ゆっくりとしたお話
次の日の朝、またも目玉焼き戦争をし始めた三人を黙らせた誠。塩と醤油とケチャップとマヨネーズがかけられた目玉焼きはきっと三人が綺麗に平らげることだろう。
誠はエビルと一緒にホテルへと向かっていた。葉奈たちの様子を見に行くところだ。
「……エルシも連れて行って力を回復させた方が良いと思うのだが」
「目玉焼きを片付けたらな」
ホテルの階段を上がっていき、六階に辿り着く。少し歩いて目的の部屋に着き五回ノックをする。
暫くしてドアが開き、葉奈が顔を出す。
「誠さん、どうしたんですか?」
「ちょっと様子を見に」
葉奈は誠を部屋に招き入れる。誠は廊下に誰もいないかを確認しつつ部屋に入る。
「格郎さんは?」
「お父さんたちは今出かけてますけど、もう少ししたら戻ってくると思うので待っててもらえますか?」
葉奈はそう言うと部屋に備え付けてあるポットでお茶を入れ、誠に出してくる。ありがたく貰いながら誠は聞く。
「格郎さんたち何しに出てんの?」
「アジトの一つに潜り込むって言ってました。……嫌がる真也さんを連れて」
南無、と適当に思いながら誠はお茶を飲む。味は、まあ特段美味しいわけでも不味いわけでもなかった。
「……ってか、真也連れて行って大丈夫なのか? アジトであいつが好き勝手暴れたらどうするんだ」
「お父さんがかなり脅してたので大丈夫だと思いますよ。体が恐怖で動けなくなってるかもしれませんが」
「……そっちの方が駄目な気が」
そんなことを話しながらゆっくりしていると、格郎たちが帰ってきた。真也はちゃんと生きていた。
格郎は誠を見るなり驚いた顔をする。
「誠君、無事だったか」
「え?」
「いや、昨日大規模な爆発があってな。てっきり君が関わっているのだとばかり思っていたのだが……」
格郎の言っている爆発は、恐らく誠が引き起こした融合爆発のことだろう。というか、それ以外にないというか。
とりあえず適当に誤魔化しておくべきだろう。これ以上問題が増えても困るだろうし、何よりこれは格郎たちには関係ない。
「まぁ、色々な勢力がこの国にいるみたいですからね。どっかの勢力がぶつかり合ったんじゃないんですか?」
「あー、そういえばどこかの国の革命軍もいたな。まあ君に何もなければ何よりだ」
格郎は誠の言葉を疑うことなく信じたらしい。少し心が痛むが、格郎たちも巻き込まれるよりはいいだろう。
真奈は手提げ袋を下ろし、そこから小さめの箱を取り出す。
「誠さんも一緒に食べます? そこのお店でケーキ買ってきたんですが」
「あ、頂きます……って、なんか随分とゆっくりしてますね」
誠の問いには、真也が答えてくれた。
「さっきアジトに潜入して情報を手に入れてきたんだけど、儀式に必要な物が一箇所に集められる時があるんだ。その時に俺らで襲撃して一気に片をつけるつー話になったんだよ。だからそれまで待機」
「お前が喋るのが何となく気に入らないからチェイサー」
「なんで!?」
「後なんか口調も変わってるからチェイサー」
「関係ないだろ!?」
真也の叫びなど無視して剣の鞘でビシビシと誠は真也を小突く。別に本気で突いてるわけではないのだが、ビビっている真也は全力で避けている。
……獣人の身体能力を考えれば余裕で避けれる筈なのだが、そんなことは頭から抜けているようだ。
「まあ分かりました。それで儀式に必要な物が集まるのは何時なんですか?」
「明後日、とアジトにいる奴らは言っていた。運び終わった後に襲撃するつもりだ」
「……ふむ?」
誠は少し考え、呟く。
「それってさ、どうやって知ったの?」
「アジトにいる奴らが話していたのを聞いたんだが」
「…………」
誠は真也に視線を向ける。真也はビクッと体を震わせて少し誠から距離を取る。
気にせずに誠は言う。
「真也、ちょっと頼みがあるんだけど」
「な、なに?」
「幾つかのアジトを回ってきて話を盗み聞き回ってくれる? ヒョウの獣人で足の速いお前に頼みたいんだけど」
誠のそんな頼みに、真也が首を傾げる。格郎たちも不思議そうに誠を見ている。
「良いけど、なんでだ?」
「聞いてきた話が本当とは限らないだろ? 話して奴らが真也たちに気づいて嘘の情報を渡してきた可能性もあるし、そいつらに嘘の話を教えられてきた可能性もある。……ていうか敵からの情報なんて複数に聞いて真偽を確認するもんだと思うんだけど」
「……おお、なるほど」
納得した真也は早速部屋から出て行こうとし、直前で振り返る。
「……苺は残しといてもらえる?」
「分かったからさっさと行けゴキブリ召喚するぞ」
シュバッ!! と高速で駆け出した真也を全員で見送る。音速に近い速度の筈なのだが、何故か誠にも普通に動きを捉えることができた。
「どんだけゴキブリ嫌いなんだ……」
「そんなことより、ケーキ食べましょうケーキ。私栗のモンブランが良いです」
葉奈が尻尾をバタバタと振るわせながらそう言ってくる。完全に犬っころだったので葉奈の頭を誠は撫でる。
「……ぅー」
「「…………」」
その光景を、格郎と真奈が何とも言えない表情で見ていた。




