕が人外染みてても格闘戦は絶対やめよう、と誠は心に誓った。




