ハッタリのお話
「おーい、マコトさーん。起きてくださーい」
「…………ぬぅ」
ペチペチと、誰かが誠の頬を叩いた。
ゆっくりと目を開けると、マーチェがいた。
「あれ? どうしたのマーチェさん」
「私は仕事が終わったのでちょっと散歩してたんですよ。そしたらマコトさんが寝てるのを見つけたんです。なんでこんな所で寝てたんですか?」
「なんというか、ちょっと色々面倒になったというか……」
「?」
誠は起き上がり、頭を叩いて眠気を振り払う。
「俺は戻りますが、マーチェさんはどうします?」
「私も戻りますよ。流石にそろそろ寝ないと明日起きれなくなりますし」
「いつもこんな時間まで?」
「いえいえ、普段はさっさと寝てますよ。仕事は早めに終わらせるに限りますから」
「それで手際がいい優秀な奴と判断されて仕事が増える、と」
「なんでわかったんですか⁉︎」
驚くマーチェを置いて誠がさっさと歩き出したのでマーチェは慌てて追いかける。
隣に来たマーチェに向かって誠はふと思ったことを問う。
「マーチェさん、ちょっと聞いてもいい?」
「なんですか?」
「マーチェさんってさ、なんで俺らに付いてきたんだ? ファニーさんもよくわからない理由で付いてきた覚えがあるんだけど、マーチェさんはなんで付いてきたの?」
「そんなの、ファニーが行くからに決まってるじゃないですか」
「迷いなく即答かい」
「単に興味があったというのもあります」
「エビルにか」
「貴方にですよ」
「……あ」
そういえば、マーチェは初めて誠に会った時言っていた。
『貴方の頭を解剖させてください!』
ザザザザザザッ!! と割と全力で誠はマーチェから離れる。
「え、えぇ? なんで逃げるんですか!?」
「やめて! こないで! 頭をザクザク切られちゃう!!」
「いや、待ってください! なんというかこう、女の子に興味があるとか言われたらもうちょっと違う反応があるべきでは!?」
「女の子大好きちゃんにそんな期待しねえよ‼︎」
「女の子大好きちゃんじゃないですよ! ファニー大好きちゃんです!!」
「ツッコミそこ!?」
ギャーギャー騒ぐ二人だが、二人とも今が夜なのを思い出し声の音量を下げた。
夜空に星が輝く時間。良い子はとっくに寝ている。
落ち着いた誠は呆れ気味にマーチェに問う。
「つーかさ、マーチェさんってなんでそこまでファニーさんのことが好きなの?」
どうせまたアホみたいな答えが返ってくるんだろうな、と誠は思っていた。『ファニーが世界で一番可愛いから』といった答えが。
「なんでって、決まってるじゃないですか」
マーチェは、当たり前のことを聞いてきた誠を不思議そうに見ながら、答えた。
「ファニー以外に、誰かに愛を貰うに値する人がいないからですよ」
「…………んん?」
何か、変だった。
ファニーを最高だと褒め称えるのではなく、それ以外が最低と言ってるのだと、誠は感じた。
「人間って、馬鹿ですよね」
吐き捨てるように、マーチェは言う。
その表情は、普段のものと変わらなかった。
「他の種族なんて、何かするにしても必ず『行き残るため』という生物として当たり前の理由があるのに、人間はどうです? 私欲を満たす、自分のためだけに戦争を引き起こすんですよ? この世で一番馬鹿で愚かな生物ですよ人間は」
でも、とマーチェは付け加える。
「ファニーは違ったんです。ファニーは本当に意味のない、全くの他人のために自分を捧げれるような人なんです。ああ、他の人達もファニーになればいいのに」
(見習えばじゃなくて、ファニーになればと言いやがったよこの人……)
誠は何とも言えない表情でマーチェを見ていた。マーチェはそんな誠を見て笑う。
「そういう意味では、貴方はファニーの上位互換かもしれませんね」
「は? いやいや他人に全てを捧げるなんてできないよ俺は」
「でも、獣人を助けましたよね?」
