やる気が出ないお話
「やる気出るかチクショー」
だらーんと、誠は椅子の背もたれに全体重をかける。
だが椅子は誠の体重を支えきれずそのまま後ろに倒れた。自動的に誠も思いっきり後ろに倒れることになり、痛みで悶絶する。
「ああもう! つーかこれ何のプログラムなんだよ。俺まだ習ってないぞー。……いやまあそもそも文字からして違うからまるでわからないんだけどさ」
すっかりやる気の失せた誠は気分転換(目の前の作業からの逃避)の為に部屋の掃除を開始する。
「せめて足の踏み場は確保しないとなぁ。ケーブル類は纏めといて、似たような……なんだろこれ? とりあえずこんなやつも一緒にしといてと。あー、壊れてる部品をぶち込む袋がいるか」
とりあえず袋かな、と思い誠は部屋から出る。マーチェはあの何処かに行ったので今この建物には誰もいない。嫌に静かだった。
「うわっ、こういう静かな時ってちょっとした物音が気になって仕方ないんだよなぁ。……今なら獣人とか自称神様とか来てもおかしくないし」
嫌な予感を振り払って誠は物置へ向かい大きめの袋を幾つか持っていく。
マーチェの部屋に戻り、バラバラに壊れた部品などを適当に袋に放り込む。
「マジで汚いなおい。……これに至っては錆びてるんだけど。いつからあるんだよこれ」
勿体無い勿体無いと言いながらも部品を袋に入れていくとあっという間に一杯になった。だが部屋にはまだまだ大量の部品が。
「……掃除はきちんとやりましょう。これ重要」
明らかに袋の数が足りないのでもう一度誠は物置から袋を持ってくる。
因みにこの頃には、もうプログラムのことは忘れていた。
二時間ほど経ち、部屋にはまだまだ部品が転がってはいるが、足の踏み場くらいは出来上がっていた。
「ふひー。疲れた疲れた」
誠は満足した顔で椅子に座る。……ちょっと後ろを向けば途中で放置されているパソコンがあるのだが、誠はそちらには一切意識を向けていなかった。
部屋全体を見ていた誠は、あれ? 掃除するために部屋に来たんだっけ? と最初の目的を思い出しかけたが、彼の意識はさらに別の物へと移る。
キラリと、まだ残っている部品の下で何かが光った。
「……?」
誠は部品を取り除き、キラリと光ったそれを持ち上げる。
それは、結晶だ。手のひらサイズで、サイコロのような箱の形をしている。誠の記憶では、数日前にマーチェが持っていた物だ。
「……確かマーチェさんがこれ持ってブツブツなんか言ってたな。携帯電話とかと同じ物だったりするのかね?」
よく分からずに誠はツンツンと結晶をつついてみる。
ベキッ! と、嫌な音がした。
「あ、壊れた?」
誠の予想に反し、結晶は変な音を出しながらも結晶の表面に文字や数字が浮かび上がる。浮かび上がった文字は『ようこそ』だった。
因みに変な音というのは、ジジジとかザザザとかそういったものではない。ゴギュゴギュゴギュ! という、どうすればそんな音が出るのかもわからない音だ。
「……まあ、元から埋もれてた物だし、壊れてたんでしょ。きっとそうだよね」
とか言いつつ誠は結晶を操作する。使い方としてはスマホと同じように映し出された文字や枠をタッチするだけでいいようだ。
「ふーん。ふんふん、なるほどわからん」
が、映し出された文字の大半が誠の知らない言語になっており、使える物がかなり制限されていた。
そんな感じに誠が結晶をいじっていると、部屋の扉が何の前触れもなく開いた。
「誠さん、お昼にしましょう」
扉を開けたのはマーチェだった。その手にはサイコロのような形をした結晶がある。
「あ、マーチェさん。もうそんな時間なんですか?」
「お日様は真上にやってきてますよー。……あれ? 私掃除を頼みましたっけ?」
「……あれ? 何頼まれたんでしたっけ?」
「ちょっと誠さん、忘れないでくださいよ。ええと、――何頼みましたっけ?」
「……ボケが来ましたな」
「ふぉふぉふぉ、爺さんや、眼鏡はどこかえ? ――って誰がお婆ちゃんですか!? 私はまだ十六ですよ!!」
「あれ? てっきり十三かそこらかと思ってましたよ。身長小さいし」
「誠さんがデカイだけです! 何センチあるんですか!?」
「……百七十くらい、だっけ? 十七という歳でこれは大きいのか小さいのか……」
「十分デカイです。分けて欲しいくらいに。……ってじゃなくてご飯ですよご飯。何か作ってくださいよ」
「はいはーい。……元の世界だと昼飯なんてカップ麺でいいのに、この世界にはなんでインスタント食品がないんだ」
ブツブツと言いながらも誠は台所に向かう。一ヶ月ほどファニーの家で働いていたおかげで家事掃除はすっかりできるようになっていた。
部屋に残ったマーチェは結晶を適当に放り投げながら一言呟いた。
「マコトって、真じゃなくて誠だったんですね、誠さん♪」




