襲われているお話
「(……ト、…コト!)」
自分の名前を呼ばれているのだと、そう自覚するのに随分と時間がかかった。
ゆっくりと目を開ける。視界がぼやけていて今自分が何処にいるのか、そもそも立っているのか倒れているのかの判断もつかない。
「(マコト! いい加減目を覚ませ!)」
「……エビル?」
ぼやけた視界で辺りを探す。緑色が目に入ってくるだけで、エビルが近くにいるようには見えない。
「エビル、お前何処に……」
「(我が作った左眼に我が入れるのを忘れたか。お前が獣人に捕まる直前に、我は左眼に入り込んでいたのだ)」
「……そういえばあったなそんな機能。左眼からいちいち取り出すのが面倒だったから鞘に入れてたけど」
言いながら誠は左眼をトントンと叩く。剣の柄が出てきたのでそれを掴み、一気に引っ張り上げる。
「って、いつの間にかに手が自由に……」
「縄なら我が焼いておいた。エリガルトとかいう奴に気づかれることなくな」
「珍しくナイスだエビル」
左眼を使って壁を透視し、周りの状況を確認する。部屋の扉の向こうに獣人が一人立っているだけで、見える範囲には他には誰もいない。
扉の向こうにいる獣人に聞こえないように気をつけながら誠はエビルに聞く。
「薬打たれた後俺どうなった?」
「ベラベラと喋っていたな。ホテルの位置、名前に部屋番号。真也が裏切ったことも、我らに戦う力が残ってないことも」
「自白剤がそういう物だからなぁ。時間はどれくらい経った?」
「一時間程度だ」
「……力は回復してる?」
「マッチ棒程度の炎ならば出せるぞ」
「……役に立たねー」
言いながら誠はエビルを、というより剣の柄を強く握りしめ、少し考えた後に鞘に収めてから鞘ごと腰から引き抜く。
扉を勢いよく開け、獣人が反応する前に顎先に向けて剣を振るう。脳を揺らされてバランスを崩して倒れた獣人の金的を一切の躊躇なく踏み潰す。
「ぶごぉっ!?」
しばらく悶絶し、痛みに耐え切れずに気絶した獣人を見てエビルがポツリと呟く。
「……これ、普通に首を跳ね飛ばして殺してやった方がむしろ救いではないのか?」
「命あっての物種」
気絶した獣人を適当に蹴っ飛ばし、誠は建物の外に出る。
獣人たちのアジトの一つだったらしく、外に出ると森が出迎えてくれた。誠はエビルを掲げ、エビルと共に空を飛ぶ。
「ホテルは!?」
「……マズイぞマコト。煙だ」
「うわっ、なんか変なのがあっちこっち飛び交って……」
「……神の子か」
声が聞こえた。空にいる筈の誠の側で、あまり聞きたくない声が。
「っ!?」
エビルの剣先の向きを変えて移動の指示を出す。エビルも彼から離れたかったのか何も言わずに従ってくれた。
誠は警戒心を隠すことなく彼に尋ねる。
「……なんでここに?」
「救援要請に応じたまでだ。お前らの相手をしている暇はない」
キンッ、と刀を鞘に収めながら彼はそう言った。
それだけを言うと、彼の体はそのまま落下していく。本当に誠たちに興味はないらしい。
誠はエビルの方を見ながら聞く。
「……どうするよ?」
「どちらにせよ行かねばなるまい。奴一人でどうにかできるわけではないだろう」
「……行きたくねーよー」
言いながら誠は彼の見た目を改めて観察する。
一言で言えば、武士だ。浅葱色の袴に刀を一本腰に下げている。
彼の所属がどこなのかを、誠は知らない。
知っているのは、彼がとんでもなく強いということだけだ。
「……仕方ない、行くか」
腹を決めて、誠はエビルにホテルに向かうように指示を出す。
かつて自分を依代と、エビルをイフリートと呼んだ武士がいる場所へと。
さあ、第14部に戻って確認しよう




