理由のお話
「……はい、というわけでエルシさんが本物だと判明しました」
風の力でロケットの如く吹き飛ばされた誠は無傷の状態で戻ってきた。
誠が何かしたわけではなく、地面に激突寸前で風が吹いて衝撃を吸収してくれたのだ。
まあそれでも頭からぶつけて地面をのたうち回ったし、その際の風で周りの物が吹っ飛んで窓ガラスが割れたりとなかなか心臓に悪い現象が起きたが。
被害を受けた人達には、天災にでも会ったと思って諦めてもらうしかない。
因みにエルシ、不機嫌と羞恥が入り混じった顔で誠を見ている。
(まあどう考えても俺が悪いからね。てかなんであんな質問が思い浮かんだんだろ?)
「マコトさん」
「……はい」
「さっきの質問は、ないと思います」
「ごもっともです」
エルシはもじもじと、顔を赤らめながら胸を隠すように腕を交差させる。
「そういうのはですね、もっと親密な仲にならないと……」
「違う、そうじゃない! 今論ずべき所は親密度の問題じゃないはずだ!? そして途中でわざわざ胸をガードしたけど貴様一体何を想像した!?」
「な、なんだっていいじゃないですかそんなこと!」
「指摘されて耳まで真っ赤になってるけどな!」
「〜〜っ!」
リンゴのように真っ赤になったエルシは顔を隠すようにそのまま蹲ってしまった。
そんな反応をされても、誠としてはどうしていいかわからない。顔真っ赤の女の子をどうこうする技術は持ち合わせてないのだ。
(とりあえず、話題を変えてみるかね。それで駄目だったら適当に放っとこ)
かなり適当な答えを出した誠は、今一番気になっていた質問をエルシにぶつけてみる。
「で、エルシさん。どうして急に喋るようになったの?」
蹲ったままだがエルシはちゃんと質問には答えてくれた。
「マコトさんに聞きたいことがありまして、筆談だと時間がかかるから勇気を出してこうして喋ってるんです」
「……まあ、なんで喋るのに勇気がいるのとか、今まで喋らなかった理由は聞かないでおくけど。なんで喋るようになった瞬間そんな感情豊かに?」
「こっちが私の素なんですが、普通に喋るようになると無表情を維持するのが何故か聞かなくなってしまいまして……」
「ふーん。まあ無表情のまま軽快に喋られるよりは良かったかな」
誠は若干まだ顔が赤いエルシの手を引っ張って立ち上がらせる。
エルシはわざとらしく咳払いする。それで気持ちの切り替えができたらしく、しっかりと誠の顔を見つめる。
「マコトさんは、なんでエビル兄さんにああ言ったんですか?」
「どれ?」
「無駄に長生きとか言ってました」
「あー言った言った。なんでそう思ったかっていう質問?」
「はい」
「……なんて言うべきかなぁ」
誠は悩むように空を見上げ、エルシに問う。
「だってさ、一々理由を求めるなんて馬鹿らしいだろ?」
「?」
「『そこまでして助ける理由などあるのか』っていう質問に対しての答えとしては、理由なんてない」
「……じゃあなんで」
「こっちの世界なら子供でも知ってるよ。まともに教育されてるなら、だけど」
そこで一区切りし、誠はエルシの眼を見てはっきりと口にする。
「誰かを助けるのに、理由なんていらない」
そうだろ? と誠は笑いながら言った。
「そんなことも理解してないから、エビルは無駄に長生きしてるって言ったんだ。そんなに長く生きてるならそんくらい分かれって話だろ」
「…………」
「……エルシさん? どうして無口モードへ?」
「…………」
フラフラと、エルシは何も言わずに何処かに歩いていく。
「エルシさーん? ……トイレかな?」
誠は、エルシの変化について特に深く考えなかった。
「……むにゅー」
「なんですの、その気の抜けた声は」
「眠いんですよ〜。寝たくてもまた仕事が来ましたし」
「で、眠気覚ましに朝の散歩にと」
「そういうこと……あれ、エルシさん?」
「あらほんと。朝早いですわね」
「でもなんかフラフラしてません?」
「マーチェと同じで眠いんじゃないですの?」
「いや……それとはちょっと違うような……? おーいエルシさーん」
「…………」
「うん。今日も無口ですね」
「…………、」
「あれ? ファニー! エルシさんが今何か喋りました!」
「なんて言ったんですの?」
「ボソボソでよく聞こえなかったけど喋りましたよ! さあエルシさんもう一回!」
「……で」
「で? 木偶人形? 出前?」
「…………なんで」
「なんで? 何がですの?」
「……なんでマコトさんが、アキラさんの言葉を」
「マコト? マコトがどうかしたんですの?」
「…………」
「あ、エルシさん! ……行っちゃった」
「なんだったんですの?」
「なんなんでしょ?」




