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第5話 その勇者は繋がれたい——

目の前には、魔王界ではある意味定番の光景が展開されていた——


X型の拘束台に繋がれた手枷に両手を拘束され、手を上げた状態で俯く銀髪の勇者……もといルーナ。


壁に飾られた魔法灯の光が、銀髪の輪郭をやけに綺麗に縁取っているのが、無駄に雰囲気があってなんか嫌だ。


……そりゃジルベルトも『お楽しみください』とか言いたくなるよね、これは。

ただし、これは断じて俺の趣味ではない。気づいたらこうなっていた。

そこん所は理解してほしい。ほんとに。


「ルーナお前マジで何やってんの!?しかもなんでわざわざその魔道具触ったんだよ!?」


思ったことそのままの率直な疑問をぶつけてみる。

だが、まあ、まともな返答が返ってくるはずもなく——


「しっ……仕方ないじゃないっ!!気になっちゃったんだからっ!こんな勇者を拘束するためだけに生まれたようなエッチな魔道具があったら、勇者としてはほおっておけないでしょ!?」

「いやいや……むしろ危険だからこそ、ほおって置くべきだろそこは!?自分から捕まりに行くってどうかしてるぞ!?」


「なんでよっ!?女勇者にとって、くっころを味わうのと、魔王に凌辱されるのは夢みたいなもんじゃない!誉よっ!全女勇者の癖よっ!」


なんかドヤ顔でそんな事を言ってくるルーナに、若干イラッとする。

せっかく昔みたいな口調に戻ったのに……こいつ、なんか変わっちまったな。


「はぁ!?おまっ……マジでなに言ってんの!?あってはならない事だろそんなん!何が『誉よっ』だよ!しかも主語デカいわっ!」


……どこの世界にくっころと魔王に凌辱されるのが癖な勇者がいるんだよっ!?そんなん居てたまるか……あっ、目の前にいたかも……。


冷静に突っ込む俺。またしても全く噛み合わない会話。

さっきまであんなに真面目な話をしていたのに、ちょっと目を離したらこれだ。

それでも、この短い間にほんの少しだけわかったことがある。


まだ確証はない……だが、多分ルーナは俺を殺す気は本当にないと思う。

この短時間の間に、殺ろうと思えばいくらでも俺をヤれるチャンスはあったのに、それはしなかった。

もしもに備えて少し神経を尖らせていたが、微かな殺気さえも感じた瞬間もなかった。


俺の城への潜入が目的の可能性は捨てきれないが、それは後からちゃんと聞いてみよう。


そしてもう一つ——


ちょっとルーナの性癖が《《良くない方》》へ歪んでしまっている気がする。

会ってまだ間もないのにそう感じさせるシーンが多々あった。というか思い当たる事が有りすぎる。


10年という時はここまで人を歪めてしまうものなんだろうか……?


「そっ、それでどうすのよっゼノ……今、あなたの目の前では勇者が両手を拘束されてる状態よ!?こうなったら……そういう事をする流れなんじゃないのっ!?私たち幼馴染で許婚よっ!?それならそういうプレイも……」

「プレイっ!?お前、そういう時だけ幼名馴染みとか許婚とか使うなよ!?やるわけないだろっ!?」


声が裏返り慌てて視線を逸らすも……逸らした先にでかいベッドがあるのがなんとも腹立つ。


「ええっ……!?ここまで私にさせといてヤラないのっ?!あなたそれでも魔王なのっ!?」

「それとこれとは話が違うだろっ!?ってか、させてねぇよ俺はっ!ルーナが自分でヤッたんだろ!?」

「んんっもうっ!ゼノの意気地なしっ!へにゃ◯ん!」


美しい顔立ちをぷくっと頬を膨らませてあからさまに拗ねるルーナ。キレカワ。


……いや、可愛いとか言ってる場合じゃないし、そもそも俺たちは手を繋いだ位で、キスだってまだしてないんだから……。


俺はどうにかそれを聞き流し、無理やり真面目なスイッチを入れ直す。


この状況はマズイ——

何がマズイかと言うと、俺はこの魔道具の事を全く知らないからだ。

で、その手錠を外す術を俺は知らない。下手したら一生外せない可能性さえある。


俺は息を整えわざと口調を落ち着かせた。ルーナを煽っても状況は好転しないから。


「とっ、とりあえずルーナ……ちょっと真面目に答えてくれ。俺はその魔道具使った事なくてだな、効果とか外し方とかそういうのマジでわからないんだよ。その手錠をはめてからなんか身体に異変とか無いか?こう、力が吸われるとか、痛みがあるとか……ルーナになにかあったら嫌なんだよ俺。せっかくこうやって会えたのに……」


