視線のお話
「そういえばファニーさんの所に行くって言いましたけど、居場所分かるんですか?」
誠の問いにマーチェは笑顔で答える。
「匂いで分かります」
「………………………………そ、そですか」
これ以上聞くのはやめとこう、と誠は思う。明らかに常人のやることではないし、そもそもマーチェのやることを理解できるわけがないのだ。いろんな意味で。
そんなことを誠が思ってるのを知らず、マーチェは鼻から空気を大量に取り込む。
「あ、いました」
「マジで!?」
「お茶でもしてるんですかね? とりあえず行きましょー」
驚く誠を置いてマーチェが歩き出したので、誠は半信半疑ながらも追いかける。
歩いて十分ほどしてファニーを見つけた。喫茶店のテラス席でエルシと一緒にゆっくりしている。
「……まさか本当にいるとは」
「ふっふっふ。ファニーのことならお任せあれ」
「わー、こころづよいなー」
「棒読みすぎません!?」
そんな風にマーチェが騒いでいるのが聞こえたのか、ファニーが誠たちに気づいた。無言で手招きしている。
そんなことされたら近づかないわけにはいかない。マーチェなんか二秒で椅子に座り、誠に向けて手をブンブンと振っている。
(格郎さんに渡しときたいんだけどなー……。あ、ファニーさん獣人の言葉知ってたりしないかな?)
そんなことを思いながら誠もファニーの所へ向かおうとする。
「(……マコト)」
その途中、エビルが小声で話しかけてきた。
「(どうしたエビル?)」
「(何故かはわからんが、随分と注目されているぞ)」
「(え?)」
「(それも一人や二人ではない。周りの奴らの殆どがこちらを注目している)」
うげぇ、と思いながらも誠は足を止めて辺りを見回したりはしない。どうせそんなことしても誠にはわからないし、気づいていないフリをしておいた方が良いと思ったからだ。
(殆どって、まさかここらの人全部敵とかいうパターン? 勘弁してくれよほんと)
ファニーたちと同じテーブルに座り、マーチェに手渡されたメニューを見ながら誠は考える。
(逃げるだけならエビルもエルシさんもいるから大丈夫か。問題は自称神様か獣人かなんだよなー。あ、革命軍もいたか)
「……随分注目されてますね」
ポツリと、マーチェがそんなことを呟いたが、誠は気づかない。
「放っておきなさいな」
(自称神様の場合何をされるか。そこら辺の水道から水は取り放題だからやりたい放題だな。素直にどっか逃げた方が良いか)
「でも落ち着きませんよ。ファニーもしかしてずっと見られてました?」
「ズゥゥゥゥッとですわ」
(獣人の場合は紙を取り返しに来た感じかな。まあ獣人の場合、エルシさんに頼んでぶっ倒れてもらったらいいか。……あれ、でもエルシさんカマイタチみたいなのはしてるけど、空気を操るのはできるのか?)
「あららー。やっぱエルシさんとファニーは目立ちますね」
「もう慣れましたわ」
(ま、まあ空気を圧縮できるならできるだろう、多分。後は革命軍……これどうでもいい気がする。ぶっちゃけ何があってもどうとでもできてしまう気がする)
「ナンパされました?」
「されました。適当にあしらいましたけど」
「まあ今はマコトさんいるから大丈夫じゃないですかね? 流石に男がいるのにナンパする馬鹿はいないでしょうし」
(拉致られそうになったとしても止めれるかな。この世界に車とかバイクがあるのを見たことないしなー。なんで飛空挺とかあるのにそういうのな……ん?)
そこでようやく、誠は何かが違うことに気づく。もう警戒とか無視して周りを見回してみると、自分たちに向けられる視線に込められた感情が見て取れた。
羨望、妬み、羨みといった感情だ。
「…………ふむ」
ファニーとマーチェ、エルシの顔を見てみる。間違いなく容姿はかなり良い方に入っている。
それらを認識した誠は、エビルを鞘から抜き出し、剣先と柄を持ち、全力で力を込める。
「待て待て待て待て! どうした突然!?」
グググッと、剣身が段々曲がっていく。
「た・だ・の! 野郎共の妬み光線じゃねえか! 獣人とか来たのかと思ったじゃねえかこの野郎!!」
「ちょ、待て! 折れる! お前の腕はエルシが作った腕なのを忘れてないか!? 鋼くらいなら簡単に折れるぞ!? エルシ、止めてくれ!」
エビルはエルシに助けを求めるが、エルシは俯いたまま動かない。
「……エルシさん?」
何か変だ、と誠は思いながらも両手に更に力を込める。
エルシが無口なのはいつもなのだが、それでも何かしらの反応を示してくれていたはずだ。
「…………」
「エルシさん? 本当にどうしたの?」
俯くエルシに誠が手を伸ばした、その瞬間。
ゴッ! と風の塊が誠の頭部へと撃ち込まれた。
「ぶっ!?」
完全に不意打ちをくらった誠は、そのまま床に倒れる。エビルが手から離れ、少し離れた所に滑っていく。
「ちょ、ちょっとマコト!?」
「大丈夫ですか!?」
「お、ぐおお……」
呻きながらも、誠は自力で起き上がろうとする。が、脳を揺らされたせいか何だか体に力が入らない。
「え、エルシ。止めてくれとは言ったがここまでしろとは……」
エビルのそんな台詞が聞こえてくる。体に力が入らないが声はちゃんと聞こえるので、別に大したことはなさそうだった。
頭も動かせないので、目線だけをエルシの方へ向ける。
そこには、この場の誰よりも驚いている少女が立っていた。
「……わ、わた……し」
体のバランスを保てずにフラフラしている。一歩後ろに下がると、バランスを崩してそのまま床に倒れてしまった。
「え、エルシさん!?」
マーチェがエルシへと近づく。誠も近づこうと体に力を入れると、体は案外すんなりと動いてくれた。
誠はまだ若干フラフラしながらもエルシに近づく。
エルシは、顔面蒼白にして気絶していた。




