サークル加入と、甘くて苦い居場所
「ふぅ〜、今日はお疲れ様〜!」
大学の駐車場に戻り、車を停めた八標先輩は、運転席で大きく伸びをしてから車を降りた。僕たちもそれに続いて外に出る。
「とまあ、うちはこんな感じで、それぞれが自分の興味や関心のある『旅』を追求していくサークルだから、『旅行同好会』って名前でやってるの。私の場合はツーリングマップルを使った旅が好きだから、さっきの場所も本に載っていたところだしね。普段もゆるーく活動してるから、気が向いたらこれからも気軽に遊びに来てね」
先輩が朗らかに微笑むと、隣に立っていた喜多乃が、すっと手を挙げた。
「あの……サークルの入会手続きは、どうすればいいんでしょうか?」
「えっ? それは部室にある書類に名前を書いてもらえれば大丈夫だけど……。もしかして、入会してくれるの!?」
「はい」
何が彼女の心に響いたのかは分からなかったけれど、喜多乃は迷いのないはっきりとした声で断言した。うーん、道草さん、今日一連の流れで旅行同好会への入会を決めるって、ちょっと変わってるな。
僕の脳裏には、一時間ほど前に行っていた宇宙人とのコンタクト呪文の光景が浮かんでいた。
「道草さん……! ううん、喜多乃ちゃん! ありがとう〜〜っ!」
八標先輩の瞳にみるみる涙が浮かんだかと思うと、先輩はそのまま喜多乃に勢いよく抱きついた。突然抱きしめられた喜多乃は一瞬だけ困惑した表情を浮かべたものの、すぐに受け入れるように先輩の背中にそっと腕を回した。
「はい。よろしくお願いします、八標先輩」
「うんっ! よろしくね!」
目の前で繰り広げられる感動的? な友情の光景を眺めながら、僕の頭の中はぐるぐると高速回転していた。
「よしっ、じゃあ一旦お開きにして、喜多乃ちゃんは私と一緒にサークル棟まで手続きに行こっか! 弥次くんはどうする?」
八標先輩が眩しい笑顔を向けてくる。
変わった先輩だし、同級生の喜多乃もどこか変わっているとは思う。けれど、考えてみれば自分だって、大学に入ってからゲーム三昧の生活を送っているのだから、人のことは言えない。
当初の目的通り、普段のゲーム時間はちゃんと確保できそうだし。
それに……二人とも美人だからお近づきになりたいとか、そんな気持ちがほんの少しばかりないかと言われれば嘘になる。小中高の時に一度たりとも、彼女がいたことはないし、女性と話すこともほとんどなかった身なのだから。
いや、それがメインの目的ではないよ! ホントだよ。
「……別に、僕も気の向いた時だけの参加でいいんですよね?」
ゲームの時間さえ確保できればいいか。そんなふうに自分に言い聞かせるように、僕は先輩に問いかけた。
「もちろん!」
「……それなら、僕も入会させてください」
「わぁっ! 弥次くんも!? ありがとう〜〜っ!」
天真爛漫という言葉は、きっとこの人のためにあるのだろう。喜多乃にしたのと同じように、先輩は「がばっ!」と容赦ない勢いで僕にも抱きついてきた。
お日様の下で干した洗濯物みたいなふんわりと柔らかい香りと、胸のあたりにダイレクトに伝わる柔らかい感触。女性に対する免疫がほぼゼロの僕には刺激が強すぎて、一瞬で頭がクラクラと熱くなった。
(ぜ、絶対この先輩、無意識に男子を勘違いさせるタイプの危険人物だ……!)
卒倒しそうになるのを必死で耐えながらふと視線を横に向けると——隣の喜多乃が、無表情で僕を見ていた。僕の後ろめたさがそうさせるのか、心なしか視線がきつい気がする。
「(不潔)」
UFOの里に行って超能力にでも目覚めてしまったのか、喜多乃の僕への言葉がまるでテレパシーのように、頭にありありと聞こえてきた。多分幻聴だけど。
(い、いや! 俺から要求したわけじゃないからね!? 事故だから! 勘弁して!!)
もちろん、そんな悲痛な心の声を口に出せるはずもなく、僕はただただ真っ赤になった顔を背けることしかできないのだった——。




