頭をぶつけたお話
「……ト、マコト」
声が聞こえてきた。エビルの声だ。誠の腹の上でカタカタと動いている。
「……なんだよエビル。おやつの時間でもきたのか?」
「違う。客だ」
「……客?」
目を開け、体を起こす。エビルが地面に落っこちていったが、寝起きの誠はそんなことを気にしない。
客、と言っても近くに知ってる人はいない。エビルを拾い上げて聞いてみる。
「お客はどこだー?」
「あっちだ。獣人がいる」
「げっ、また来たのかよ」
さっさと逃げ出そうとしながらエビルが言った方向を見る。黒い外套に麦わら帽子を被った女の子はぺこりと誠に頭を下げた後、人目のつかない路地裏へと入っていく。
「って葉奈じゃん。紛らわしい言い方しやがって」
「別に間違ってはおらんぞ?」
「はいはい日本語難しいですねー。いや日本語じゃなくてピークト……なんだっけ? まあどうでもいいか」
誠はエビルを片手に路地裏へと入っていく。路地裏に入った途端、空気が変わった。
「涼しいー。日陰最高」
「そんなに暑かったのか?」
「暑さを感じたいならそのうち溶岩の中にでも突っ込んでやるよ」
葉奈を追いかけて誠は進む。イメージ的には不良がいそうだったが、不良どころか人が一切いない。
「誠さん」
突然、声がかけられた。前からでも後ろからでもない、上だ。
上を見上げると、建物の窓から葉奈が顔を出していた。
「……何してんの?」
「路地裏に人はあまり来ないといっても少しは来ますからね。空き家に隠れてるんです」
「へー」
「ちょっと待っててください。……えーと、縛るものは……」
葉奈は部屋の中で何やらブツブツと言った後に、バサリとロープが落ちてくる。
「それに掴まってください」
「オーケー」
誠はなんとなく体重をかけても大丈夫かを確かめるべくロープを軽く三回ほど引っ張ってみる。
その瞬間、グンッ! とロープが力強く引っ張られ、誠の体が勢いよく浮き上がった。
「おわっ!? っづあぁ!?」
その勢いのまま窓の縁に頭をぶつけ、それでも部屋の中に転びこむ。
部屋の中で頭を抱え、床をゴロゴロする誠。因みに葉奈はロープを(片手で)持った状態であわわあわわとなっている。
「ぐおおぉぉぉ!? あ、頭がかち割れる! 冗談抜きで頭がスイカ割りみたいになる!!」
「ごごご、ごめんなさい!」
誠の頭からは、何気に血が出てきていた。誠は葉奈に布を貰ってとりあえず応急処置をしておく。といってもガーゼを傷口に当ててその上から布を巻くだけだが。
「あらあら、大丈夫ですか?」
「何をしているんだ君は?」
そんなことをしていると、窓から三魁夫妻が入ってきた。どこかで買い物をしてきたのか、日用品やパンなどが入った紙袋を持っている。
「ちょ、ちょっと派手にぶつけました……」
「マコト、焼いてやろうか?」
「血を止めるために頭は焼かねえよ! ハゲる!」
エビルを適当に小突き、ふと思い出したように葉奈に聞く。
「そういや、なんで俺呼ばれたの?」
「ええと、少し頼みたいことがあるんです」
「……戦闘は勘弁。何かあったら相手にエビル放り投げて俺は逃げるからな?」
エビルが何か言っているが、誠は適当に受け流す。
「い、いや、そんな大変なことを頼むわけじゃないんです。飛行船の情報が知りたくて」
「言いたいことはわかった。飛行船の時間と警備レベルを知って、どっかの船に忍び込むつもりだな? もしくは奪い取る?」
誠の問いに、格郎が答える。
「できれば忍び込みたい。……そもそも奪い取るのであれば人間が幾らいても関係ないからな」
さらりととんでもないことを言っている格郎。なんで人間はこんなのと戦争してるんだろうと本気で不思議になってくる。
「でも、時々私たちと互角に渡り合える人もいますよ。お侍さんと忍者さんのコンビは良い動きをしてましたし」
「そうだな。いつか手合わせしたいものだ」
「……あいつらそんな強いのか? 侍の方は殺さないよう手心を加えられてた可能性はあるけど……。えと、とりあえず了解。飛行船の時刻表とか見てくるよ」
「あ、ちょっと待ってください。私も行きますから」
葉奈はそう言うと麦わら帽子を被る。尻尾は外套で隠れてるし、頭の耳は麦わら帽子で隠れた。隠れたのだが……、
「……そんなもん着てると、暑さで死ぬぞ」
「こ、今回はフードじゃなくて麦わら帽子を被ってるので大丈夫です。……多分」
「……不安だけど、まあいいか。行こうか葉奈」
「行ってきます!」
葉奈が窓から軽々と飛び降りる。誠はエビルに浮いてもらいゆっくりと降りる。
裏路地から出て、そこで誠はとあることに気がついた。
「……入るときもこうすればよかった」
「気づくのが遅いぞマコト」
「あ、あはは……」
まだまだ頭の痛みは治まりそうになかった。