「いや、獣人がどんな奴かも知らないんだし……」
「獣人は、獣のような身体能力を持った種族です。凶暴で、一度戦いだせば敵を全て殺すまで止まらない、人類を最も殺したと言われてます。といった情報をマコトさんは知りましたが、貴方は目の前で獣人が倒れてたらどうします?」
ニコニコと、マーチェは笑っていた。もう答えは知っていると言わんばかりに。
とはいえ、そんなマーチェを見て答えを変えるのも変だったので、誠は素直に答えた。
「助けるよ。獣人が人類の敵だとしても目の前にいる人を見捨てるわけにはいかない。そもそもその獣人が俺に何かしたわけじゃないし」
「そうですよね、マコトさんはそう答えますよね」
じゃあ、とマーチェは呟き周りを見る。
「マコトさんに危害を加えた人、もしくはマコトさんの周囲の人達に危害を加えた人も、マコトさんは助けますか?」
「…………」
誠は何かを言おうとして、やめた。それよりも現状をどうにかするのが先だと判断したのだ。
獣人が、誠達を囲っていた。数は四人。
リーダーなのだろう。男がスッと前に出てきた。
「そこの人間共、おとなしく付いてきてもらう。抵抗は無駄だと言っておく」
「葉奈達は見つからなかった?」
誠も一歩、男に近づく。
「人質取って呼び出そうとでもしてるんだろうけど、知り合って間もない人のために自分の命を捨てる奴がいるとでも?」
「黙れ。おとなしく付いて来れば何もしない」
「抵抗したら殺すとでも? やめとけやめとけ。この辺りが吹き飛ぶぞ」
「お前が何かする前に心臓を抉り出してやる」
「ヒント、依代、二つ。これでわからないならおとなしく死ね」
誠は随分と堂々としてるが、内心ビクビクしていた。純度百パーセントのハッタリである。
とはいえ、そのことを気取られてはいけない。誠が何もできない雑魚ではなく、実力がどれだけあるのかわからない奴だと思ってもらった方が良い。というか思ってもらわなくては死んでしまう。
「……リンクバースト、か?」
お、新しい単語と思いながら誠は男を見る。
「んー? ちゃんと知ってる奴がいたのか。じゃあどうなるかも知ってるよな?」
「融合爆発、神力を混ぜ合わせた際に生じた巨大なエネルギーが放出される現象、だったな」
それに対して誠は、
「超説明口調!!」
と叫ぶのを懸命に堪える。
「つーわけで、俺らは帰らせてもらうわ。そこらの兵士に見つかって騒ぎになるなよ?」
そう言って抜け出そうとした誠の腕を翼を持つ獣人が掴んだ。
「逃がすわけないだろう」
獣人はそう言った。だが、
「……震えてるぞ? 依代にいい思い出がないのか?」
「っ! 抵抗、するな」
「大丈夫大丈夫、未知は恐怖だからな。その反応は当然だぞ?」
「え? 未知は興味だと思うんですけど」
「マーチェさんちょっと黙って」
ショボーンとしてるマーチェは放っておき、誠は獣人の肩に手を置く。
「ただまあ、気をつけろ。あんまり俺の癇に障るようなら、叩き潰すぞ?」
別に、力強く言ったわけではない。日常会話のような感覚で話しかけただけだ。
なのに、その獣人は黙ってコクコクと頷いた。どうも依代にトラウマがあるらしい。
(……なんでそんな奴を依代捕縛に連れて行くんだよ)
面白そうだからビビらせてみたいが、それをやると錯乱して襲ってくるかもしれないから我慢する。
「じゃあ今度こそ失礼。マーチェさん帰るぞ〜」
放っておいたマーチェの手を掴んでさっさと獣人から離れる。
途中でふと思い、獣人達の方を振り向く。
「信じる信じないは勝手だが、融合爆発について言っておく。あれは火薬の調合に失敗した時に爆発するのと同じで、成功すればとんでもない威力を引き出せるぞ」
「なに?」
「後は自分で考えろ。そのために頭があるんだろ?」
今度こそ、誠は獣人達から離れる。
遠くから、地面を強く蹴る音が響いてきた。




