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炎の中のお話

 誠がホテルに降りて一番に感じたのは、肉が焼ける匂いだ。

 焼き肉みたいに香ばしいものではなく、匂うだけで若干吐き気がする。

 何の肉が焼けてるのかを考えそうになるが、誠はブンブンと頭を振ってその考えを無理やり振り払う。そんなこと考えている暇などないのだ。

「エビル! 葉奈たちが何処にいるか分かるか!?」

「この炎の中だぞ? 葉奈たちが何時までもここに残っているとは考えにくい。ならば何処かに逃げ出していると考えるべきだが……」

「獣人に襲われて身動き取れてない可能性もあるんだよなぁ。事実、さっき上から見た時には獣人が何人か飛び回ってたし」

 そうやって炎の中平然と誠とエビルが話し合っていると、

「……一刃百刀《いちじんひゃくとう》」

「げっ!?」

 またも嫌な声が聞こえた。慌てて地面に突っ伏すのと同時に男が力強く叫ぶ。

「乱花《らんか》!」

 誠の頭上を斬撃が飛び交った。男は居合一閃しただけなのに、周りはまるで何度も斬られたかのように斬撃の痕が出来ている。

 誠が警戒しながら立ち上がると、少し離れた場所で例の武士が刀を鞘に納めていた。誠を見るなり少し顔を歪める。

「……そこにいたのなら狙いをつけるべきだったか」

「やめろ! 今それどころじゃないんだから本気でやめろ!」

 そう言いながらジリジリと誠は武士から距離を置くのだが、武士の方は興味なさそうに視線を外し、懐から無線機らしき物を取り出す。

「こちら守近《もりちか》猛《たける》。現在依代が近くにいるが、依代の排除を優先していいか? どうぞ」

「……武士の名前を今更知ることになるとは」

 誠がポツリと呟いたのは炎のパチパチと燃える音でかき消された。

 音量調整がされてないのか、離れた誠にもハッキリと聞こえる音量で無線機から声が発せられる。

『あーあー、こちらコードネーム「スター」。現在こちらは訳あって本名を使えません。以降コードネームで呼ぶように。それと質問の答えですけれど、……依代は放っておいて構いません。獣人の排除を優先してください。どうぞ』

「……こちら守近猛了解。依代は存在しないものとして扱う。通信終了」

 猛が凄く不満そうな顔をしながら無線機を懐に仕舞う。そして刀の刃を見せるように鞘から少しだけ抜き、ポツリと呟く。

「……存在しない者のことなぞ気に留めん。『乱花』や『桜花乱舞』に巻き込まれても事故だな」

 そう言うと猛は跳躍し、炎の向こう側へと消えていった。誠は猛がいなくなったのをしっかりと確認し、安心して息をつく。

「……さて、葉奈たちは何処にいるのかね」

「……誠君?」

 パチパチという音に紛れて、格郎の声が聞こえてきた。慌てて周りを見回すと、離れた所に格郎がいた。

 いや、正しくはこういうべきか。

 格郎が、血まみれで倒れていた。

「っ!? 格郎さん!」

 誠は炎の中を走り、格郎の近くに走り寄る。エビルを振るい、辺りの炎を消しながら誠は格郎の傷を見る。

 怪我をしていない場所なんてなかった。大小の程度の差はあれど、体の何処を見ても傷があった。

「火傷で無理やり血を止める……のをやっていいのか判断つかないな。とりあえず止血だけでも……」

「……やめておきたまえ。血を流しすぎた。今さら止血した程度では助からんよ」

「そういうこと言うな! ハンカチ……じゃあ全部は無理か」

 言いながら誠は自分の服を脱ぎ、それを剣で切り使いやすくしてから腕や脚の止血をする。

 既に諦めている格郎を無理やり立たせながらエビルに聞く。

「エビル、格郎さんと一緒でも飛べる?」

「流石に無理だな」

「こっそり逃げ出すしかないか……」

「……私を置いていってくれ誠君」

「怪我人は黙っててください」

「……葉奈たちは街の方に逃がした。急いで合流してくれ……」

「格郎さんも一緒にですよ」

「……誠君」

「お願いですから黙っててください!!」

 格郎を黙らせ、誠は左眼を使って辺りを透視する。少し離れた所に獣人が三人もいて、しかも獣人たちはこっちに近づいてきていた。

「……避けるように移動、避けるように移動。大丈夫、炎で周りは見えにくいし、足音も消されてる。こんなシチュ、ゲームで散々やったろ俺」

 自分に言い聞かせながら誠はゆっくりと移動するが、誠の動きをわかってるんじゃないかと思えるくらいに獣人が誠の動きを邪魔するように現れる。

「……マコト。格郎を置いていった方が良いのではないか? このままだと二人揃ってやられてしま――」

「黙れよエビル! どいつもこいつもネガティヴになりやがって! 俺らはここから逃げ出せるし、格郎さんも助かる! そう思って動くんだよ!」

『――あら、でも貴方このままだと百パーセント死ぬわよ?』

「うる――ん?」

 エビルでも、格郎のものでもない、聞いたことのない女性の声が聞こえた。頭の中に直接響くような、不思議な声だった。

「誰だ!?」

『あら、エビルお兄様から聞いてないのかしら? 私は水の神の子よ?』

「……え?」

 辺りを見回しても炎しか見えない中、声のみが響く。

『はじめまして、は違うけどこう言っておくわ。水の神の子、ウォンターよ』

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