海の上のお話
昼飯を食べ終えた誠はマーチェと共に外に出てきていた。
なんでも調べたいことがあるらしく、誠に同行を頼んだのだ。
暇だから、という理由で引き受けた誠が外に出た瞬間後悔したのは言うまでもない。
「……暑い。暑い暑い暑い暑い暑い暑い暑い暑い暑い暑いあづーい」
「こ、これはキツイですね……」
マーチェも白衣を脱いでシャツ姿になっていた。誠も服の袖をまくってみたのだが、むしろ日の光が当たって余計暑くなったのでやめた。
「ちょ、ちょっと休憩しましょう」
「そうしましょう。えーと、日陰日陰っと」
マーチェは日陰にあるベンチに座り込む。誠はポケットにねじ込んであったタオルをマーチェに投げつける。
そのまま誠は適当な店に入り、オレンジジュースを買って持ってくる。
「はいどうぞ」
「あ、どうも」
ジュースを飲み、ふいーと二人揃って息を吐く。
「ここって、いつもこんな暑いんですか?」
「そうですねぇ。だからここの人達はよく海で遊んでるんですが……」
「今は無理ですもんねぇ。これも全部アクリアの奴のせいだな」
「……アクリア? アクリア……」
「……知り合いだったり?」
「あ、いえ。ただ何処かで名前を聞いたなと思いまして」
「まあ水の神を自称するくらいたし、色んな所で名乗ってるのかもしれませんね」
そんな雑談をしながら二人は涼んでいた。マーチェの用事も急ぎではないのか焦っている様子はない。
「平和だなー」
そんな誠の呟き。
ゴッ!! と、誠の呟きに合わせたかのように、轟音な鳴り響く。
音源は、海の方から。
大量の水が、蛇のように動いていた。
「……………………」
「……平和って、なんですかね?」
「哲学じゃね? マーチェさんはこのまま待っててください」
マーチェをベンチに放置して誠は海に向かおうとする。
が、何故か小走り気味の誠に付いてくるマーチェ。
「いや、危ないから待っててくださいよ!」
「大丈夫ですって。自分の身は自分で守れますから」
「すみませんが貴女達の大丈夫ほど不安になる言葉はないんですよー」
「信用がない!?」
「信用できる要素はいずこ?」
わーわー言いながらもマーチェは結局付いてくる。誠は諦めてさっさと海に向かう。
海に近づくと大量の野次馬がいた。どうも一般人には自分達がいる場所が安全ではないことを理解できてないらしい。
人混みを掻き分け、ようやく誠は浜辺に辿り着く。
「誠さーん! 助けてくださーい!」
マーチェは人混みに飲まれていたが。
「……、」
誠は力任せにマーチェを引っ張り出す。なんかもう色々めんどくさかった。
「……はぁ」
「す、すいません」
誠は海に視線をやる。そこにはエビル、エルシ、そしてアクリアがいた。
浜辺からだいぶ離れた場所で、三人は戦っていた。
エルシがエビルを片手に持ちながら海の上をスケートのように滑らかに滑っていく。空気を使ってホバークラフトみたいに浮いてるようだ。
対してアクリアは足の部分を完全に海に入れている。それでいてエルシよりも高速で移動しているが、誠にはイマイチ仕組みが分からない。
アクリアが海の水でエルシを飲み込もうとし、エルシがそれを避けながら風の塊をアクリアにぶつけようとしていた。
「……どうしよう」
「いや、あの戦いに干渉しようとかやめた方がいいですよ?」
「それはそうだけどさ、あのままだとエルシさん達やられちゃうし」
「そうですか?」
エルシの攻撃はアクリアの操る水に阻まれているが、逆にアクリアの攻撃もエルシには擦りもしていない。マーチェには均衡しているように見えたのだが……。
「エビルの奴がさっきから何もしてない。多分力を使い切ってる」
「水が相手だから何もできないだけでは?」
「海水なんて数千度の熱なら一瞬で蒸発するよ? そうじゃなくてもエルシさんの動きをロケットみたいに加速させててもおかしくないはずだし。……思いついてない、という可能性もあるけど」
どうするかなー、と悩む誠は辺りを見回す。
「私たちに何かできたとしても小さなことですよ? あまり意味はない気がするんですが」
「塵も積もれば山となるとか言うじゃん? ……あ。すいまーせん、ちょっとそれ貸してくださーい」
誠は野次馬の一人に話しかけ、その手にあった物を借りてきた。
「……『属性魔法・中級版』?」
「えーと、この状況で使えそうな魔法は……」
パラパラと、誠はページをめくっていく。マーチェは誠のやりたいことを知り溜め息を吐く。
「誠さん、魔法って使ったことあるんですか?」
「ないよ? ええと、『魔法を使う時は、使いたい魔法を明確にイメージするのが重要です』か。わかりやすいな」
「……そのイメージが難しいんですよ。曖昧な物だと上手く魔法が発動しませんし、かとあってイメージに集中しすぎると狙いが定まりませんし」
「……イメージって、すっごい楽だと思うけど。えーと呪文は……」
ブツブツと呪文を唱え出したのでマーチェも一応黙る。成功するとは思ってないが。
(……この魔法、なんでしたっけ? ……ああそうだ、確か圧縮した風の塊を作り出す魔法だ)
「縮風」
「え?」
マーチェが誠を見ると、誠の足に空気の塊ができていた。魔法が完成したのだ。
「っし。できたでき――」
パンッ! と風船の割れるような音と共に、空気の塊は霧散する。
「……ね? 難しいでしょう?」
「……も、もう一回。ワンモアワンモア」
誠はブツブツと再度呪文を唱える。が、今度は完成する前に霧散した。
「むー!」
三回目か四回目か、ようやく誠は魔法を霧散させることなく安定させる。
「プチプチだ。足をプチプチで包んでるのをイメージだ……」
「プチプチ?」
「あ、そうだ。すいませんマーチェさん、お手伝い出来そうにないです」
「ええと、……何するつもりなんですか?」
「滑ってきます」
困惑するマーチェを置いて、誠は一歩踏み出す。
ボンッ! と誠の体が勢いよく飛んで行った。
「あぶ、あぶっ! バランス取りにくいなおい!」
足裏から空気を噴出させ、誠はエルシの元へスケートのように滑っていく。
「む?」
アクリアがこちらに気付いたが無視。誠は更に勢いを強めていく。
「な、なんだ!?」
「……!?」
驚くエルシとエビルに何も言わず、誠はエルシの腕を掴み、勢いを止めることなく浜辺へと戻ろうとする。
アクリアは誠の移動先に向けて杖を振るう。
ズザァッ!! と海の一部が盛り上がり、誠の動きを阻害する壁となった。
対して誠は一言こう言い放つ。
「吹っ飛ばせ!」
言葉と同時に、ドパンッ!! と誠の言いたいことを理解したエルシが風の塊をぶつけ、壁に穴を空けた。空いた穴を使って誠は壁を通り抜け、浜辺に到達する。
「エルシさん走って!」
「……」
「な、なぜここにいるんだ?」
「そんなの後! さっさと海から離れろアホンダラ!!」
叫びながらチラリと、誠は海の方を見る。
アクリアは、誠の方を見て、笑っていた。




