自信のお話
「……何してんのマーチェさん?」
「それはこっちの台詞なんですが……。海に置いていかれて結構困ったんですよ?」
ジト目で見てくるマーチェに、誠はつい視線を明後日の方向に向けてしまう。マーチェの存在を完全に忘れていたのだ。
だが、置いていったのは明らかに誠が悪い。誠はマーチェの方に向き直り、頭を下げる。
「……そのことは、ごめんなさい」
「素直に謝られると面白くない」
「俺にどうしろと?」
「……解体?」
「死ねと!?」
「大丈夫ですよ、人の体のことは熟知してますから、バラバラにした後くっ付けます」
「まずバラバラにしないでくれませんかね!?」
そうやって誠がギャーギャー騒いでいるうちに男は逃げ出そうとするのだが、エビルが男の背後に高熱を発生させて逃げられないようにしていた。
「マコト、何でもいいからこいつを先に片付けろ」
「あ、忘れてた」
「…………」
「無言やめてー」
……実はエビル高熱出すのが結構キツくて喋れないだけなのだが、誠はそんなこと気づかない。無言の圧力と受け取った誠は男に近寄る。
「で、こいつ誰ですか? マーチェさんの知り合い?」
「全く知らない人です。街を歩いていたらずっと後ろを付いてきてて、怖くなって逃げてたら空から誠さんが降ってきた、という状況です」
「警察突き出そうそうしよう。明らかに不審者ですわこれ」
「だ、誰が不審者だ! このシタバ様が不審者なわけないだろうが!」
聞く前に自分から個人情報を渡してくれたシタバ様(笑)の顔を見て、誠はシタバの言葉を否定する。
「……んにゃ、お前さん明らかに悪い奴だろ。どっかの組織の下っ端とかだろお前」
「誠さん、顔で決めつけるのはよくないと思いますよ?」
「それに、こんな奴が何かしらの組織に属してるとは思えないんだが」
マーチェとエビルがそんなことを言っているのを聞いて、やっぱそうだよな的なことを言おうとした直前、シタバの顔が驚きの感情で満ちる。
「な、なにぃ!? 何故俺が革命軍の者だと知っているんだ!?」
「「「……………………」」」
「まさか革命軍の中に裏切り者がいるという噂は真実だったのか!?」
「……ええと、その質問には答えてやるから、ちょっと待ってろ」
適当なこと言いながら誠はマーチェの元へ歩き、道の端でヒソヒソと話し合う。
「(マーチェさん、あいつどっかの国の革命軍みたいだけど、どこの国とか分かる?)」
「(多分サイジェスタだと思います。革命軍がいるなんて聞くのはあそこだけですし)」
「(マーチェさんが狙われる理由は?)」
「(詳細は省きますが、私の作ってる物は使い方を変えれば軍事利用が可能ですから、多分それだと)」
「(……オーケー把握した。とりあえずあの人にはもうちょっと喋ってもらおう。馬鹿だから簡単にいけるだろ)」
誠は再度シタバに近づき、エビルがシタバの視界にきっちり収まるようにしながら質問しようとする。
「お、俺は言わねえぞ! そこの女の作ってる物のデータ手に入れて持ち帰り、大量の改造人間を作る計画があるだなんてこと!」
のだが、誠が何か言う前にこの男全部ゲロってしまった。ガクッ! と誠とマーチェはその場に倒れる。
(……あれ? ちょっと待てよ、改造人間ってまさか)
誠の脳裏に浮かんできたのは、先日襲ってきたばかりの、あのサイボーグ忍者たち。
(……ちょっと待てちょっと待て。決めつけるのは早い早い。単純な肉体強化かもしれないだろ? ……というかそうじゃないとちょっと困るというか)
とはいえ、今そのことを確かめる術を誠は持ってない。仕方ないのでその件は放っておく。
「改造人間ねえ。お前らごときに作れるのか?」
「ば、馬鹿にするな! こっちには人体について詳しい人がいるんだ! 人間の体弄るくらい余裕だ!」
「マーチェさん、実際どうなの? そんなホイホイ作れちゃうもんなの?」
「作れてしまうんですよ、これが」
「絶対渡さないでくださいよ。こっちに被害が来る未来しか見えませんから」
まあそれはそれとして、と誠は言いながらシタバの顔を指差す。
「こいつどうします? 警察……じゃないな、役人に突き出しますか?」
「その場合、事情を説明しなきゃいけないから面倒ですね。……私もファニーも結構有名人なんで、絶対護衛を手配されますし。自由気ままに動けなくなるのは嫌です」
「じゃあどうするんです?」
「放っておきます」
「「え?」」
マーチェの言葉に、誠もシタバも素っ頓狂な声を出してしまう。
「いやいやいや、マーチェさん何言ってるんですか? 自分を狙いにきてる奴放置って、何考えてんですか貴女」
「大丈夫ですよ」
「何を根拠に!? こいつが仲間連れてきて拉致られたらどうするつも――ってもういない!?」
なんか遠くから「ひゃっはー自由だー!」という声が届いてくる。馬鹿のくせに逃げ足だけは速かったらしい。
「……どうするんですかほんと」
「そんなに心配しなくても大丈夫ですってば」
「あんたらのその言葉信用できない! なんでそんな自信満々なんだよ!?」
誠がそう叫ぶと、マーチェは誠を見ながら笑みを浮かべ、こう答える。
「さあ、何でだと思います?」
わけがわからず固まる誠の手をマーチェは掴み、引っ張る。
「え、え? なに? なんなの?」
「ここにいても仕方ないので、ファニーの所へ行きましょう」
「いや、俺行かないといけない所があるんですけど……って聞いてくださいよ! ちょっとマーチェさん!」
マーチェに引っ張られ、誠はその場を離れていく。
「……(ちょっと考えればわかると思うんですけどねー)」
ポツリと漏らした声を、誠は聞くことができなかった。




