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第4話 その執事は伝えたい——

扉越しに聞こえた渋い声——


その声だけで背筋が条件反射みたいに伸びて、俺に仕事の顔が戻ってきた。


俺はルーナに『ちょっと待っててくれ』と一言告げ、彼女との会話を中断して扉の前まで行くと、それをそっと開く。


扉の先、そこには長く続く重厚なカーペットが敷かれた廊下しかない。

だが、俺はその空間に落ちる僅かな闇へ向けて声を掛けた。


「ジルベルト。わざわざ気を使って姿を隠さなくてもいいぞ……」

「……そうでしたか。これは失礼致しました……」


その言葉を受け、廊下の壁に設置されている魔法灯が作り出した細い影がゆらりと揺らめく。


次の瞬間——影が濃くなり、そこに空気の重みが宿る。

そして瞬く間にその闇は大きく広がり、低く枯れた声と共に形を持ってゆき、黒い燕尾服に身を包んだ長身白髪の妙齢の紳士へと変わってゆく。


背筋の伸びた姿勢と冷えた気配が漂う彼は——ジルベルト・クロムウェル。


俺の数少ない従者の一人にして、そのまとめ役、兼執事だ。

また、俺の無茶を黙って受け止めてくれる稀有な味方でもある。


「魔王様、先程の戦いにおける損害報告についてお知らせに参りました」

「ああ、いつもすまない……続けてくれ……」

「はっ……それでは……」


ジルベルトは深く一礼してから淡々と報告を始める。

この事務的さが妙にありがたい。俺も冷静になれるから。


「現状ですが、配置した護衛用のダークゴーレム20体は全壊。城の入口や大広間の一部に小さな破損や汚損が少々といった所で、大きな損害はありません。また、既に勇者パーティーよって破損や汚損された部分はメイド達が掃除及び修復を行っております……」


報告は簡潔で無駄がない。

ゴーレム20体が全壊と聞いても、俺の胸は妙に静かだった。

あれは命を持たない機械と同じ、また生み出せばいい。今の俺にとって造作もない事だ。

問題はそこじゃない……。


「城の損害なんてどうでもいいけど、ジルベルト……お前とか、あいつらに怪我はないか?怪我していたらすぐに俺が治療してやるから言ってくれ」

「いいえ、心配には及びません魔王様。ゴーレム以外は皆、1撃たりとも攻撃を受けておりません」

「そうか、それならよかった……」


胸の奥の固いものが少しだけ解ける。

俺の馬鹿げた企みのせいで人が死ぬなんて、絶対に看過できないから。


「それで……勇者パーティについては?」


ガタッと後ろから椅子が動く音がした。たぶんルーナも心配しているんだろう。

ルーナにとっては大事な仲間なんだから。


「はい。勇者様を除き2名女性が城内に侵入しておりましたが、魔王様のご命令通り、ダメージを最小限にとどめて二人とも気絶をさせ、運搬用ゴーレムに街まで運ばせました……それと、玉座の間に刺さっていた勇者様の剣は、既に宝物庫に移動させて厳重に管理しております」


背後から『ふぅぅ』という安堵のため息が聞こえた気がした。

俺はそれを聞き流し、ジルベルトに礼を告げる。


「ありがとう、いつも助かるよジルベルト」

「いいえ、礼には及びません。全ては魔王様の為……このジルベルト、全力でお使えいたします」


真っ直ぐな忠誠。だからこそ……ほんの少しだけ怖い。

本来、俺の無茶を止める役なのに、俺に付き合いすぎる節があるから。


「他には、なにかあるか?」

「いえ……以上です」


そう言って俺の後ろに一瞬視線を移すと、軽く咳払いをしたジルベルト。

視線は明らかに部屋の中——もっと言えば、ルーナへ向いている気がした。


まあ無理もない。

ルーナも言っていたように……まだ味方ともわからない、勇者という敵対する危険な存在を、拘束もせず、しかも主人の部屋に入れているんだから。

従者としては警戒して当たり前だろう。


「それでは私はこれで……ごゆっくりお楽しみ下さい。魔王様……」


……お楽しみ?


俺が言い返す間もなく、ジルベルトは礼を崩さず一瞬で闇に溶けていった。

廊下の光だけが残り、空気がすっと軽くなる。


なんか一瞬含みがあった気がするけど、なんだったんだろう……?

そう思いながら扉を締めて振り返り——視界に映った光景に絶句した。


「え゛っ……!?るっ……ルーナ……?おまっ……何して……」


先程ルーナが座っていた椅子には人影はない。彼女は既にそこには居なかった。

視線が吸い寄せられたのは部屋の隅。

前の城主のコレクションの置かれた、あの空気を悪くする悪趣味な一角だ。


「くっ……まさか自動で締まるなんてっ……なんて悪趣味な魔道具なんだっ……♡」


俺の瞳に映るもの。それは部屋の隅に置かれたX型拘束台……。

そこに両手を上げた状態で金属の輪に手首が固定され、吊るされるように立つルーナの姿だった。


顔が真っ赤になり、呼吸が妙に荒い。

何より、表情がどこか……エロい。


……いや、なんでだよっ!?……なんでそうなんの!?何したの!?


頭の中で鳴り響く警笛。

俺はルーナに一歩、二歩と近づきながら考える。

これは事故か?それとも芝居か?はたまた別の意味があるのかっ!?


いずれにせよ、確かなことがひとつだけあった。

前任の魔王のやっかいな遺物が、いまこの瞬間、最悪のタイミングで仕事をしているということだ。


あれ、動くんだ——



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