優しそうな男のお話
死んだな、と誠は思った。視界は白く染まり、音は一切聞こえなくなった。
今になってエビルとエルシは巻き込まれてないかと心配になるが、もうどうしようもない。
自分の体を作り直せるのかも分からないまま実行したが、これで良かったのかも分からない。
だがもう、何を考えても仕方ない。もう誠には、どうしようもないのだから。
……と、思っていたのだが、
「………………………………あれ?」
突然、視界に色が戻ってきた。自分の声も普通に聞こえる。
誠は首を傾げ、自分の体を見る。
傷一つなかった。服が破れたり焼けていたりといったことも一切ない。ついさっき、爆発が起きたにと関わらずにだ。
(……まさかあんだけ凄い爆発が起きる的なこと言っておいて、実は大した威力じゃなかったとかいうオチ? やだよー、俺はやだぞー。威力がないせいでアクリアと第二ラウンドとか勘弁だよー)
足元に視線を向けると、アクリアが地面にぶっ倒れていた。こちらも誠と同じく、傷を負った様子はない。
マジで威力ないパターン? と誠が思いながら辺りを見回し、気づく。
今誠たちがいるのは森だった。だが誠が辺りを見回してみても、あるのは整地されかのような真っ平らな地面だ。森どころか緑もない。
(融合爆発で吹っ飛んだとか? だとしてもこんな広範囲を吹き飛ばす威力の爆発を間近で受けて俺らが平気なわけないし……ついでに言えばクレーターみたいなのくらい出来上がっていてもいいと思うんだけどなぁ……)
首を捻るが、誠に答えは導き出せない。
分からないことをやるくらいなら、分かることをやるべきだと思い、誠は早速行動を開始する。
(とりあえずウォンターは回収。アクリアは服ひん剥いてその服で縛ればいいか。後はエビルとエルシさんだけど……あの二人は何処だ? あの二人だけ爆発を食らったとかいうのはなしでお願いしたいなー)
とりあえずやっちまうか、と誠がアクリアに近づいた瞬間だった。
ガクンッ! と。
アクリアが普通ではあり得ない挙動で起き上がった。
起き上がり小法師やだるまのような動きだった。手を一切使わず、つま先が地面についたまま、体をまっすぐ伸ばしたまま一瞬で、アクリアは起き上がった。
突然のことに誠の思考が止まりかけるが、無理やりに体を動かさしてアクリアから距離を取る。
(気持ち悪いなおい! 何をどうしたらそんな起き上がり方ができるんだよ!?)
距離を取ってから気づいたが、完全に失敗だった。誠の攻撃手段なんて殴る蹴るくらいしかないのに、距離を取ったら不利になってしまう(殴り合いで勝てる自信があるわけでもないが)。
エビルたちの力は使えない。さっきの爆発の時に想像したのは『ペットボトルの中身を全部鍋にぶち込む』といった感じなので、貰った力は全部融合爆発に使ってしまっている。
対して、向こうは魔術師。全力で逃げられて遠距離から一方的に魔法を撃ち込まれては勝ち目がない。
(とにかくまずは近づこう! もう見栄えなんて無視して金的狙いまくってやる!)
……弱点を狙うというのは戦略的には間違ってないのだが、かなり汚いことをしようとしている気がするのは気のせいか。
誠が身をかがめ、一気に近づこうとした直前、アクリアの口が開いた。
「……Hello?」
思考が、どこか遠くに飛んでいった。
一瞬、アクリアが何を言ったのかが分からなかった。数秒経って、ようやく『こんにちは』と言ったのだと理解する。
だがおかしい。誠はこの世界の文字はある程度調べたのだが、――英語、もしくはそれに似た言葉なんてこの世界にはないはずだ。
「……は?」
この世界にはないはずの言葉を使う。
考えられる可能性としては、アクリアも誠と同じ世界から飛ばされてきたか。
「……あれ?」
そんなことを考えていると、アクリアが再度口を開いた。顎に手をやり、首を傾げている。
「おっかしいなぁ。そっちの世界の標準語ってこれであってるはずだよね? ええと……你好? bonjour?」
「……?」
何かおかしい。アクリアの口調が、さっきまでとは明らかに違う。まるで別人のようだ。
不思議に思ってアクリアを見ていると、ザザザッとその体にノイズのようなものが走った。アクリアの体が、似ても似つかない男の顔へと変わる。
優しそうな顔だった。いるだけで周りに安心感を与えるような、そんな雰囲気を醸し出している。
「よしよし。とりあえずこれでいいかな? 僕がこの人とは全く違う別人だということは理解できてる? 後言葉は通じてる? 英語で喋ろうか?」
「い、いや通じてるから。下手に英語喋られる方がわからないから!」
「よかったよかった。しかし無茶するねぇ君。融合爆発をいきなりぶちかますなんて、僕がいなかったらどうなっていたか」
ふぅ、とため息をつきながら目の前の男はそう言った。誠は周りに視線を向けながら問う。
「……こんな爆発から俺を守れるくらいの力を持ってる、つうことか。とりあえず助かった、ありがとう」
「いいよいいよ、そもそも僕が誠をこの世界に連れてこなかったらこんなことになってないわけだし」
「……へ? 今何て言った?」
「っと。時間がそろそろ危ないから話すべきことは話とかなくちゃ」
「ねえ、ちょっと! あんたさらっと言ったけど結構重要なことだよね!?」
ザザザッザザザザザッ!! と男の体にノイズが走る間隔が短くなっていく。何かが切り替わるようにアクリアの体へと戻っていく。
「短いなぁ……とりあえず、僕が君に伝えときたいことは二つ」
「いやだからさ! なんでめっちゃ気になることをスルーしていくんだよ!? 気になって仕方ないじゃん!?」
男は誠の言葉に聞く耳を持たず、早口で言い切る。
「一つ、神の子を信用するな。二つ、神の子の力を過信するな」
ノイズが酷くなり、殆どアクリアの体になっている。完全に戻る前に、誠は叫ぶ。
「あんた、名前は!?」
「……、――!」
男が何か言ったが、ノイズが酷くて誠に届かない。男もそのことに気づいたのか、右腕を振るう。
ギャリギャリギャリギャリ!! という音がし、地面が削り取られた。いったい何をしたのかも、誠には分からなかった。
直後にアクリアへと姿が戻り、そのまま地面に力なく倒れる。男は完全に消え去ったようだ。
「…………」
地面には文字が書かれていた。この世界の言葉ではなく、何故かローマ字で。
(……そういえばこの世界、ローマ字もないんだよなぁ)
そんなことを思いながら誠は久しぶりに見たローマ字を読み取る。誠の質問に答えてくれたらしく、地面にはこう書かれていた。
『Akira』と。




