水の神の子のお話
水の神の子、ウォンター。
アクリアに『加工』され、まともに話すこともできなくなっていた筈の神の子だ。
誠の記憶ではエルシに手渡してそのままだったのだが……。
『しかし、なんか変な人ね貴方。あの野郎にあんな嘘をペラペラ即興で喋るくらいだから頭脳派だと思っていたのだけども、意外と感情的? そこの獣人を連れてたら生存率が下がることくらい分かってそうだけど』
何故ウォンターがここにいるのかが全く分からないが、とりあえず会話に応じようと誠は口を開く。
「……人間そんなもんだろ。その場その場でやり方を変えて、自分の為に体を動かす。だから頭も使うし感情的にもなる」
『それで自分が死んだとしても?』
「そもそも俺の勝利条件を分かってないだろお前。ゲームとかやってても鬱エンドよりはハッピーエンドが好きなんでね。例え葉奈が助かったとしても格郎さんたちが死ぬような結末は認めたくないってだけだよ」
『……変な人ねぇ。人間が異種族の為にそこまでするなんて、聞いたことないわよ』
とはいえ、誠の答えに納得はしたらしく、アクリアは話題を変える。
『それはともかく、ここから逃げ出すには力が必要でしょ? 私の水の力があればここから逃げるのは容易いと思うのだけど、どうかしら?』
「そりゃあ力が貰えるならこっちとしては願ったり叶ったりだけど……水の力を使えば格郎さんの血もなんとかできるかもしれないし」
そう言いながら誠は格郎の方を見る。止血は一応したとはいえ、明らかに血が足りていない。体も段々と重くなってきた。
もし水の力が手に入ったなら、水を操作、つまり血を操って輸血などもできるようになるかもしれない。そうなれば助かる可能性はあるかもしれない。
そんなことを思いながら誠は言ったのだが、ここでアクリアがこんなことを言い出した。
『じゃあ、脚をちょうだい』
「……は? 脚?」
『うん、脚。あ、もしかして胴体の方が良かったかしら? でも獣人と戦うことも考えたら機動力確保の為に脚の方が良いと思うのだけど』
「ちょ、ちょっと待って。話が見えてこないんだけど。脚をちょうだいってどういうこと?」
『あら、貴方エビル兄さんやエルシから何も聞いてないの?』
エビルの名前が出てきて誠はエビルの方を見る。エビルはと言うと、ウォンターが話しかけてきてから何も喋っていない。
「……エビル?」
「…………」
『エビル兄さん何も説明してないの? もしかして適当に使い潰すつもりだったのかしら?』
「…………」
ウォンターに話しかけられてもエビルは無言を貫く。というか完全に図星なだけなのだろうが。
『まあ私から説明するからいいわ。まず私たち神の子と契約するのに代償が必要なのよ。それは体の一部でもいいし、その人の持つ記憶や知識でもいい。要するに私たちの気分次第ね』
「気分次第で腕取られたり心臓取られたりとかなんじゃそりゃ。……それと、長くなるんなら後でいいか? 獣人がだいぶ近づいてきてるんだけど」
誠が周りを確認すると、獣人たちがジリジリとこちらに近づいてきていた。騒いでいる声でも聞こえているのか、迷いなく誠のいる場所に近づいてきている。
『じゃあ説明は置いといて。とりあえず貴方が「コントラクト」と言って契約に合意すれば完了よ。貴方の脚は消えちゃうけど、まあ代わりに私が新しい脚を作るし、その脚もかなりの性能があるし、貴方からすれば得しかないと思うわよ』
「コントラクトって言うだけ?」
『――貴方の脚を引き換えに、私は力を貸し与えましょう』
「って今ので!? 今ので合意したことにされた!? なんだそれ!?」
誠が叫んでも、ウォンターは何も言わなかった。
ただ、現象のみが起きた。
直後、轟音と共に莫大な水が誠を中心に渦巻いた。水は周りの火をかき消し、もののついでと言わんばかりに獣人が水に巻き込まれ壁に叩きつけられる。
やがて水は誠の目の前で収束していき、杖の形へと姿を変える。
誠が手を伸ばすと杖は誠の手に収まり、杖から声がしてくる。
「それじゃあよろしくねマコトさん。私はエビル兄さんと違ってちゃんと説明はしてあげるから」
「……なんかウォンターが軽い調子で言うからありがたみないなぁ」
ウォンターを持ち直し、水を適当に作ったり消したりして力の使い方を覚えながら獣人に視線を向ける。
格郎の治療も大事だが、まずは安全を確保しないといけないだろう。




