偽物のお話
まだ太陽も顔を出してない深夜と早朝の境目みたいな時間に、誠は外にいた。
別に何か目的があるわけじゃない。ただ目が覚めて、そのまま外に出ただけだ。
「……ふあわわわんどるっしゃーい」
寝起きのテンションで妙なことを言いながら誠はフラフラと歩く。
時間が時間なので人は全くいない。なんか遠くの方で人影がぴょんぴょんと跳ねているがきっと獣人だろう。
(……ああそうだ、昨日の爆発したロボットの所行ってみるか。何かあるかもしれない、つーかあるだろうなぁ。証拠隠滅なら爆発するんじゃなくて酸でも流して溶かせばいいのに)
どうもこの異世界、誠の世界とは何か観点が違うようだ。
逃げた道を辿りながら誠は思う。
(まあ手に入れたとしてもロボットの残骸だろうけどねぇ。データは流石に消去してるだろうし。でもデータって時間かければ修復できるんじゃなかったっけ?)
右へ左へ、時々道を間違えたりしながらも誠はロボが爆発した所に辿り着いた。
地面には大きな穴が出来上がっていた。その穴の周りはロープで囲まれていて、『侵入禁止』の看板が置かれている。
もちろんそんな物は無視。誠はロープを跳び越えて穴に近付く。
「やっぱ特に何もないよなー。あったとしても兵士さんに持ってかれてるか」
一応探してはみるのだが、やはり何もない。ロボの残骸くらいあったのかもしれないが持っていかれたのかもしれない。
「やれや……れ?」
誠が諦めて顔を上げると、奇妙な物を見つけた。
何がおかしいって、ロボの脚が家の屋根に突き刺さっていた。
「…………そういやロボットの脚切ったっけ。爆発で吹っ飛んであそこに突き刺さったのか?」
家に向かって謝りながら誠は屋根によじ登る。
ロボの脚に特に損傷は見られない。相当硬いのだろう。
脚の断面に手を伸ばし、そこにあったケーブル類を引っ張る。
「……なーんか、見慣れた物があるな。しっかし、工業高校で習ったことが異世界で使えるって誰がわかるんだろ?」
そこにあったのは、誠のいた世界にもあったプリント基板に似た物だ。パッと見でどうなってるのかは解らないが、後でゆっくり見れば解りそうではあった。
「でも基板があったところで、プログラムの部分がないと意味ないし……」
さらにケーブルを引っ張ろうとするのだが、急にケーブルが重くなった。どうも何かに引っかかったようだ。軽く強めに引っ張ってみるが取れない。
「んー、何に引っかかったんだ?」
覗いてみると、円筒状の黒い何かがあった。直径が五十センチほどあり、丸いスイッチが見える。それが引っかかっているようだった。
手を伸ばして引っ張り出すと、ケーブルで繋がった大きな箱も付いてきた。箱の側面には『RAY GUN』と書かれていた。
「……えーと、もしかして?」
『RAY GUN』。そのまま読み取るなら、光線銃だ。
まさかと思いつつも地面に向けスイッチを押してみる。
ジュッ!! と地面から白い煙が出た。一瞬光の線が見えた。
「……怖え」
なんでそんな物があるのかすごく不思議に思った。もしかしたら脚もビームで攻撃できたのかもしれない。
ご丁寧にあった箱のスイッチを反対側にして電源を切っておく。こんな物が暴発したら色々な所に穴が空いてしまう。
何だか怖くなってきた誠はロボから離れることにした。光線銃はお土産にもらっておく。
早足で研究所で帰る時には、太陽が少し顔を出していた。新聞配達のお兄さんお姉さんが走り回っている。
「後で新聞読んどこ。この習慣もこっちに来て身に付いたよなー。……ん?」
遠くから、声が聞こえてきた。誰かが歌ってるようだ。
素人の誠でも分かるくらい上手い。心に響いてくる歌声だった。
フラフラと、吸い寄せられるように誠は歌声のする方に歩いていこうとして、ハッと思い出す。
「待てい! そういや歌で人を惑わして海に引き込む妖怪みたいなのいなかったっけ? でもそれってこっちにもいるのかな?」
歌声は海の方向から聞こえてきていた。可能性はある。
「……でもこうやって足を止めれたってことはそういった類じゃないよな? じゃあ大丈夫か」
結局好奇心に耐え切れず、誠は歌声のする方へ歩き出す。
しかし本当に上手だった。言葉にするには難しいすぎる魅力があった。
だが、
「なーんか、聞いたことある声。……誰だ?」
歌もこの国の言葉で歌われていない。どこの言語なのかさっぱりわからない。
(……獣人とかの、人間じゃない奴らが歌ってるのか?)
人魚とかいるのかなー? と全く警戒しないまま誠は浜辺に着いた。
歌声の主は上機嫌にクルクルと踊りながら歌っていた。アイドルのような派手な動きではないが、なぜか目を惹かれる踊りだった。
「…………、」
『上手だな』とか、『朝早いな』とか、言うべきことはいっぱいあった。
だがそれらよりも優先して言わなければいけないことがあった。
誠は大きく息を吸い、腹の底から声を出した。
「エルシさん喋れるんかい!!」
ビクッ! と誠の声を聞き取ったエルシは歌うのを止めて誠の方を見てきた。
「おはようエルシさん」
誠はエルシに近づいて行く。
「エルシさん普通に喋れるじゃん。全然喋らないから喋れないのかと思ってたよ」
「…………」
エルシは何も喋らない。
「しかし凄え歌上手いなエルシさん。全然歌とか知らないんだけどなんか心に響いてきたあぁ!?」
言葉の最後がおかしくなったのは、エルシが誠の胸ぐらを掴んできたからだ。首を絞める形になり、若干息苦しい。
(え、え? なに? なんか地雷踏んだ? どれ!?)
「……変じゃないですか?」
「え?」
一瞬、誰が喋ったのかわからなかった。
目の前のエルシの口が動いているのを見て、誠はようやく今喋ったのはエルシなんだと知った。
「私の歌、声は、変じゃないですか!?」
ギューと更に首が絞められた。
命の危険を感じ取った誠は慌てて答えた。
「変じゃない変じゃない! むしろずっと聞いていたいくらいだから!」
「…………」
「エルシさん? エルシさーん!?」
「す、すいません」
謝られながらも誠は解放された。空気が美味しく感じられた。
エルシは申し訳なさそうに俯いている。そんなエルシを見ていた誠の頭に疑問が生じた。
(エルシさんって、こんな感情豊かだっけ?)
一緒にいたのは数日程度だが、誠の記憶ではエルシという人物は無口無表情の少女のはずだ。
目の前にいるエルシは普通に喋るし驚いたり申し訳なさそうにしたりと、誠の記憶と全然一致しない。
(……謎だ。いや、まさか偽物!?)
と思いはするのだが、ここまで本物とかけ離れた偽物を作る理由がわからない。普通偽物は本物に似せて作るだろう。そうじゃないと偽物を作る意味がない。
(うーむ、わけわからん。こうなったら、エルシさんに直接聞いた方が早い、かなぁ?)
しかし普通に聞いたら本物か偽物かがわからない。
そう思った誠はエルシに向かってこんな質問をする。
「エルシさん」
「な、なんでしょうか?」
「……エルシさんの胸は、手に綺麗に収まるサイズ?」
ゴッ!! と、人間大の何かが朝日に向かって飛んで行った。




