距離感バグの酷道ドライブ&秘境の水着ギャップ
「弥次くん、喜多乃ちゃん、夏休みの予定はもう決めた?」
入学から三か月が過ぎ、七月に入った。前期試験が近づく中、サークル部屋に集まった面々に、マップル先輩はそう尋ねた。
「僕はゲーム三昧になりそうです」
「私は、福島にいる母方の祖母の家に行く予定です。それに合わせて、両親も福島に来ることになっています」
「うんうん、二人とも夏休みを満喫できそうで何よりだね」
「先輩たちは何をするんですか?」
「もちろん私はバイトだよー。夏休みは稼ぎどきだからね。日々の旅行生活を行うには今稼いでおかないと」
「そういうもんですか?」
「夏休みやお盆っていうのは、休める人たちが一斉に移動する時期だからね、移動するにしても事故や渋滞に巻き込まれちゃうこともあるし、行った先の飲食店とかいろんなお店が混んでるし、下手に宿泊しようとすると高くついちゃうしね。そういうわけで、繁忙期はバイトしてるのがいいってわけ」
「俺も薫ほどじゃないけど、夏休みはほとんどバイト生活になりそうだな」
聞いたところによると関所先輩は大学の寮生活をしつつ、学費もほとんど自分で払っているんだとか。家庭教師のバイトを掛け持ちしているそう。
ちなみに、もう一人の先輩——歓迎会で会うはずだった道則先輩は、今日も聖地巡礼で青森まで出かけているらしい。
旅行同好会に入ってから一度も顔を合わせていないが、どんな人なんだろう。単位などは大丈夫なのだろうかと、他人事ながら少し気になっていると、マップル先輩曰く大学一年生から二年生の間にほとんど取れる単位はとってしまい、その他の時間はバイトにあてていたらしく、三年生になってからは、必須の単位を取るために大学に来る他は、溜まったお金で日本全国を巡る聖地巡礼の旅を楽しんでいるらしい。
なので、去年、一昨年よりも旅行同好会に顔を出す機会が減っているらしい。
「ねえねえ、そういえばさ、弥次くんと喜多乃ちゃんの歓迎旅行、まだ行ってないよね」
マップル先輩は、入会した日から僕と道草さんのことを下の名前で呼んでいる。呼ばれた当初は違和感があったけれど、何度も呼ばれているうちに慣れてしまった。
「四月の終わりに、歓迎の飲み会をやっただろう?」
関所先輩が僕の疑問を代弁してくれた。
「そうだね。でも旅行同好会なんだから、旅行同好会の歓迎といえば、やっぱり一緒に旅行でしょ!」
「もちろん、みんなの都合もあるから、今回は泊まりじゃなくて、日帰りで行ける距離でさ」
「ちなみにどこですか?」
「まだ、決めてないんだ。みんなの意見聞きたいなと思って」
「私は、先輩方のおすすめしたところがいいです」
「弥次くんはどこか行きたいとこある?」
マップル先輩から、そう話題を振られるけれど、福島から日帰りで行ける範囲での行きたい場所とかは、思いつかなかった。
「特にはないですね」
関所先輩が軽く手を挙げた。
「いいか?」
「智也はどこか行きたいところあった?」
「今年はまだババヘラアイス食べに行ってなくてさ、秋田なんてどうだ?」
「智也はほんと、ババヘラアイス好きだよね」
「ババヘラアイスってなんですか?」
「んー、喜多乃ちゃん知らないか。ババヘラアイスって、秋田県でおばあちゃん達が露店出して販売しているアイスだよ」
マップル先輩は、スマホを操作してババヘラアイスを道草さんに見せる。
僕もその画像を見せてもらうと、白と赤のアイスが薔薇の花びらのように重ねて盛られていた。
「智也は小さい頃にババヘラアイスを食べてから、すっかりハマっちゃったらしくて、大学生になってからは、一年に三回は食べに秋田県へ行くくらいなの」
「そんなに美味しいんですか?」
「俺は美味しいと思うが、人それぞれかな」
「食べてみたいかも」と、道草さんがぽつりと呟いた。
「実は私も智也から話は聞かされることはあったけど、食べたことはないんだよね」
秋田県は北東北だから結構遠そうだ。
