神となった者のお話
今回、いつもの二倍の量です。
今回、いつもの二倍の駄文です。
ご注意を。
「で、お前たちはあの依代をどれくらい使い潰すつもりなんだ?」
「…………」
アクリアのその言葉で、場に静寂が訪れた。エビルは何もしないし、エルシは何か思うところがあるのか苦い顔になっているし、アクリアはそんな二人を見てニヤニヤと笑っている。
そして、誠は死角に隠れたまま顔に手を当てる。エビルもエルシも何も言わないあたりで、だいたいを察してしまった。
エビルとエルシは、誠を使い潰す気があったようだ。
(……いやまあ、誰だって使えない物よりは使える物を使うか。むしろそんなことを考えられたんだと喜んでやるべきか? ……流石に馬鹿にし過ぎな気もするけど)
とはいえ、一応は予想していたことだ。そこまで驚くこともないだろう。
誠は潜んだまま、懐にある物の重みに意識を向ける。
ズボンのポケットには、黒い箱にケーブルで繋がった黒い円柱があった。昨日ロボの脚から取った、光線銃だ。
(……一応、これを腹にぶち込むだけで終わる、はず。魔法はイメージしないと駄目みたいだし、激痛の中まともにイメージなんてできないだろうし)
ただし、問題が二つある。
一つは、そもそも奇襲が成功するかどうか。もう一つは、誠に人を撃つ覚悟が出来るかどうかだ。
(俺の奇襲が成功しなくても、俺に意識が向いた隙にエルシさんかエビルが攻撃すれば多分大丈夫。……だけど)
ポケットの中にある物が、やけに重く感じる。
それで誰かを傷つけることを想像すると、手が震えた。殴る蹴るくらいなら誠だってしたことはあるが、これはそういうレベルではないのだ。
撃てば、相手は死ぬかもしれない。
そのことが、誠の体を固くしていた。
(……今はまだ動かなくていいんだ。やるなら、この状況が変わる瞬間がベスト。だから今はまだいい。今は落ち着け)
自分に言い聞かせ、誠は手の震えを止めようとする。若干だが震えが止まった、ような気がする。
そうこうしていると、笑みを崩すことなくアクリアが口を開いた。
「……何も言わない、か。今更隠すことでもないだろうに。もしくは俺に話すことはないとでも言いたいのかな?」
「……ふん。当たり前のことを聞いてきたものだから、なんと答えるべきか迷っているだけだ」
「そうか、それならよかった。俺もせっかくの神の子を使い物にならなくするのは気が引けるからな」
(つまりこの状況でいつでも攻撃可能と。やっぱり何か魔法でも使ってるのか、単純に爆弾でも持ち歩いてるかだな)
そう思いながらアクリアを観察するが、何処かに武器を隠し持っているといった感じはしない。
(となると、やっぱり魔法か。何を使えばエビルとエルシさんを倒せるかね。炎熱風は駄目だから、何かあるとすれば水か土。……土、地面?)
改めて誠はアクリアを、正確にはその足元を観察する。
パッと見では何もない。だがよくよく見ると、アクリアの足から透明に近い細い糸が生え、糸はエルシの近くまで伸びていた。
(……ちょうど昨日見た本に書いてた、『土針』だっけ。地面から土の針が大量に出てきて相手に突き刺さるとかいう。ちょっと移動するだけで避けれると思うんだけど。……駄目だ、あの魔法発生早いからエルシさんに教えてから動く前にアクリアにやられちゃう)
どうしたもんかと誠が悩んでいる間も、エビルとアクリアは喋り続ける。
「それで、いつまで使い潰すつもりなんだ?」
「使い潰すつもりなどない。あいつよりも良い依代を見つけるまでの代用でしかないからな。使い潰す必要もないだろう」
「俺には使い潰す価値もないからしない、と言ってるように聞こえるがな」
「間違ってはない。何かを成すために、何かを捨てる覚悟もないような奴を、壊れるまで使うなど時間の無駄だ」
「そうかいそうかい。……ところで、さっきから風の神の子が一言も喋っていないのだが、そっちの考えは如何に?」
「……私は」
話を振られたエルシは、睨むような目つきでアクリアを見ていた。
「私は、マコトさんを利用するつもりなんてありません」
「……ほう?」
「エルシ? お前急に何を……」
エルシはエビルを持ち上げ、赤い石を見ながら喋る。
「エビル兄さん。さっき貴方は、マコトさんのことを覚悟のない奴と言いました」
「そ、それがどうした? 現にあいつはわけの分からん理由を言って動こうとしなかったではないか?」
「私は、それは違うと思います。確かにマコトさんは、誰かを殺すことができない人かもしれません」
だけど、とエルシは続ける。
「それは覚悟がないのとは違います。誰かを傷つけた結果、その誰かを想う人を悲しませることを想像して、傷つけることができない人のことをきっと……」
「……優しい人、とでも言うつもりかな?」
エルシの言ったことを馬鹿にするような口調で、アクリアは喋る。
「そうやって他人を気にした結果、自分がやられてしまうような奴はただの馬鹿だ。それは優しさではない。ただの甘さだ」
「……それでも」
エルシはアクリアを睨みつけ、自身の胸に手を当てながらはっきりと言葉にする。
「そんな甘い人に、救われた化け物だっているんですから」
「…………」
自身のことを化け物と自嘲するエルシに、エビルもアクリアも暫く何も言わなかった。
やがて、ゆっくりとアクリアは口を開く。
「……つまらん」
直後、アクリアの仕掛けた土針が起動した。
音などの前兆は一切なかった。
静かに、それでいて一瞬で、大地は針の山と化した。
