知識がないお話
「お前らは馬鹿だ」
誠が一番に言ったのはその台詞だった。
誠たちが今いるのは広場だ。海からはかなり離れた場所にある。
その広場のベンチにはエルシがエビルを持ったまま座っていた。エルシは無表情で、エビルはカタカタと揺れている。
「……いきなりだな、マコト」
「いや、これは本当に言わなきゃ駄目だ。お前ら馬鹿すぎる」
はぁーと息を吐く誠に、不満そうなエビルの声。
「何が駄目だと言うのだ。我らは回復しきってない力であの男と拮抗して……」
「まずさー、そこなんだけどさー。……何でわざわざ相手の土俵で、海の上で戦ってたんだよお前ら」
ちょっとだけエビルが黙った。流石にとんでもなく不利な場所で戦っていた自覚はあるようだ。
言い訳しないだけマシか? と思いながら誠は続ける。
「俺が乱入して逃げれるくらいなんだからいつでも逃げ出せただろ? 何でしなかったんだ?」
「……まあ、その、それはあれだ」
「意地とかプライドとか言ったら折るぞ?」
「…………」
エビルは完全に沈黙した。誠は無言で近寄っていく。
「ま、待て! そ、そなたならどうするのだ? それを聞かせてくれないか?」
「それってどういう状況での話? 俺一人なら何もできずに死ぬけど」
「わ、我らができることなら全部できていい!」
エビルの言葉に、誠は即答する。
「空気を奪って窒息させる、が一番手っ取り早いかな。まあ空気中の水素を操るついでに空気も操られるとかされたら避けられるけど……多分ないよなぁ。それできるんならそこら辺の人の……」
誠の言葉が止まる。何故ならば、
「す、水素? 窒息?」
エビルが誠の言葉の半分も理解できていないからだ。
「……」
因みにエルシもよくわかっていないようで首を傾げている。
そんな二人に呆れたような視線を向ける誠。
「……お前らさ、生きてきた時間の殆ど寝てたとかいうオチだろ?」
「そ、そんなことはないぞ」
「嘘だー! だって窒息とか普通にファニーさんも使ってたし! 普通に過ごしてきたなら人間の知ってることくらい分かるだろ!」
「ち、知識の殆どはステラに頼っていたのだ! そのような小難しい言葉など知らん!」
「開き直った!?」
「……何やってるんですの貴方たち?」
そんな風にギャーギャーと騒いでいると、いつの間にかファニーが立っていた。明らかに高そうな日傘を差していて、どこかのお嬢様に見える。
「あ、ファニーさん。何だか久しぶりな気がしますね」
「普通に朝会った気が……? まあいいです。それより、マーチェを見ませんでしたか?」
「……あー」
誠は明後日の方向、正確には海のある方を見る。
完全に忘れていた。
少し迷ったが、誠は素直にファニーに話しておく。
「海の方にいますよ。何か急ぎの用事でも?」
「そうですわ。 私にはよくわからないのでマーチェに調べてほしかったんですが、……なんで海に? 反対方向ですのに」
「ちょっとした騒ぎがありまして……」
「ふーん? ああそうだ、でしたらマコトに手伝ってもらいましょうかって露骨に嫌そうな顔しないでもらえます?」
「いやー、暑いですからねぇ。ファニーさんみたいに日傘差すわけでも、エルシさんみたいに外套着てるくせに汗ひとつかかない化け物でもないですからね。……ていうか本当になんでエルシさんはそんなに着込んでるの?」
そんなことを聞いてみた誠は、何故かエルシが暗い顔をしているのに気付いた。
「エルシさグエッ!?」
「マコト、ちょっとこっちに」
ファニーに襟を掴まれ、誠はそのまま引きずられていく。かなりの馬鹿力で、誠は全く抵抗ができない。
「な、なんですかいきなり?」
「エルシに、化け物とかそういった単語は禁止ですわよ」
「は?」
「あの子、マコトが人じゃないだの化け物だの言うと必ず落ち込んでますわ。昔に何があったのかは知りませんけど、本人はだいぶ気にしてるみたいですから言わないであげましょう」
「は、はぁ。よく見てますねファニーさん」
「マコトが見てないだけじゃありませんの? ほら、今も暗い顔をしてますわ」
ファニーに言われて誠はエルシの顔を見る。
確かに暗い顔をしている、しているのだが……。
「そんな言うほど変わらない気がしぶえっ!? 無言の腹パン!?」
「……はあー」
心の底から呆れたように息を吐きながら、ファニーは悶える誠を置いてエルシの元へ行き、エルシを連れて何処かに行ってしまった。
鳩尾に入ったのか、ファニーが馬鹿力なのか、誠は追いかけることもできない。
「ぐっ、ふっ! マジで痛い……」
とりあえずベンチに座ろうと思った誠は力を振り絞ってなんとかベンチに辿り着く。ベンチに置かれた剣はカタカタと震えている。
「って、なんでエビル置いていかれてんの?」
「女の子のお話に男は入ってはならんと言われたのだ。エルシもだいぶ消耗しているのだから、マコトの側にいた方が良いのだがな」
「……そもそもお前ら性別あるのか?」
「ないとは言い切れないが、あまり意味をなさないな」
「エルシさんは見た目女の子だけど、お前はただの剣だしな」
エビルを取り、誠はベンチに寝転がる。ベンチはちょうど木の下にあるので日陰となっていた。
「……あー、やばいわこれ。眠くなってきた。つーわけでお休みエビル何かあったら起こしてくれ」
何かエビルが言っているが、それを聞く間もなく誠は眠った。