「秋田って遠くないんですか?」
「んー、高速使えば近いところだと三時間くらいで行ける場所もあるけど」
むむむと、考え込むマップル先輩。
「そうだ! ここはどう?」
そう言ってマップル先輩はツーリングマップルをパラパラとめくり、とある場所を指差した。
そんな会話を交わし、前期試験が始まる前の日曜日、旅行当日を迎えた。晴れ渡った青空の下、大学の駐車場に集合した僕たちは、関所先輩が運転する年季の入ったカローラに乗り込んだ。
今日の目的は、マップル先輩が提案した秋田県の「川原毛大湯滝」を訪れること。温泉が川のように流れ、滝になっているという珍しい場所だ。そこで温泉を楽しんだあと、帰りがてら湯沢市や横手市でババヘラアイスの販売を見つけて味わい、福島へ戻るという計画だ。
今回は東北自動車道などの高速道路を利用することになった。新入生の歓迎旅行ということで、交通費はマップル先輩と関所先輩が負担してくれることになった。
ちなみに道則先輩は、今日も聖地巡礼で欠席。今回は四人で出かけることになった。
関所先輩の運転は安心そのもので、何の不安もなかった。僕たちが通う福島市内の大学から、今回の目的地である秋田県の川原毛大湯滝までは、高速道路を使っても約二百三十キロ。運転だけでも片道三時間半ほどの長距離ドライブだ。下道だけで走れば、走行時間だけで五時間を軽く超える。往復十時間以上かかるところを、高速道路なら往復七時間ほどに短縮できる。高校生の頃には意識したこともなかった高速道路のありがたみが、身に染みた。
午前八時三十分に福島を出発し、東北自動車道を北上。福島JCTから東北中央自動車道へ入り、山形県の新庄真室川ICで降りる。ここまで約二時間四十分。
せっかくの旅行だから、道沿いの店で昼食を取ろうということになり、高速道路を一度降りた。車が滑り込んだのは、山形県金山町の道路沿いにある店の駐車場だ。開店直後だというのに、店内はすでに地元客やドライブ客で賑わっていた。
テーブルを囲んでラーメンと餃子を注文する。料理が運ばれてくるまでの間に、スマホで地図マップを開き、残りの距離を確認してみた。ここから目的地の川原毛大湯滝までは、まだ一時間弱かかるようだった。
「ここから先は、途中までさっきの高速を使って須川ICまで行ったら、あとは山の奥へ向かって、くねくねした道が続くからさ。車酔いが心配なら、酔い止めを飲んでおいた方がいいよ」
そう言って、マップル先輩は自身のバッグから酔い止めの薬をさっと取り出し、僕と道草さんに向かって差し出してきた。僕はあまり車酔いをしない体質なので「大丈夫です」と断ったが、隣の道草さんは「もらってもいいですか」と素直に受け取っていた。
ラーメンが届き、麺をすする。そんな何気ない場面でも、二人の対照的な様子が目に入った。マップル先輩は太陽のような笑顔で、見ている人まで元気にさせるように「ずずっ」と音を立て、豪快に美味しそうに食べる。一方の道草さんは、あまり表情を変えず、凛とした佇まいのまま、音を立てずに少しずつ麺を口へ運んでいく。時折、顔にかかった髪をかき上げる仕草まで、絵になる。
そんなマップル先輩を見て、ふと思うのだが、これほど目を引く美人が部長をやっているなら、性格はちょっと変わってるけど、もっとこの『旅行同好会』に大勢の男子部員が集まってもいいのになと思う。
だが、現実は僕と道草さんという新入生二人を含めても、片手で数えるほどの小さなサークルにとどまっている。
多分その理由は明白で、ひとえに「先輩たちの個性が強すぎるから」に他ならないからなんだろうな。
バイト代をほぼすべて旅行に注ぎ込む旅中毒のマップル先輩を筆頭に、車を出してくれる関所先輩も、今日、聖地巡礼で欠席している道則先輩も、それぞれのこだわりと世界観を持った、かなり癖の強い人たちなのだ。
(……まあ、その強烈な個性と野放し感が、僕みたいな人見知りには逆に心地よかったりするんだけどさ)