回避する余裕などなかった。エルシやエビルが気づく暇もなく、エルシの心臓を土の針は貫く。――はずだった。
「…………」
アクリアの目の前には、土の針の山が出来上がっていた。魔法は問題なく発動していた。
だが、位置が違う。針の山はエルシとアクリアの中間辺りに出来ており、エルシには一切刺さっていなかった。
原因は簡単。エルシの足元まで伸ばしていた糸が、光線によって焼き切られたのだ。光そのものが見えたわけではなかったが、光が空気中の塵などを焼いた跡がアクリアには見えた。
今更のように驚いて距離を取るエルシから視線を外し、アクリアは光線が飛んできた方を向く。
そこには誠が立っていた。光線銃を片手に持ち、スイッチを何度も押しているが光線が出てくることはない。弾切れのようだ。
「……隠れて聞いていたとはな。警戒を怠ったつもりはなかったのだがな」
「そりゃどうも」
誠は光線銃をそこら辺に放り投げ、アクリアと対峙する。
アクリアが手を掲げると、地面に刺さっていたウォンターが引っこ抜け、クルクルと弧を描いてアクリアの手に収まった。
直後、アクリアの身を守るかのように大量の水が現れ、アクリアを包み込む。
「……それで、お前はこれからどうするつもりだ? まさかこのまま利用される側に立つつもりではあるまい?」
そう言いながら、アクリアは誠に向けて手を伸ばす。
「利用する側に立ちたいなら、手を貸すぞ? なに、そこの奴ら程度なら俺が一瞬で叩き潰し、このウォンターと同じ状態にしてやるさ」
「……なに? 勧誘か何か?」
「というより、思いっきり勧誘しているつもりなのだがな。さあどうする? このまま使い捨ての人形として生きるか、逆にそこの奴らを使い潰せる側に立つか」
「…………」
アクリアから目を離し、誠はエルシの方を振り向く。
エビルは動揺しているかのようにカタカタと震えている。アクリアが本気でやるようになったら勝てないことくらいは分かっているようだ。
対してエルシは、静かに誠の顔を見ていた。何やら迷っているように見える。
はぁ、と誠は溜め息をつく。
エビルやエルシの思惑がどうとか以前に、ここでアクリアと戦っても絶対に勝てないだろう。エビルとエルシが誠に協力してくれても、アクリアに勝てるビジョンは浮かばない。
ならば、誠がここで取るべき行動は一つだ。
「……わかった、アクリア」
誠は手を伸ばし、アクリアの手を掴む。
「それじゃあ早速だけど、よろしく頼む」
「……いいだろう」
アクリアは満足そうに頷き、一歩エルシに近づく。
ウォンターをエルシに向け、嗜虐的な笑みを浮かべる。
「殺しはしないから安心しろ。まあ人形生活の始まりだがな」
「……くそ」
エビルがポツリと呟く。
そして、
「――。」
人では決して喋れない言葉を、エビルは使う。
言葉を理解できたエルシは驚いた顔でエビルを見る。対してエビルは何事かを呟く。何かを諦めたような、策に嵌められたような、力のない声だった。
アクリアはそんな二人のやり取りを見て、逃げる算段を立てているのだと推理する。
「逃げる算段を整えようとしても無駄だ。今のお前たちには殆ど力が残っていないのだろう? 俺から逃げられるとは……」
アクリアの言葉が最後まで言い切る直前。
ボッ!! と。
アクリアの後ろから、火と風の力が湧き出てきた。
「――っな!?」
アクリアの後ろに立っていた誠は、火と風の力を抑えることなくアクリアの腕を掴み取る。
同時に、火と風の力が混ざり合うのをアクリアは感じ取る。
融合爆発。神の力が混ざり合った時に起こる、辺り一帯に莫大なエネルギーを撒き散らす現象。
それらを予測しながら、アクリアは自分の推理が間違っていたことを気づく。
(あいつら、さっきの会話はこいつに力を渡すかどうかを話し合ってたのか!)
アクリアは誠を振り払おうと腕に力を込める。だが誠は逆にアクリアの体にくっつき、アクリアを守っていた水の中にすっぽり入り込む。
(俺の提案に乗ったのも、あいつらが力を渡すように誘導するためか! 何せあいつらでは俺を殺すことはできん。ならば倒せる者に力を渡すのが道理! 例えあいつらが意固地になってそのまま俺にやられてしまっても、マコトには何の痛手にならないし、むしろ火と風の神の子を扱いやすくなって得しかない!)
そこまで考え、それらのことに驚いた上で、アクリアは考えていることとは全く別のことを叫ぶ。
「お前、何故ぶっつけ本番で神技を使える!? いやそれより、何故躊躇なく融合爆発をやろうと思える!?」
「この世界の魔法とかは全部想像だろうが! だったら簡単な話。水と油が混ざるのを想像するだけでいい!!」
そして、と誠は付け足す。
「融合爆発だなんて大層な名前が付いてるけど、爆弾爆発させるのと殆ど変わんねえんだろ! だったら爆風に指向性を与えればいいんだ、爆弾に鉄板くっ付けて爆風を一定の方向に集中させるように! 例えば水の壁で塞いだり!!」
そう言いながら、誠はアクリアの持つウォンターを掴む。アクリアが慌てて振り払おうとするが、誠の腕は神の子が作った特別性。見た目以上の力を持っている。
「そしてお前は水を操る時に一々ウォンターを振るってた。『加工』のせいかは知らんけど、想像で水を操ることができないんだろ。……これでチェックメイトだ。弾け飛べ、水の神」
「ふざ、けるな。このままだとお前も巻き込まれ……!」
「……神の子って、体を作れるんだろ? だったら俺の体をエルシさんに作ってもらえばいいだけじゃん?」
誠がそう言った直後。
音と光の概念が、消え去った。




