もしものお話
「ということでただいま」
「いやどういうことですの……?」
ファニーの疑問は当たり前だと誠は思う。だが、この際そんなことどうでもいいのだ。
ちなみに誠達がいるのは何かの研究所の玄関だ。どんな研究をしてるのかは全く知らないが、マーチェの研究所だとは聞いていた。
「マーチェさんは?」
「部屋に篭ってますわ。何でも今すぐ作らなきゃいけない物が出来たらしく」
「なるほど」
確かに研究所のどこかから何か作業をしてるような音が聞こえてきた。ガッチャンゴッチャンと騒音を出している。
「ところでマコト、あの獣人はどうしたんですの?」
「……えーとですね」
言われてチラリと、誠は後ろを見る。そこにはエルシが立っているだけで、葉奈達はいなかった。
何故かアクリアが退いた後、誠は葉奈を探していたのだが結局見つからなかったのだ。おかげ随分時間が経ってしまった。
とりあえず、誠はファニーにこう言っておく。
「葉奈は家族に会えて、そのまま何処かに行きましたよ」
「ふーん、ならいいですわ」
ファニーはエルシの方へと視線を向ける。
「汗もかいてるでしょうし、お風呂に入って来なさいな。着替えは適当に用意させますから」
そう言ってファニーは騒音がする方へと歩いていく。マーチェに何か用事でもあるのだろう。
「なに作ってんだろうマーチェさん」
「どうせ我らでは理解できぬ物であろう」
「理解できければ理解できるようにするもんだよエビル」
誠はエビルを押し付けるようにエルシに渡す。
「どうせ大して力使ってないから離れててもいいでしょ? ちょっと出かけてくる」
「……我を置いていく理由は?」
「たまには一人にさせろい」
エビルもエルシも何か言いたげだが、誠は無視してさっさと外へと出て行く。
「『神の子』について考えろねぇ」
目的地など特に決まってない。フラフラと気ままに誠は歩く。
またサイボーグ忍者に襲われる可能性が十二分にあるのだが、そこら辺の考えはないようだ。
「……神の子も何も、俺は誰の事情も知らないんだよな」
そもそも、エビルがどうして誠を助けたのか。何かあるのか、ただの善意なのか。
ファニーやマーチェは、どうして誠について来たのか。
エルシは何で喋らないのか。
「知らないこと、多すぎるよな」
とはいえ、予想ができないわけでもない。
例えばエビルがどうして誠を助けたのか。
これは簡単だ。依代にして、自身の力を回復するためだ。
ファニーやマーチェは、はっきりとはわからない。ただ、マーチェは何かしらの研究をしてるようだし、そっち関係が一番濃いだろう。
エルシが喋らないのは、過去に何かあったのだろうと考えられる。怖くないのかを散々聞いてきたので多分合っている。
まあ結局全部予想にしかすぎないのだが。一般高校生はそんなに性能が高くないのだ。
「やだやだ。人をそんなに疑っちゃ駄目デスヨット」
そうやって適当に歩いていると、いつの間にか浜辺に着いていた。よっこらせと言いながら誠は地べたに座る。
「……『貴方の切り離された両腕を代償とし、私の力を貸しましょう』だったけ」
エルシと契約した時、確かそんな声が聞こえた。
この言葉から考えると、要は『手を貸してやるから両腕貰ってくぜ』ということだろう。
両腕が消えたのはこの際どうでもいい。それよりも『力を貸す』という所が重要だ。
あくまでそのまま言葉を受け取るなら、誠にエルシの力が貸し与えられるのだろう。
だが、誠にエルシの力が与えられた、なんてことは一切ない。
誠がエビルに、その力を誠自身が扱えないかと聞いた時、エビルはこう言った。
『出来ないことはないが、その場合我らが持つ力をマコトに渡すことになる』
あの言葉から考えると、誠にエビル達の力を貸し与えられるのが本来の形なのだろう。
なのにそれが成されないのは何故か。これはあっさりと分かった
「貸し与えることで、契約が完全に成立するんだろうなぁ」
アクリアは消える直前に、誠を見て笑った。面白そうに、嘲笑の笑みを浮かべていた。
そしてエビルは、誠に力を渡すことを拒んでいた。
これらから予想できるのは、誠がエビル達に利用されているということだ。
依代の近くにいれば、エビル達は回復する。ある程度回復したら何処かに消えるつもりなのだろう。
ただ、一応契約はしている。エビル達は誠に力を貸し与える義務が発生してしまっている。
恐らくはその義務の最低ラインを、眼や腕で行っているのだろう。
力を貸し与えなければ、契約をいつでも破棄できるのだろう。
だが、一度でも力を貸し与えてしまえば、もう誠から離れることはできない。何故ならば、近くにいなければ力を貸し与えられないから。
わざわざそんな面倒な事をする理由は、誠が本来契約するに値しない人間だからか。
誰だって何か契約するなら、もっと能力が高く、自分の力を上手く使ってくれる人がいいだろう。回復したらそんな人物を探しに行くのかもしれない。
まあこんなの全て誠の予想、もとい妄想だ。確証なんて一切ない。
ただ、こんな妄想が合っていたら、
その時は、どうするべきか。
「……やーめた」
ごろりと、誠は地面に転がる。考えるのが面倒になってきたのだ。
そもそも、例えそんな妄想が合っていたとしても、誠にはどうしようもない。
彼は、特別な力を一切持たない普通の人間なのだから。
そのまま誠は目を閉じ、眠った。