卓上に置かれたラーメンを汁まで飲み干し、満腹になったお腹をさすりながら、僕は密かにそんなことを考えていた。
*
お腹を満たしたあと、車は再び高速道路に入り、須川ICで降りる。降りてから十分ほどは、のどかな田園風景が続いていた。
ここまでは良かった。ところが、車がウインカーを出して右折すると、景色は一変した。道はぐんぐんと山を登り始め、対向車とすれ違えるのか不安になるほど細くなっていく。
「あとどれくらいですか?」
僕の問いかけも、助手席のマップル先輩の「あともうちょっとだよ」といういつもの言葉で終わる。
思わずスマホを見ると、画面の右上には無情な『圏外』の二文字が浮かんでいた。窓の外には、真っ青な空と、果てしない森。そして忘れた頃にポツン、ポツンと現れる民家。……同じ言葉を、三十分前にも聞いた気がする。
すると、隣でイヤホンを着けて目を閉じていた道草さんが、片耳を外して声をひそめ、僕の方に顔を寄せて囁いてきた。
「……本当にこんな山奥にあるのかな?」
「確かに……」
僕も田舎出身ではあるものの、自然の中で遊び慣れているわけではない。清々しさを感じるというより、野生動物が出てこないかという恐ろしさの方が強かった。
言葉にするわけではないが、僕だけじゃなくて喜多乃も同じような心配をしているのが分かって、なんだか少しホッとした。
「安心して、ほら、右側に建物が見えてきたよ」
助手席のマップル先輩が人差し指で右方向を指すが、運転席の関所先輩が壁になって、僕からは見えなかった。そうこうしているうちに車が緩いカーブを曲がると、視界が急に開けた。右手には車を停められる広場と、建物らしきものが見えた。
「とーちゃく。二人ともお待たせ、着いたよ! 貴重品持って車降りよう」
マップル先輩は長距離移動の疲れなど微塵も見せず、車を降りると僕たちの足元を確認した。
「二人とも、スニーカー履いてきてるね。よし!」
来る前から先輩に伝えられていた通り、僕も喜多乃も動きやすいスニーカーで来ていた。
「二人とも、もし虫除けスプレー持ってきてないならこれ使って」
「あ、ありがとうございます」
「虫除けスプレーって、普段あまり外で過ごさない人だと、わざわざ買うのももったいないからね。遠慮せず使って」
不器用だが細やかな気遣いに感謝しつつ、僕は気になっていたことを尋ねた。
「八標先輩、その温泉の滝っていうのはどこにあるんですか?」
「温泉の滝は、ここから山道を十五分ほど下った先にあるんだ。トイレはこの駐車場にしかないから、必要なら出発前に必ず行っておいてね」
そこまでトイレに行きたい感じでもなかったけれど、せっかくの忠告だ。素直に従っておくことにした。
関所先輩がトランクを開けて準備をする横で、マップル先輩は自分のザックを背負い、側面に銀色の鈴を取り付けた。鈴は「チリン、チリン」と甲高く澄んだ音を立てた。
「綺麗ですね、その鈴」
道草さんが、鈴の話をすると、
「うん、この音の響きが良くて、クマ鈴これにしたんだ」
「……え、クマ……出るんですか、ここ」
道草さんが、一瞬で顔を青ざめさせた。
「自然の中に入る以上、リスクがゼロというわけにはいかないからね。今回は私が全員分の救急用品を背負っていくから、安心して」
「は、はい……」
マップル先輩の言葉に、道草さんはまだ少し青ざめた顔で小さく頷いていた。連日、ニュースやネットで「クマ出没」の話題を目にする今の学生なら、その恐怖も当然だろう。
だが、実を言えば僕はそこまでパニックにはなっていなかった。僕の生まれ故郷では、「近隣でクマが目撃されました」という防災無線が、市内に毎日のように響き渡るような田舎だったのだ。危険なのは確かだが、七月の休日で観光客の往来もあり、僕たちのような団体が鈴を鳴らしながら歩いていれば、そうそう出遭うものではない。そんな感覚が、経験として身についていた。
「道草さん、今日のこの人出なら余程のことがなければ大丈夫だよ。……ほら、行こう!」
