黄色いハスラーの出発
「お二人とも、来てくれたね〜」
ウェルカムな笑顔で僕と道草さんを迎えてくれる八標先輩。
「じゃ、行こうか」
終始ご機嫌な先輩はサークル部屋を出て、大学の出入口へ向かってどんどん進んでいく。
この大学には出入口が三ヶ所あるのだが、先輩は駐車場がある方の出入口に向かっているようだった。最寄り駅のある方面とは全くの別方向なので、一体どこへ連れて行かれるのか謎は深まるばかりだ。
「八標先輩、どこに行くのかそろそろ教えてもらっても?」
「それは着いてからのお楽しみ〜」
楽しそうにそう言うと、先輩は駐車場に停められた黄色のハスラーの前で足を止めた。リモコンキーを操作すると、カチッとロックが外れる軽快な音が響く。
「じゃあ、二人とも乗って乗って〜」
「先輩、車持ってるんですね」
午前中の会話で先輩がそんなことを言っていたのを、ここで思い出した。
「父親のお下がりだけどね」
「結構遠くなんですか?」
「ここから二十分くらいの場所だよ。行って戻ってなら、たぶん二時間もあれば大丈夫だと思うけど」
「ささ、どうぞ。好きなところ座って〜」
先輩に促されて、僕は一瞬で硬直した。助手席に座るべきか、後部座席に座るべきか。……むしろ「君はここね」と指名してくれた方がどれほどありがたかったか!
隣の道草さんも僕の方をじっと見つめ、こちらの様子を伺っている。見知らぬ男子と二人きりで後部座席に座るのも警戒されるかもしれないと思い、僕は先に譲ることにした。
「……道草さん、先にどうぞ」
「えっと、はい」
そう言うと、道草さんは後部座席のドアを開け、空いているスペースにちょこんと腰を下ろした。
……が、道草さんが座った直後、僕は自分の選択ミスに気づいた。運転席には先輩、後部座席には道草さん。……あれ? 今度は僕が「助手席に乗るか」「後部座席で道草さんの隣に座るか」という、さっき以上に悩ましい二択に直面しているじゃないか!?
思考がフリーズしている僕に、運転席の先輩が首をかしげる。
「ほら、君も早く乗って〜」
焦った僕は何も考えられなくなり、咄嗟にそのまま後部座席のドアから滑り込んだ。
「あ……」
隣に乗り込んできた僕を見て、道草さんは少し驚いたように目を丸くした。そして僕が座ったのを確認すると、すっと身を座席の端の方へと座り直した。……正直、ちょっと傷つく。
「ご、ごめん……前に乗った方が良かった?」
耐えかねて思わずそう尋ねてしまった。
「ううん、大丈夫」
至極冷静な顔つきでそう返されると、それが本心なのか単なる社交辞令なのかまで読み取ることは僕にはできなかった。
「じゃあ、二人とも念のためシートベルトは締めてね。では出発〜!」
先輩の元気な合図とともにウインカーが点滅し、黄色いハスラーがゆっくりと動き出す。
車の運転は驚くほどスムーズで、危なっかしい様子は一切なかった。これまで女子と深く関わることのなかった僕は、車内で何を話せばいいのかと、そればかり考えていた。けれど、その心配はまったくの杞憂に終わった。
車内では、先輩が沈黙を作らないように次々と会話のネタを披露し、言葉少なげな僕たちにも自然なトーンで話題を振ってくれたのだ。おかげで気まずい雰囲気になることもなく、黄色い車体は心地よいエンジン音を響かせながら目的地へと向かっていったのだった——。




