燃やした時のお話
「クソ、クソッ! おいお前らまだ神子を捉えられないのか!?」
男の怒声に、烏の翼を生やした男が答える。
「も、目撃情報自体は幾つかあります」
「だったらさっさと連れてこい! あれがいないと儀式が始められないだろうが!」
「ここは人間の住む国です! 周りには大量の人間がいるため、なかなか手を出せません!」
「人間なんぞ我ら獣人の敵ではないだろうが!」
「強化人間や巨大なロボットが確認されています! あれらも単体では我らの敵にはなりえませんが、あれらを破壊すれば間違いなく強力な兵器を持ってこられます。そのようなことをすれば……」
「新手が来る前に儀式を済ませればいいだけだ! 顎さえいれば我らに敗北はない。分かったらさっさと神子をここに連れてこい!」
「は、はい!」
ドタドタと走り去る烏の獣人を見ながら男は足元の機材を蹴り飛ばす。
「くそったれ、この僕、エリガルトの邪魔をしやがって。非国民ども、楽には死なせないぞ……」
自身をエリガルトと呼んだ男はブツブツと言いながら手元の資料をチェックする。
そこに、さっき出て行った獣人が他の獣人を数人連れて戻ってくる。エリガルトがジロリと睨みつける。
「何してるんだ、さっさと神子を連れてこい!」
「それどころではありません! 火事です!」
「……あぁ!?」
「火の勢いが強くて消火は無理です! エリガルト博士も早く避難を!」
「くそったれが! 儀式に必要な物を運び出すから手を貸せ!」
エリガルトは獣人に指示をしながら自身も書類などを持って走る。
「どこから火が出たんだ!」
「食料庫です!」
「食料庫だと!? あそこは保存食ばかりで火がつく要素などないだろうが!」
(三魁の奴らが火をつけたのか? いや、そんな目立つことをわざわざする必要はない。だったらいったい誰が……)
轟ッ! と炎が巻き上がる。エリガルトと獣人たちは炎を避けながら出口へと向かう。
誠とエビルは、そんな獣人たちを近くで見ていた。
「ふむふむ、あれが一番大事な物かね?」
「だろうな。……しかしよくもまあこんなことをするな」
「食料なくなって自滅してくれるなら楽なんだけどねー」
炎の中で。
誠は炎の中に立っているはずなのに汗ひとつかいていなかった。服にも焼け焦げた様子はない。
「いやー、誰も気づかないもんなんだなほんと」
「普通、人間が炎に隠れているとは誰も思わん」
「だよねー。あ、もう炎消しといて」
エビルの宝石が赤く光ると同時に全ての炎が一瞬で消える。幾らか焼け焦げているが、アジトはまだ無事だ。
「しかしあれだな、攻められることを想定してないって愚の極みとかいうやつだな」
「……普通、獣人のアジトに潜入しようなんて誰も思わんからな」
「大丈夫大丈夫。世の中見つかった瞬間ゲームオーバーになる潜入ゲームもあるし。逆に見つかった瞬間無双ゲーになる潜入ゲームもあるけど」
この世界の誰にもわからないことを言いながら誠はさっきエリガルトとかいう博士がいた部屋へ入る。多少燃えているが、殆どの物は無事だ。
誠がアジトにやってきた理由は二つある。
一つは儀式に必要な物を確認するため。これを潰しておけば儀式をしばらくは行えないだろうと思ったからだ。
もう一つは儀式の詳細だ。万が一儀式が成功してしまった場合、元に戻す方法を知らなければどうしようもなくなるからだ。成功させるつもりは一切ないが。
『獣人の中に鼻が利く奴はいますか?』
格郎に尋ねると、彼はいないと答えてくれた。鼻が利く獣人の殆どは格郎たちの捜索に出ているらしい。……その半分以上を既に殺したらしいが。
そんなわけで誠は安心してアジトにやってきていた。警備は誰もいないし、途中いた獣人は温度を適当に上げてやったら水を飲みに何処かに消えた。
そして食料庫に火をつけ、炎の中に体を隠し、今に至る。
「さーてと、計画書的な物はあるかなっと」
「そんな大事な物は持っていったのではないか?」
「博士の頭の中には手順そのものは入ってるだろうからわざわざ持ち出す必要はない。必要な物をど忘れするような馬鹿ならともかく」
そんなわけで誠は物色を開始する。あんまり時間をかけていると獣人が戻ってくるかもしれないのだ。
「えーと、これは違うっぽい。これも違う気がする。これはラブレターかな?」
「……マコト、何故『気がする』とか『っぽい』とか言うんだ?」
「だって獣人の言葉読めないし」
「……は?」
「大丈夫だって多分。……お、ほらほらエビル、それっぽいの発見したぞ」
「…………」
呆れて何も言わなくなったエビル。仕方ないのでこっちもそれらしき物を探すかと辺りを見回していると、エビルはある物を見つける。
「マコト」
「ん? なんか見つけたのか?」
エビルに引っ張られる形で体の向きを変えた誠は、そこに落ちていた紙を拾い上げる。
「……世界地図? これがどうしたんだよエビ……」
地図に描かれている物を見て、誠の口が閉じる。
地図の形式は、誠の世界の物と変わらなかった。
いや、形式だけではない。大陸の形もだ。
地図には今いる大陸を赤い線で囲んである。誠の世界で言うならば、オーストラリア。多少位置も形も違うが、殆ど同じと言っても問題なかった。
「……あー、まあよくあることよくあること。異世界も同じ地球でした的なことはよくあること。つーかエビル、これがどうかしたのか?」
「……なんだ、気づかぬのか」
「なに?」
エビルは話す気がないらしく完全に沈黙する。誠は怪訝に思いながらも気にしないようにする。どれだけ時間があるのかはわからないのだ。
三十分ほどそれらしき物を漁った誠は、それらしき物を全部持っていくことにする。
「そんじゃまあ、帰りますかね」
「燃やして帰らないのか?」
「しない。さっきの火が誰かの手によるものだって知れば、多少は警備に人手を回すことにならないかなっと思いまして。そうすりゃこっちはさらに手薄になるし」
そんなことを言いながら、誠はアジトを去った。
獣人たちが戻ってきたのは、それから数分後だった。