関所先輩の朗らかな声に背中を押され、僕たちは遊歩道へと足を踏み入れ始める。
マップル先輩は相変わらずの格好だった。色落ちした青いジーンズに、無地の白いTシャツ。足元は履き慣れたスニーカー。余計な装飾も、流行のブランド服もない。バイト代のほぼすべてをガソリン代と旅費に注ぎ込む先輩は、服に対しても「気兼ねなく使えて、旅の邪魔にならないこと」を最優先にしている。
だが、無駄を削ぎ落とした白Tシャツと青ジーンズだからこそ、モデルのようなスタイルと黒髪の美しさがかえって引き立つ。そんな先輩が、重い救急ザックを背負って先頭を歩く姿には、不思議な頼もしさがあった。
遊歩道を進むにつれ、周囲の景色は日常からどんどん遠ざかっていく。途中で渡った木製の橋から下を覗くと、流れていたのは冷たい川水ではなかった。もうもうと湯気を立ち上らせる「温泉の川」だった。
「うわ……川から湯気が出てる……」
「アドベンチャー感が湧いてきたでしょう?」
先輩は嬉しそうに橋を渡ると、僕たちを先導する。
その先は、丸太を組んだ急な階段状の下り坂になっていた。一段一段、膝に重みをかけながら谷底へ向かって下りていく。最初はかすかだった水音が、歩みを進めるごとに「ゴーッ……」という重低音へと変わり、空気中の硫黄の匂いと湿気も強くなっていった。
階段をしばらく下りると、周囲が開けた場所に出た。目の前には、ごうごうと流れる滝が姿を現した。
その光景を前に、僕は言葉を失った。
自然の神秘を間近に感じ、ただぼうっと立ち尽くす。
「到着だね。じゃあ、あの小屋が着替え小屋だから、そこで水着に着替えてから行こう」
先輩が指差した先には、小さな小屋が建っていた。事前に聞いていた通り、夏の時期だけ設置されるもので、男女別に水着へ着替えられるようになっているらしい。
僕と関所先輩は男性用の小屋に入り、水着に着替えた。男の場合、着替えにそれほど時間はかからない。脱いだ服を袋に入れて小屋の外に出ると、関所先輩から「小屋の近くで待っていると、ほかの人の迷惑になるから」と言われ、少し離れた場所でマップル先輩と道草さんを待つことにした。
「やっほー、お待たせ」
声の方を見ると、思わず言葉を失うような光景が広がっていた。
着替え小屋から最初に出てきたのは相変わらずのテンションで手を振るマップル先輩だ。
白いTシャツを脱いだ先輩は、青と白のエスニックな柄が映えるビキニ姿になっていた。日頃からバイトや旅行で体を動かしているせいか、引き締まったウエストと健康的な肌つや、そしてモデル顔負けのスタイルが、夏の木漏れ日の中で目を引いた。
「二人とも早いね〜!」
太陽のような眩しい笑顔で、気取る様子もなく話しかけてくる先輩。その健康的でからりとした雰囲気に一瞬目を奪われていると、その後ろから、少し遠慮がちに道草さんが姿を現した。
「……お待たせしました」
着替え小屋の陰からゆっくりと歩み出てきた道草さんは、どこかソワソワとした様子で、自分の二の腕をキュッと抱えるように佇んでいた。
普段の落ち着いたネイビーのカーディガンとは対照的に、彼女は白地に淡いブルーの小花柄があしらわれたビキニを身につけていた。さらりとした黒髪のロングヘアが肩や背中に落ち、普段の服装からは分からなかった新鮮な印象に、僕は思わず目を奪われた。
「喜多乃ちゃんも、すごく似合ってるよー!」
「あ、ありがとうございます、八標先輩……」
先輩に褒められて、道草さんは白い頬をほんのりと朱に染めながら、恥ずかしそうに小さく首をすくめた。
普段は無表情に近いほど凛とした佇まいの彼女が、水着という慣れない格好に戸惑い、恥ずかしそうに視線を泳がせている。
そして、待たせていた僕の方へと視線を向けると——
道草さんはほんのわずかに首をかしげ、水着の裾をそっと指先で整えながら、少し照れくさそうにこちらへ一歩を踏み出した。
(……あ、危ない、直視できない……!)
