引っ掛けたお話
「……とりあえずベッドに寝かしておきましたわ」
ファニーはそう言って部屋から出てきた。
「エルシさんどんな感じ?」
「どんなと言われましても……。暫く目は覚まさないというくらいしか分かりませんわ」
誠の問いに、ファニーはそう答えた。誠はエビルを鞘から引き抜く。
「なあエビル、エルシさんに何があったか分かんないのか?」
「さあな。正直、今のエルシには分からないことが多すぎる。昔はあんなによく喋ったのに、今は静かすぎるくらいに無口になっていたりするからな」
「え? エルシさん昔は普通に喋ったの?」
「喋りすぎるくらいにな。思ったことはすぐ表に出るし、必要のないことまでベラベラと喋っていた。我らが何度注意しても変わらなかったのだが……」
「今では真反対に無口無表情、と。……うーん」
誠は唸りながら考え、首を振る。
「考えても分かんないからやめやめ。エルシさんが起きたら話聞けばいいんだし」
「その時は我も一緒にいるからな」
「そうしてくれ。……所で、マーチェさんは何をしてるんだ?」
誠とファニーの視線が同じ所に向く。視線の先には扉があり、扉の向こう側には大量の衣服があった。
「エルシの発汗が凄いから着替えさなきゃ、と張り切ってますわ」
「……なるほど」
誠は扉を開け、部屋の中にある衣服を適当に持って部屋を出る。衣服をファニーにぽいっと投げ渡し、別の部屋にあった鉄くずを持ってくる。鉄くずをエビルで溶かし、扉が開かないように塗りつけてはい完成。
「さあお着替えのじか……あれ? あれぇ!? 開かない! 何故!?」
「適当に時間経ったら開けてあげるー。ファニーさん後よろしく」
「マコトは何処に行くんですの?」
「買い物ですよ買い物」
ヒラヒラと手を振りながら誠は歩き去る。その背後からガンゴンガンゴンと暴れる音が聞こえてきたが、気にしないことにした。
誠は葉奈たちの所へと向かっていた。
別に嘘を言ったわけではない。エルシがあんな感じなので何か元気の出るものでも作るつもりではある。
だが獣人たちから盗ってきた物を持ち歩くわけにはいかない。だからまずは葉奈たちに手に入れた紙を渡しに行くのだ。
「おーい、葉奈さんやーい」
葉奈たちが隠れていた空き家に入るが、そこには誰もいない。荷物は置いてあるし、争った形跡もないから、単純に留守にしているだけのようだ。
「ちょうどいないのかよ……」
「後でまた来るか?」
「めんどい。暫く待って帰ってこなかったら紙置いて帰ろう」
よっこらせと言いながら誠は床に座る。椅子や座布団なんてここには無かった。
「……なあエビル」
「なんだ?」
「お前から見てさ、人間はどんな感じなんだ?」
「……どうした突然」
「別に何も。ふと思っただけ」
鞘に手を当てながら、誠は言う。
「お前らみたいにクソ長生きしてる奴らから見ればさ、人間ってどんな風に見えてるんだろうなって、ふと思ったんだよ」
「……はっきり言っても怒らないか?」
「怒らない怒らない」
「……何年経とうと、技術力が上がろうと、どこまでも自分の利益を追求し、神にさえ仇なす愚か者、といったところか」
「わーお、よくあるテンプレのような台詞」
「なんだそれは。我らの殆どは多少の違いがあれど皆このように思っているぞ」
「……殆ど?」
「ああ、エルシはどうも違う考えを持っていてな。何故か人間のことを気に入ってるのだ」
「一人だけ?」
「一人だけだ」
「なんで?」
「わからん」
はぁー、と息を吐きながら鞘からエビルを引き抜く。
「……そんで、血の匂いを隠してない馬鹿は何がしたいんだ?」
「……マコト? いったい何の……」
エビルが呟いた、その直後だった。
ドッ!! という音が、部屋に響き渡った。
「っ!?」
誠の頭があった場所を、ローブを着た男の拳が貫いていた。誠が咄嗟に後ろに転がらなければ、今頃頭のない死体が転がっていただろう。
避けられたことに驚く男に向けて誠は剣を向けながら叫ぶ。
「殺すな!」
轟ッ!! と剣先から爆炎が放たれ、そこから生じた衝撃波が男の頭を揺らす。脳を揺らされた男はそのまま床に倒れこむ。
誠は部屋に放置されていた荷物から縄を取り出し、男を縛る。
「ま、マコト、お前何故この者のことがわかったんだ?」
「別に気配を感じ取ったりしたわけじゃなくてただの予想だよ。葉奈たちが襲われたという予想をしただけ」
男が身動きとれないことを確認しながら誠は言う。
「普通に考えて部屋に誰もいないはずないんだ。だって葉奈たちは俺が情報を持ち帰ってくることを知っているのだから、必ず誰かを留守番に置く。そうでなくても何かしらのメモ書きくらいはあっていいはず」
男のローブを誠は剥ぎ取る。男の腰の辺りから、ヒョウの尻尾が生えていた。
「それらがなかったことから、葉奈たちは襲われて逃げたんじゃないかと思ったんだよ。んで、その襲った獣人たちの一人くらいここで見張ってるとも予想。荷物を取りに来るかもしれないし、どうせ俺が協力してることもバレてるだろうから、俺がここに来ることも予想されてたんだろうし」
「そしてちょうど我らはやってきてしまった、と」
「で、そこまでは予想できるんだけど、だからといって俺じゃあ隠れてる奴見つけることなんてできないから、来ないかなーと思って適当なこと言ったんだけど……まさか本当に来るとはねー。ちょっと下がるタイミングズレてたら死んでたな俺」
はっはっはと笑う誠だが、実は汗ダラダラだったりする。
何せ全部予想でしかなかったし、男の攻撃を避けれたのも、何となくここら辺で攻撃してくるかなーという勘に近いものによるものだったのだ。怖いとかそういうレベルを超えていた。
(……とか思いつつも普通に実行しちゃうあたり、俺壊れてきてないか?)
自分の精神を不安に思う誠の気持ちなんて知らず、エビルは誠に聞いてくる。
「で、こいつはどうするのだ?」
「どうするって、決まってんじゃん」
エビルの問いに、誠はとても良い笑顔で、明るい声でこう答える。
「拷問、です!」




