嘘のお話
とりあえず、エルシとエビルと合流して言っておきたいことがある。
「やっほークソッタレの神の子供たち! まだ全部把握したわけじゃないけどとりあえずこれで俺とお前らは一心同体! よろしく☆」
いつの間にか街へと戻っていたらしいエビルとエルシに向けて誠はそんなことを言ってやる。因みにその背中にはアクリアを背負い、その背中にウォンターが引っ掛けてあった。
開口一番にそんなこと言った誠に対して、エビルは溜め息を吐く。
「……他に手段はなかったのかと、我は後悔しているぞ」
「ねえよ。あのまま何もしなかったらお前らやられてるし? まあ『加工』された後に元に戻す方法くらいは探すけどさ、多分すっごい時間かかってるだろうし」
「……はぁ〜」
「溜め息すんな」
溜め息吐くエビルを軽く小突き、誠はアクリアを下ろす。
アクリアの服を剥ぎ取りながら誠はウォンターを手に取る。
「エルシさん、ウォンター持ってみて」
「なんでですか?」
「いや、直接持てば何か分かったりしないかなって。なんというかこう、神の子直結ライン的なもので」
「そういうのはないと思うんですけど……」
と言いつつも、エルシはウォンターを受け取る。エルシはウォンターを持って見ているが、やがて首を横に振る。
「駄目です。全くわかりません」
「……じゃあこいつに聞くしかない、かぁ」
誠はアクリアの体を蹴りながら呟く。さっきから雑に扱っているのだが、まるで目を覚まさない。
「エビルさんや、今どれくらい力残ってる?」
「スッカラカンだが、お前の側で力を回復しつつなら、マッチ棒程度の炎」
エビルの言葉を聞き、暫く考えた後に誠はアクリアを指差す。
「よし、焼いて起こすか」
ジュッ! と肉が焼ける音と匂いがし、アクリアが跳ね起きた。ミノムシのように縛られているので、立ち上がることはできてないが。
「あっづぁ!?」
「おはようございます。水の神から人間に堕ちた元神様(笑)さん」
ゴロゴロと狭い道を転がるアクリアは、誠の言葉を聞いてなどいない。必死に自身を焼いている炎を鎮火させようとしている。
水の用意なんぞしてなかったので、アクリアが自分で鎮火してくれるのを待つ。少しして火を消し終えたアクリアに近づく。
「状況は分かってるよね? だったらどうすればいいかも」
「……貴様は神の子に使い潰されるつもりか」
アクリアはエビルとエルシを睨みつけながら喋る。
「所詮! そいつらは人間を下等生物だとしか見ていない! 依代などと言ってる時点でどちらに主体があるかなど分かるだろう! それが分かっていながらそうしているつもりか! どうなんだ!」
「……なんか熱くなってるけどどうしたの? ウォンターにでもなんかされた?」
誠がそう言うと、アクリアは悪態をついてそのまま黙ってしまった。図星だったようだ。
誠は溜め息をつき、アクリアの耳を引っ張る。
「あだだだだ!? 何をする!?」
「(……熱くなるなよ。揚げ足を取られても知らんぞ)」
「何を……」
「(気づいてないんだろ。ずっと俺らのことを見てる神の子の存在)」
「……!?」
エビルやエルシに聞こえない大きさで、誠はヒソヒソと喋る。
「(空間を司る神の子ペンシャ。そいつがずっと俺ら、正確には俺のことを見てるんだよ)」
「(……それは本当なのか?)」
「(本当だよ。……そもそもお前さ、なんで俺たちが生き残ってると思ってんだ?)」
「(……それは)」
「(ペンシャの奴が俺らを守ったんだよ。善意とかじゃなくて、依代に使える奴は残しておきたいっていう考えだろうけどな)」
もちろん、全部嘘だ。誠たちを守ったのはアキラと名乗った男だし、ペンシャなんて何処にいるのかも分からない。
