協力のお話
「あっぶな! もうちょっとで俺ら罠にかかるところだったぞ!」
勢いよく扉を開け、真也は開口一番にそんなことを言った。誠はゆったりとお茶を飲みながら真也に聞く。
「どんな感じだった?」
「アジトのなかったを動き回ってみたんだけど、指令書を見つけてさ。各アジトのリーダー宛に部下に虚偽の情報を教えて敵をおびき寄せってあった。五十人くらいで俺らを潰すつもりだったらしいな」
「……獣人五十人ってどれくらいの戦力?」
「人間と戦争して勝てるくらいの戦力だよ」
たった五十人に負けるなよ人間と誠は思ってしまうが、この世界の人間の武器は剣が主なのだ。音速で動き回る獣人と戦えというのは無理があるだろう。
「ところで俺のケーキ……」
「向こうの箱」
「いえーい苺大好き!」
尻尾を扇風機みたいにぐるんぐるん回しながら箱からケーキを見ながら誠は呟く。
「……『俺は拷問には屈しないぞ』と行っていた真也はどこに行ったのやら」
「あの時は見栄を張っていたのだろう」
「ただのネタキャラになってるなぁ……」
真也を呆れた目で見ていた誠だが、ゆっくりしている場合ではないことを思い出す。
「そういえば、結局嘘だったみたいですけど、これからどうしますか?」
誠の言葉に、格郎は腕を組んだまま唸る。
「うーん、儀式に必要な物が今何処にあるのかを確認し直さないといけないな」
「もしくはこのまま隠れ続けて、飛空挺が出るようになったらすぐさま逃げ出すか。……個人的には隠れてもらってた方がいいと思っます。このまま何も動かなければ居場所がバレることはまずないでしょうし、……何よりわざわざ獣人の中に突っ込むよりは安全です」
「「…………」」
誠の言葉を聞き、格郎と真奈は顔を見合わせる。少ししてから格郎がゆっくりと口を開く。
「……誠君、少し外に」
「? はい」
格郎と真奈に続いて誠も部屋から出る。廊下を少し歩き、部屋から距離を取る。
「……葉奈たちには内緒の話ですか?」
部屋の扉がしっかり閉まっているのを確認しながら誠が問う。
格郎と真奈は再度顔を見合わせる。二人は目で何か合図を交わし、格郎が口を開く。
「……君に、聞きたいことがある」
「なんですか?」
「何故私たちにここまで協力してくれるんだ? 君がいることは、正直とてもありがたい」
少し間を空け、だが、と格郎は付け加える。
「君が私たちに協力する意味が分からない。はっきり言うが、私たちは君が怖い。何故私たちに協力するのかも分からない。神の子などという莫大な力も持っている。……理由を教えてくれないか? 嘘偽りのない、君の本音を」
ズズズッと、格郎から得体の知れないオーラのような物が放たれる。
それは、殺気だった。
「もしそれが、私たちに害をなすならば。その理由が、葉奈を陥れるようなことならば!」
いつの間にか、誠の首に格郎の手刀が置かれていた。音はなく、誠にはその動きを捉えることはできなかった。
「……教えてくれ。何故、君は私たちに協力してくれる?」
「…………」
誠は首に置かれた手刀に目もくれず、格郎の眼を見つめる。
「……大した理由は一切ないです。何かの目的の為に行動しているとか、先のことを見据えているわけでもありません」
「だったら、なんだ?」
誠は大きく息を吸い、ゆっくりと言葉を吐き出す。
「困ってる人がいたから助けた。ただそれだけです」
一瞬、本当に一瞬。
格郎と真奈の顔が、驚きに満ちた。すぐに二人は平静を装ったためしっかりと見ることはできなかったが、確かに驚いていた。
そのことに気づきながらも、誠は続ける。
「熱中症の人がいたから助けた。落し物を探している人がいたから一緒に探した。変なやつらに絡まれていたから助けた。本当に、本当にただそれだけのことです」
「……君は」
格郎は言葉を選びながらゆっくりと口にする。
「君は、本気で言ってるのか? 獣人の為に、異種族の為にそこまですると?」
「異種族だなんて言わないでくださいよ。そんなの日本人か中国人かアメリカ人かとか、その程度の問題じゃないですか。獣人も人間も大した差はありませんよ」
「…………」
今度こそ、格郎の顔が驚愕に満ちるのを誠はしっかりと見た。
誠は息を吐きながら言う。
「……ところで、そろそろその手を離してくれませんか? さっきからエビルが鞘から抜け出そうとカタカタしてるんです」
「ふぬー! ふぬぬー!」
エビルの動きに気づいた格郎が慌てて誠の首から手刀を離す。エビルが落ち着いたのを見てから誠はエビルから手を離し、溜め息をつく。
「……こんなところで暴れようとすんな。お前力殆ど残ってないくせに」
「依代を壊されてはたまらんからな」
「回復手段が無くなって困るんですねわかります。……ところで」
誠は格郎と真奈の後ろの方を指差し、
「……葉奈が凄い顔でこっち見てるんですが、どうします?」




