水の神のお話
「のおおおおおおおおぉぉぉぉ!?」
鞭のように動き、周りの物を切り裂く水を誠は地面に這って避けた。
獣人達はあっという間に水の攻撃範囲から逃げ、エルシは空気の壁を作り出して水の軌道を逸らしていた。
「おいおい、死ねと言ってるのに避けるな」
「避けるわ!! んなもん誰だって避けるに決まあああああああ!?」
シュパン!! という水からする音とは思えない音と共に放たれた水を、誠はゴロゴロと転がって必死に避ける。
「どうしたモリモトマコト。神の力は使わないのか?」
「何の話!? つーか何で俺の名前知ってんの!?」
「名前くらい知っててもおかしくあるまい。お前はそれなりに有名だぞ? 何せ二つの神の子を従えているのだからな」
いつの間にか、攻撃は止んでいた。誠はアクリアと名乗った男に注意しながらゆっくりと起き上がる。
(葉奈達は逃げれてるのかな?)
「……つーか、従えてる?」
「何を不思議そうに。火を司る神の子に、風を司る神の子を連れておいて」
「そういうお前はウォンターを持っている。そもそも科学の奴らはエビル達を殺そうとしてるのかと思ってたんだが?」
「……ああ、猛にでも会ったのか?」
カツン、とアクリアが杖で地面を叩いた。
「確かに、うちの中でもそういった考えはある。『神の子は不必要。強大な力を持つ奴らは何をするか分からない。だから壊せ』つってな」
だが、とアクリアは付け加える。
「俺達は違う」
「…………」
「俺達は神の子を壊そうなんて馬鹿なことは思わない。だってもったいないだろ? こんなに強大な力を、人の手で操れるんだぞ? この『神技』があれば人はどこまでいける?」
「はっ、神にでもなるつもりか?」
「もうなってるよ」
「……は?」
冗談を真顔で、しかも予想外の回答をされて誠は固まる。
「何を驚いているんだ? 俺は今水と冷を司る神の子を持っていて、その力を自在に使いこなすんだぞ?『水の神』を名乗ってもおかしくはあるまい」
「……その理屈なら、俺は『火と風の神』か?」
「お前は違う。今のお前は火の神の子と風の神の子を所有してるにすぎない。それでは神とはいえないさ」
「……?」
「ふむ。ならば明確な違いを少し見せてやろう」
そう言ってアクリアは杖を、ウォンターを掲げる。
何か攻撃が来るのかと誠は身構えるが、違った。
掲げたウォンターから、声が聞こえた。
いや、声というべきなのか、誠には判断が出来なかった。
何故ならその声は、
「――t、tzkt、えびルni……」
声というには、あまりにも言葉になっていないからだ。
「言語機能がどうにも壊れてるようでな。うまく喋れないんだが……道具に言葉は不要だ。ちょうどいい」
剣が、エビルが震えた。
「何をした。貴様、ウォンターに何をした⁉︎」
「少々『加工』をしただけだ。そんなに騒ぐなよ。それに、お前もこうなるんだからな」
「っ!!」
ガギンッ!! という音を出しながら剣が鞘から飛び出した。剣は炎を纏ったかと思えば、そのままアクリアに向かって勢いよく飛んでいく。
「ば、エビル!? 突っ込むなよおい!?」
エビルが突っ込んだのに合わせ、こっそりアクリアの視界外に移動していたエルシも風の刃を飛ばす。
だが、
「無駄だ」
アクリアを護るように現れた巨大な水玉が風の刃を受け止め、更にエビルを水で包んでしまう。
水に包まれたエビルを手に取り、アクリアは囁きかける。
「なんだ? 自分から『加工』されに来たのか?」
「っ!」
「エビル!!」
誠は全力で走り出し、アクリアに向かって鞘を放り投げる。
力を使うまでもないと判断したのか、エビルとエルシに使っている水で受け止めることをせずに生身で鞘を掴み取る。
誠は止まらず、そのまま地面の土をアクリアの顔に向かって蹴飛ばした。
ダメージにはならないだろう。だが、人というのは何かが飛んでくると反射的に反応してしまう生き物だった。
「むっ」
そして土に反応したアクリアは僅かにだが、一撃は入れることのできる隙を見せた。
その隙を突いて、誠は全力で足を人体の弱点に向かって振り上げる。
「おらぁ!!」
気合と共に放たれたその一撃は、狙った所へと吸い込まれていく。
その場所は、一般的に『金的』と呼ばれる、人類最大の急所であった。
ズドムッ!!と、あまり聞きたくない音が鳴り響いた。