山奥のひんやりとした空気を忘れてしまいそうなほどのギャップと、そこに垣間見える等身大の女の子らしさに、僕の脳内CPUは一瞬でオーバーヒートしそうになった。
「街道くん……? どうかした?」
「い、いや! なんでもない! すごく……似合ってるよ」
女性慣れしていない僕がそんな気の利いたことを言えたのは奇跡に近い。
「……ありがとう」
照れを誤魔化すように答えると、道草さんはどこか安心したように、けれど少しだけ誇らしげに目を細めるのだった。
「じゃあ、早速入ろうか!」
小屋から数十メートル歩いたところに、滝から落ちた温泉がたまる場所があった。滝壺はかなり広く、十数人が一度に入れそうな大きさだった。
「まさに、自然の神秘だねー」
僕たちの周りにも何人か利用者がいるため、迷惑にならない範囲で楽しむ。
「あれ? 上にも滝壺あるんだ?」
マップル先輩は目ざとく上を見上げ、上にも滝壺があることに気づいた。
「そういえば、小屋の近くに上の方を歩く道があったよな」
「私、行ってみる!」
バシャッと温泉から上がると、マップル先輩はスタスタと歩いていった。
「おーい、待てよ。ったく。一人にするのも危ないから、俺も念のため行ってくるな」
関所先輩が僕たちに告げると、マップル先輩のあとをついていく。
「あ……関所先輩!」
声をかける間もなく、関所先輩はバシャバシャと音を立ててマップル先輩の後を追っていった。あっという間に二人の姿は岩陰の向こうへ消え、ゴーゴーと鳴り響く滝の音だけが周囲を満たしていく。
残されたのは、湯気混じりのしぶきが舞う滝壺の中、僕と道草さんの二人だけだ。
(……え、嘘だろ。急に二人きり……!?)
さっきまでの賑やかさが嘘のように遠のき、途端に気まずさと緊張感が押し寄せてくる。水着姿の道草さんがすぐ隣にいる。その事実に意識が向きすぎないよう、僕は泳ぎそうになる視線を必死で固定し、誤魔化すように足元の温かいお湯をすくってみせた。
「……すごく、温かいね」
「うん。冷たい滝なのかと思ってたから……なんだか不思議」
道草さんは肩までお湯に浸かると、ふぅと小さく息をついた。最初はあれほどクマや山道を怖がっていた彼女の表情から、いつの間にか硬さが消えている。お湯の熱のせいだけではない、ほんのりとした赤みが白い頬を染めていた。
「来る前は……すごく怖かったんだ」
滝を見上げる彼女の横顔に、しずくがキラリと跳ねる。
「でも、勇気を出して来て良かった。こんな場所があるなんて……サークルに入らなかったら、一生知らなかったな」
「……そっか」
「街道くんや先輩達と一緒に来られて、良かった」
ふいに僕の方を振り返り、道草さんは柔らかく目を細めた。滝の轟音にかき消されそうなほど小さな声だったけれど、その言葉はまっすぐ僕の胸に届いていた。
(……やばい、やっぱり直視できない)
温かいお湯に浸かっているはずなのに、心臓の鼓動だけがどんどん熱を帯びていく。先輩たちが戻ってくるまでのほんの数分間。立ち込める湯気と激しい水音の中で、僕たちの「特別な時間」が静かに流れていくのだった。
帰り道では、無事にババヘラアイスの出店を見つけ、四人で味わうことができた。関所先輩のババヘラアイス愛は想像以上だった。出店を見つけた瞬間、「いたいた!」と声を上げ、いつもの落ち着いた様子からは想像できないほど興奮していた。結局、一人で二つも完食するほどだった。




