アキラのお話
「話があります。後で昨日の朝の浜辺に来てください」
帰った時にこっそりとエルシにそんなことを言われ、言われた通りに浜辺へとやってきた誠。
「来たのはいいんだけど……」
周りを見回してもエルシの姿がない。行くのが早すぎたのかもしれない。
今日も空はよく晴れ、夜を月が照らしている。街灯がなくても周りがよく見えるくらいだ。
砂の地面にゴロンと転がる。砂は完全に冷え切っていて、冷たさが心地良かった。
「……ふむ」
目を瞑り、意識を自分の中に集中させてみる。すると、頭の中に炎と竜巻が浮かび上がってくる。
炎とはいうものの、燃え上がる勢いは全くなく、マッチ棒よりも弱い。竜巻も同じく、そよ風よりも風力が弱い。
これらは誠の持っている力の総量だ。エビルとエルシに貰った力の残りが、炎と竜巻となって現れているのだ。
力が欲しければエビルとエルシに貰えばいいのだろうが、あの二人も力が殆ど残ってないので貰えないだろう。
「……お」
そうこうしていると、エルシがこちらに近づいてきているのを感じ取った。視界に捉えたわけではないが、感覚的にどこにいるかが分かった。
起き上がり、エルシのいる方へ顔を向ける。エルシの方も誠のいる場所を感じ取れているのか、迷いなくこちらに向かってきている。
「やっほーエルシさん」
「…………」
エルシは何も言わず、足音も立てずに歩いてくる。誠の隣に来るとそのまま座り込む。
「それで、話ってなに?」
「……本当なんですか?」
主語の抜けた質問が、エルシから飛んできた。わけがわからず、誠はこう返す。
「……えと、何が?」
エルシは誠の目を見ながら、緊張したような、何か期待しているような顔で再度問う。
「……本当に、ペンシャ兄さんに助けてもらったんですか?」
「……聞こえてたの?」
誠の問いに、エルシは静かに頷いた。思わず誠は溜め息をついてしまう。
エルシが言っているのは、今日アクリアに話した嘘話のことだろう。小さい声で話していたつもりだったのだが、エルシには聞こえていたらしい。
とりあえず、
「……あれ、嘘だよ嘘。ペンシャなんて一切出てきてないから」
「なんでそんな嘘を?」
「適当にアクリアを言いくるめれたら、こっちに都合良く動いてくれないかな、と」
「……なるほど」
エルシは一度何かを考えるように俯き、意を決したように顔を上げる。
「じゃあ、マコトさんたちはどうやって融合爆発から助かったんですか?」
「よくは分からないけど、アキラとかいう奴が助けてくれて……」
そこまで言って、誠はふと思う。神の子を信じるなと言われたのに、エルシに話しちゃって良かったのか? と。
今になって考えてみれば、アキラがわざわざ英語やローマ字を使っていたのは、誠にのみ伝える為じゃなかったのかと思う。だとすれば、信じるなと言っていた神の子にアキラのことを話すなど論外で……。
(あ、やばいやらかした!? ええと、言い訳言い訳……なんて言うべきだ、なんて言って誤魔化せばいいんだ!?)
ぐぬぬと悩む誠だが、そこでエルシが急に静かになったことに気づく。
不思議に思ってエルシの方へと顔を向けると、エルシは顔を俯けていた。その体は、若干震えているように見える。
「エルシ、さん?」
「……その人の特徴」
「え?」
エルシは俯いたまま、震えた声で喋る。
「その人の、顔の特徴はなんでしたか?」
「え、んーと、……優しそうな顔?」
「……っ!!」
エルシは胸に手をやり、拳を握っている。まるで、何かを抑え込んでいるようだった。
「……知り合い?」
誠が問うが、エルシは首を横に振る。
知らない、と言いたいのかもしれないが、反応が明らかに知っている人の反応だった。しかも、過去に何かしらあったような。
「……言いたくないってこと?」
「……すいません」
エルシはそれだけ言うと黙り込んでしまう。そんなエルシから目を逸らし、空を見上げながら誠は言う。
「そのアキラに『神の子を信用するな』って言われたんだけど……」
「……それは、その通りです」
「え?」
エルシは立ち上がり、誠に背を向けながら聞こえるか聞こえないか程度の声で呟く。
「私たちのことは、あまり信用し過ぎないようにしてください。私たちは貴方たちのことを、簡単に見捨てる」
それだけを言うと、エルシはゆっくりと歩き出す。……が、酔っ払いのようにふらふらとしていて、まともにまっすぐ歩けていなかった。
誠は頭をガリガリと掻き、溜め息をつきながらエルシに近づき肩を貸す。
「す、すいません……」
「いいよ別に」
面倒くさそうな顔をしながらも、誠はエルシに合わせてゆっくりと歩く。ただし、その視線は前ではなく、後ろに向けられていた。
視線の先、誠とエルシの背後に、『何か』がいた。
人の形のような気もするし、犬や猫のようにも見える。体は不透明かも思えば虹色に見えたりと、色々と安定しない存在だった。
その『何か』は誠に顔を向け、ニヤリと口を歪ませた、ように見えた。
直後、『何か』は音も光も出すことなく消え去った。
「……適当に言ったつもりだったけど、案外本当だったのかね」
「……?」
「なんでもない気にしないでいいよ」
どこか遠くで誰かが笑っている。
なんとなく、誠はそう思った。




