諦めた時のお話
「我々はな、裏切り者なんだよ」
開口一番、格郎はそう言った。
「そのさいぼーぐにんじゃとやらが言っていた神子というのは、葉奈のことを言っているんだと思う」
「まあ、それは分かってます。……神子なんて呼ばれてるってことは、神降ろしでもするんですか?」
「何を馬鹿なことを」
突然、エビルが会話に割り込んでくる。
「我らが父を呼び出すなど不可能だ」
「な、なんだ!? どこから声が!?」
「これですこれ。この変な剣」
ペシペシと誠はエビルを叩く。格郎は興味深そうにエビルを見ている。
「剣が、喋っている? これはいったい……」
「我が名はエビル。世界を作りし偉大なる神の、五番目の子供」
「……君は、依代だったのか?」
格郎の疑問に、誠は一応答えておく。
「まあ、らしいですね。よく分かってないんですが」
「……なるほど。あの奇妙な奴らはこれが目的で……」
「へ?」
「いや、なんでもない」
凄い気になる発言をして、格郎は脱線しかけた話を戻す。
「神子というのは、あくまで素質のある者を指しているんだ。とある儀式に使われる者の、な」
「あ、もう分かった。大昔の英雄か何かの人格や記憶をその神子にぶち込むんでしょ?」
誠の予測に、格郎と真奈は驚いたようだ。誠からすればゲームでよくあることすぎて呆れるばかりだが。
「その通りだ。この場合は葉奈に英雄、顎の人格と記憶を儀式で上書きするのだ」
「つまり、今の葉奈は完全にいなくなる。それを恐れ、拒んだ三魁さん達は獣人達に追われてると。サイボーグ忍者達が追ってるのは、その顎とやらに出てこられると困るから、かなあ」
「おそらくは。……しかし、少しばかり理解が良すぎないか? 実は何処かでこの情報を知ってたわけではないだろうな」
「いやいやいや、普通ですよ普通。こんなの俺がいた所なら誰でも分かりますって」
分かった所で何も出来ないけどね。と誠は思うが言わない。
相手が何をするか、が分かった所で動くのは誠ではなくエビルやエルシ達だ。誠は何でもないただの一般人であり、一人では何も出来ないのだから。
「けど、そんな風に人格と記憶を顎とやらにしても、身体は葉奈ですよね? 英雄と言っても子供の身体で何か出来るとは思えないんですが」
「だろうな。だが、そんなことはどうでもいい。葉奈を失うことを私達は恐れているのだ。あいつらがどうするつもりなのか知ったことではない」
「……まあ、それもそうですね」
そう、関係ない。相手の計画を阻止するのに、その計画で何をしたいかを知る必要なんてないのだ。
「それじゃあまあ、何とか逃げ延びる方法でも考えましょうか。まずは相手の戦力を……」
「待て誠。そのようなことをする必要があるのか?そもそも我らにも目的があるだろう」
エビルがまたもや口を挟む。誠は若干面倒くさそうにエビルに言ってやる。
「ってもやることないじゃん? じゃあ別に好きにやってもよくないか?」
「ウォンターを探せばよいではないか」
「じゃあ探すついでに逃げる手助け?」
「そもそも獣人を助ける理由などないだろう。お前は帰りたくないのか?」
「帰りたい、もちろん帰りたいよ。だけどそれとこれは話が別だろ?」
それと、と誠は付け加える。
「確認したいんだけどさ、エビルがウォンターに会う理由って何だっけ?」
「……? ペンシャの居場所を知らないか聞くため、であろう?」
「…………なるほどなるほど」
そこで誠は何かを少し考え、エビルにこう告げる。
「じゃあ、諦めるか」
「は!?」
「帰るの諦めよう。冷静に考えれば帰ってもいいことないもんな、うん」
突然、誠はそんなことを言い出した。
エビルは酷く混乱しているようだった。
「ま、待て! いいのかそれで!? 向こうには家族や仲間がいるだろう⁉︎ 放っておいていいのか!?」
「いやいやいや、もう消えてから一ヶ月経ってんるんでっせ。とっくに葬式でも挙げられてるでしょ」
「ぬ、な、おまっ」
「さて、帰る必要がなくなったし、これで思う存分格郎さん達の手伝いが出来まっせ」
「…………」
エルシは葉奈を撫でる手を止め、何か言いたげに誠を見ている。
それに誠は気付いていないフリをする。
エビルは呻くように呟く。
「わからん、我にはわからん。何故全くの他人のために帰る選択肢を捨てるのだ。そこまでして助ける理由などあるのか」
「はっはっはっ、何を言ってるのかねエビル。やっぱお前は無駄に長生きしてきただけだな」
誠はヘラヘラと笑って何か言ったが、誰の耳にも届かなかった。
ゴッ!! という音と共に誠の目の前を何かが通った。
その正体は、水だ。水のカッターが誠の目の前の地面を切り裂いていた。
「また? また!? そろそろ不意打ちやめてくれませんかねつーか今ちょっとズレてたら死んでるじゃねえか!!」
「当たり前だ。殺すつもりでやったんだからな」
聞こえてきたのは男の声。
その男は、公園の入り口に立っていた。
男は全身を締め付けるような複数のベルトの付いた黒い服を着ていた。金色の髪は染めてるのかギラギラと光っている。
そして、その手には一本の杖があった。どんな素材なのか誠には分からないが、それでも普通の金属で作られたものではないと分かった。
「誰? サイボーグ忍者の仲間? それとも獣人の方?」
「さいぼーぐにんじゃ? ……あああの人形のことか。確かに忍者っぽいところはあるな。いや忍者が元になってるんだったか?」
「あーやだやだ。どうせその杖の先から高圧水流発射するんだろ?お前らどんだけ水好きなんだよ」
「好きも何もこいつが司るのは水と冷だよ」
「……司る?」
「ウォンターだ」
エビルがカタカタと鞘の中で動く。
「あの杖はウォンターだ。しかもその男、依代になっているぞ!」
「……マジで?」
男はニコッと笑う。ただしそこにあるのは敵意のみだ。
「アクリア・ヴァルントルムだ。死ね」
ドッ!! と、莫大な水があらゆる物を切り裂いた。




