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化け物のお話

「なーんだったんだろ?」

 誠はファニーが何に怒ったのか分からず首を傾げる。

「本当にすいません。私のせいで……」

「葉奈は悪くねえだろ。ファニーさんが何か抱えてるだけで」

 土下座している葉奈の顔を上げさせる。

「…………」

 なでなで、と突然エルシが葉奈の頭を撫で始める。葉奈はなんか幸せそうな顔をして尻尾をパタパタと振るわせている。

 なでなでなでなでなでなでなでなでなでなでなでなでなでなでなでなでなでなでなでなでなでなでなでなでなでなでなでなでなでなでなでなでなでなでなでなでなでなでなでなでなでなでなでなでなでなで……。

「おい、そろそろいいか? 流石に長い」

「はっ!」

 たっぷり数分以上エルシは葉奈の頭を撫でていた。放っておいたら一時間くらいやったのかもしれない。

「…………」

 若干エルシは不満そうだった。一時間どころか二時間はやるかもしれない。

「てかこんなことしてると何のために此処に来たのか分からなくなってくる……つーかほんとになんで来たんだっけ?」

 剣から声が聞こえてくる。

「ウォンターに会いに来たのだ。忘れるな」

「あ、いたんだエビル。最近何も喋らないから存在忘れてた」

 無言で落ち込むエビルを放置して誠は葉奈に話しかける。

「俺らには俺らの目的があるんだけどさ、葉奈はこれからどうする? なんか追われてるっぽいけど」

「……」

 エルシが無言で誠の手を掴み、葉奈の腕も掴む。一緒にいようということらしい。

「……葉奈、どうする? この姉ちゃん一緒に行くって言うまで多分放さないぞ?」

「あの、私五十二歳なので私の方がお姉ちゃんなんですけど」

「エビル、今何歳?」

「歳なぞ数えん。億は超えてるとだけ言っておこう」

「うん、エルシさん達の方が年上だな。つーか億ってお前らどんだけ長生きなんだよ」

「この身体を持った歳という意味なら五年前だが」

「五年前に何があったし」

「分かれば苦労はしない」

「まあそれについてはどうでもいいや。結局葉奈はどうするよ」

 誠の問いに、葉奈は首を横に振る。

「いえ。マコトさん達は人捜しに行くんでしょう?でしたら獣人の私がいると邪魔になると思います。ですので私のことは放っておいてください」

「追われてるんだろ? 大丈夫なのか?」

「大丈夫です。あんな人達に捕まるほど獣人は弱くないですから」

「そっか。気を付けろよ」

「……はい、気を付けます」

 不自然な間を空けて葉奈はそう言い、部屋を出て行った。

 誠も自分の目的の為に行動を開始する。

 その時に、気付いた。

「…………あれ? なあエビル」

「なんだ?」

「…………エルシさんは?」

 部屋には、誠とエビルしかいなかった。



「変な人です」

 葉奈は路地裏を歩きながらさっきの少年を思い出す。

「獣人を助けて、獣人に気を付けろなんて……本当に変な人です」

 人間は敵。

 人間が獣人を敵視するように、獣人も人間を敵視していた。ぶつかった時に素直に謝ったのも、面倒事を作りたくなかったからだ。

 あのファニーと呼ばれていた少女が普通で、あのマコトと呼ばれた少年の方が異常なのだ。

「本当に、変な人です」

 何度目か分からないその呟きは、そこで止まった。

 ダンッ!! と空から人が落ちてきた。ただし、人間と違い、耳と尻尾がある。

 更に数人降りてくる。葉奈と同じ耳を持つ者や、背中から烏の翼が生えた者もいる。

 彼らは、葉奈と同じ獣人であり、葉奈が人間から逃げるのにも苦労するくらい疲労した原因だった。

 獣人は、人間に比べて圧倒的な身体能力を持つ。そんな種族にとって、人間に追いかけられることなど数にも入らない。

「三魁葉奈」

 リーダーらしき人物が話しかけてくる。

「大人しく捕まれ。抵抗は罪状を増やすだけだ」

「…………」

 対して葉奈は、静かに両拳を握り締める。

「……やれ」

 リーダー格が命令すると、獣人達は葉奈を囲む。

 人間が見れば、一目散に逃げ出しそうな状況。

 音さえ置いてけぼりにする種族の戦いが、始まる。


 その直前に。

 人の形をした化け物が、葉奈の横に降り立つ。


「「「っ!?」」」

 その化け物は、その場でくるりと一回転した。

 それだけだったのに、ゾバッ!! と獣人達の首が吹き飛んだ。

 葉奈には、見えなかった。

 音速で戦闘する獣人でさえ、その攻撃を見ることは出来なかった。

 その化け物は、少女だった。

 その化け物は、茶色の外套を身に纏っていた。

 その化け物は、エルシと呼ばれていた。

 その化け物は、葉奈の方に顔を向け、感情のない顔と声で問う。

「……大丈夫?」

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