「ぜ……ゼノっ……」


言い終えた瞬間、自分の胸の奥が熱くなったのがわかった。

魔王の仮面を外して出てきた素の言葉。これだけは誤魔化せなかった。

その一言に急に黙り込んで頬を赤く染め、視線を逸らしたルーナ。

昔からルーナは恥ずかしい時こんなんだったな……強がるくせに、刺さる言葉には弱い。


「まあ、今のところは特になんともないわ……ちょっと興奮してる以外には……」

「こっ……興奮!?」

「しっ、仕方ないでしょ!?私……こういうのシチュエーション好きなんだもん……」

「……………………そっ、そっか……」


俺は喉の奥で言葉を潰した。

残念ながら、俺の予想は当たってしまっていたようだ。

だが、今はそれどころじゃない。むしろルーナが無事で良かったと喜ぶべきだろう。


「でも、今は大丈夫でもこれからなにかが起こる可能性もあるし、早めにそれを外さないとな……ちょっとすぐに詳しい奴を呼ぶから待っててくれ……」

「なっ、なによっ……もう外しちゃうの!?……もうちょっとくらい、この状況を楽しませてくれてもよくないっ!?」

「よくねぇよ!!何が起こるかわからないって言っただろ今!」

「……んん〜……しかたないわねっ……」

「よし、じゃあちょっと待っててくれ……」


残念そうに眉を落としたルーナを横目に、俺はポケットから小さな青い魔法石を取り出しそれに向かって言葉を投げる。事は急を要するのだ。


「ジルベルト、ちょっといいか……」


その言葉を投げて数秒後、その魔法石が光り、言葉が返ってくる。


伝令石——半径100m以内の仲間と遠隔で会話が出来る便利な魔道具だ。

難点はものすごく高価で、希少な事。故にジルベルト以外にはこれを渡していない。


「……魔王様……いかがされましたか?」

「ああ、忙しいとこ悪いんだが、クロエにすぐに俺の部屋までくるように伝えてくれないか……ちょっと色々あってな……」

「はっ……かしこまりました……」


本当にジルベルトのこの端的な反応は助かる。

——と思ったが、その言葉には続きがあった。


「ちなみにクロエへの服装の指示はどうされますか?いつものメイド服でよろしいですか?それとも……薄い透け感のある下着姿がよろしいですか?それとも始めから全裸で?」

「………………はっ……?服……?どゆこと?」


今まで一度も聞いたことのない、ジルベルトの意味不明な質問に、完全に固まってしまう俺。

伝令石を持つ手が空中で止まる。

……ジルベルトは何を言ってるんだ?


「ああ、私としたことが……てっきり3人でと勘違いしてしまっていたようですな……失礼しました、お忘れ下さい……」

「ジルベルトっ!?ちょっと待って——」


叫んだ時には遅かった。

魔法石は既に光を失い、この会話が切れたことを俺に知らせていた。


……あいつ……とんでもない誤解をしてただろ!?俺に!?


「ふーーーん……そういうこと。どおりで私にドキドキしないわけだ……へぇーーーー……クロエねぇ……」


背後から、妙に冷えた声が落ちてきた。

俺は恐る恐る振り返り、顔を上げると……吊られたままのルーナが、訝しげにこちらを見つめている。


翠の瞳がさっきまでの興奮とは別種の光を帯びている。

疑いと、探りと……ほんの少しの、嫉妬っぽい、怒りのような何か。


……ジルベルト、ヤッてくれたな……。


こうして俺の問題はみるみるうちに積み上がっていくのだった——




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