だが、そもそも真実である必要はない。こちらの良いように誘導できるなら、嘘だろうとなんだろうと構わない。
アクリアが、ゆっくりと口を開く。
「(……それは本当なのか?)」
「(こんな時に嘘を言うほど余裕があると思うか?)」
「(俺を騙した奴を、簡単に信用すると思ってるのか?)」
「(……悪かったとは思う。けどあそこで俺が完全にお前側につくと、まず間違いなくペンシャが乱入してくるぞ)」
「(……俺が負けると思ったのか)」
「(お前が勝つ負ける以前の問題だよ。ここには獣人もいるんだぞ。ペンシャとお前が戦ってる騒ぎを聞きつけてやって来られたらどうしようもないんだよ。そして俺は獣人に目をつけられている。もし、もしもペンシャと獣人が俺らを共通の敵として見て手を組んだら? ペンシャが空間を捻じ曲げて、お前の水の壁を無視して獣人が攻撃できるようにしてきたら? 勝ち目あるのか?)」
「(…………)」
「(たられば理論だとか言うなよ。あの時点では充分にそうなる確率はあった。だから俺はより確実な方を取った。この世界、依代になれる奴は少ないんだろ? だとしたら予備は絶対に残すし、エビルとエルシと契約しちまえばあの二人の為に俺を生き残らせようとするっていうのも予想できた。……お前も一緒に助けられたのは予想外だったけど)」
誠の言葉がアクリアに染みていく。実際に起きたことと、可能性。それらが合わさり、誠の言葉が偽りの重さを持っていく。
「(……これからどうするつもりなんだ?)」
「(お前を逃す)」
アクリアを締め付けている衣服を緩めながら、誠は答える。
「(エビルとエルシの力はスッカラカンだ。今なら楽に逃げられる。逃げて、ペンシャの依代の相手を探してくれ)」
「(ペンシャにも依代がいると?)」
「(多分、というかほぼ確実に。力の回復の目処も立ってないのに俺らを監視するとは考えにくい。既に依代がいて、力を回復できるようにしてあると考えるべきだろうよ)」
「(……なるほどな)」
「(近々空の魔物を殲滅する為に国が動く。空の魔物ということは飛空挺を使うだろうし、その際にコッソリ別の国にでも行ってくれ)」
「(わかった)」
我ながらペラペラとよく口が回るなぁと思いながら、誠はトドメの一言を放つ。
「(……頼むぞ。お前しか信用できないんだ)」
アクリアは驚いたように目をパチクリと開かせ、やがて獰猛な笑みを浮かべる。
「(……任せろ)」
ちょろいなぁ、と心の中で思っていると、アクリアが右手を勢いよく誠の腹に押し当てた。
「(嘘の補強だ。我慢してくれ)――風爆!」
「え?」
誠が驚きの声を上げた瞬間、ボンッ! という音がし、腹に衝撃が走る。
誠が腹を抱えながらその場に倒れた瞬間、アクリアは立ち上がり、全速力で走って逃げ出す。
「馬鹿め、油断しているからだぁ!!――(秘話)」
『手加減はしたから骨は折れてないはずだ。まあ、加減を間違えていたらすまん』
頭にそんな言葉が浮かんでくる。相手の頭に直接言葉を送りつける魔法でも使ったらしい。
エルシがウォンターとエビルを持ったままアクリアを追いかけようとしたのを、誠は慌てて止める。
「ま、待ってエルシさん! 力が全然残ってないのに追いかけるのは危険すぎる!!」
誠の言葉を聞き、エルシの動きがぴたりと止まる。クルリと向きを変え、今度は誠の方へと駆け寄ってくる。
「大丈夫ですか?」
「……へ、平気平気。腹を強打されて痛いだけ」
誠は腹を抱えたままそう答える。
だから、
「……そうですか」
エルシの目がいつも誠に向けているものとは違うと、気づけなかった。




