第二十二話 【Hi!】
時は数時間後の魔法学校。魔法学校には相も変わらず騒がしい光景が広がる。シルフとアリスのクラスも当然、騒がしい。周囲は。金髪の女性、アリス。
彼女はシルフと親交を深める以前は『学園のマドンナ』として周囲から称号を勝手に与えられ、遠巻きに眺める男子生徒の視線を集めながらも、それを物ともせず孤高の道を往く高嶺の花。
しかし今となっては、その栄光も過去の物。シルフと関わる様になってからと言う物、彼女は徐々に周囲から興味を失われる様になった。理由は、シルフ。彼は周囲から『劣等生』と罵られる存在。
彼と関わる様になったアリスなど、興味は無いと言わんばかりに。
だが、彼女はそれで良かった。『学園のマドンナ』、そんな称号はどうでも良い。例え、新たに『学園のマドンナ』と称される存在が現れようとも。
アリス「ねぇ、シルフ。聞いた?噂。」
シルフ「噂...?」
アリス「ええ。知らないの?このクラスに、『転校生』が来るって噂。」
シルフ「てっ、転校生!?」
アリス「そう。噂によれば、魔法の実力はエリート並み。超実力者らしいけど。」
突如告げられた衝撃の事実。クラスメイトとして転校生を迎える事に加え、転校生が実力者だと言う事実。男性か、女性か。魔法の実力はどれ程の物なのか。様々な疑問が好奇心と同時に沸き上がる。
そして彼は目の前の彼女、アリスの方へと視線を向ける。彼女は何食わぬ顔でシルフの方を見詰め、目が合った瞬間に少し肩眉を下げながら、『何?』と笑みを溢して見せた。
そんな彼女の様子に魅力を感じてしまうシルフだが、その意識は鐘と共に現実へ引き戻される。
クラスメイト全員が自席に着いた後、クラスを担任する教師が教室へ足を踏み入れる。全員の所在を目視で確認し、彼は口を開いて事を話し始める。その内容は当然、噂通りの転校生の話。
遠路遥々この魔法学校へ入学を決めたらしく、これから共に切磋琢磨して頑張ろう。そんな言葉を添えた最後に教師は扉の方へ向き直り、転校生へ入室の合図を送る。そして教室の扉を開きながら入室して来た転校生の姿。
ステップは軽快に、軽やかに。そして。
?「Hi everyone!どーもこんにちはぁー。」
一声。陽気な声と共に、静寂が訪れる。それは決して負の沈黙では無く、寧ろ歓迎する様な好意的なもの。クラスメイト全員が容姿を見て見惚れる様な、呆気に取られる様な状態。
そして、教師の一言の後に。転校生は名乗った。
エーギル「Hello you all!皆さん!私の名前は『エーギル』。此処から遠い遠い街から、この魔法学校へ転校して来た新参者です。まだまだ皆様に認めて頂く為、努力致しますので宜しくお願いしますね!」
女性的な声色と共に、窓からの光を受けて銀髪が煌めく。蒼い瞳が教室を見渡し、白いシルクハットが揺れた。そして明らかにこの魔法学校の物では無い、純白の制服。更に印象的な、青いリボンの巻かれた白いシルクハット。
只者では無い雰囲気を醸し出し、独特な服装が全体的に目を惹く。エーギルの容姿は可愛らしさを携えて。
そして教師によるエーギルの紹介の後に、彼女を座席へ案内する。座席は一番後ろの端。シルフの隣である。必然的に目を合わせなければならない状態となり、2人はアイコンタクトを交わした。
シルフ「あっ...宜しくお願いします。」
エーギル「Oh Thanks!私こそ宜しくお願いしますね。」
交わしざるを得ない会話に、周囲は嫌悪の目を向ける。恐らく、アイツなんかが、と言った醜い僻みの産物だろう。美人の転校生と初めに会話をした人物が、自身が軽蔑する人間だと知って悔しく思ったのだろうか。
しかし、シルフは周囲の目を一切気にする素振りも無く。言葉に形容し難い雰囲気が周囲を流れる中、皆の意識は教師の一言で引き戻された。授業の開始を宣言する鐘と共に、魔法学校での転校生、エーギルとの共同生活が始まった。
___授業開始から数分。エーギルは隣で真面目に授業を受けるシルフを横目で眺めていた。何処か、気になる事がある様な。彼に視線を投げた後のエーギルは、頬杖をつきながら虚空を眺めて。
そして彼女の不思議な素振りに意識を取られたのか、シルフはエーギルの方へ視線を送った。交わされる視線。数秒間見詰め合う彼等は、独特な雰囲気を醸し出す。微風に吹かれて靡くエーギルの艷やかな髪の毛。陽に当たってサファイアの様に輝く瞳。
エーギル「Hey, Is there a problem?何かあります?」
シルフ「えっ、別に...」
エーギル「ふふっ、Really?本当です?」
彼女は突然の奇襲とも捉えられる言葉の攻撃に戸惑うシルフに、小悪魔的な微笑みを浮かべる。まるでこちらを揶揄う様な、愉快な物を見付けた子供の様な表情に困惑するシルフだが、彼女は依然として笑みを浮かべるばかり。
そして、その奇襲は威力を更に増す。彼女の突発的な行動。それは、シルフの方に伸ばされた腕と、シルフの太腿に触れた手。滑らかな感触の腕は肘から上を机に乗せ、机越しに彼へ近付く。
そして左手に持ったペンを彼の頬にグリグリと押し当て、右手は彼の太腿に添えられる。その行動にシルフの心臓は焦燥に駆られる様に動き、体温は上昇し始めて。大胆で直接的な行動に彼は思わず俯いてしまう。その視線は机上を彷徨い、焦点は定まらず。
シルフ「エーギルさんっ...本当に離れて下さいっ...!!」
エーギル「Why?何か不都合でもあるのです?」
彼を弄ぶ事に愉悦を覚えるエーギルは更なる行動を起こそうとした瞬間、教室の隅からバキッと音が。木製の棒が折れる様な、そんな音。咄嗟にシルフは音源の方向へ顔を向けると、音源の正体は折られた鉛筆。
折られた原因を作ったのは他ならぬ、シルフの視線の先にいる才色兼備な少女、アリス。彼女の手には中心から真っ二つに折れてしまった鉛筆があり、更に彼女の表情はシルフの見た事無い物。
彼女が視線を向けているのはシルフでは無く、エーギル。その彼女の方を向いては明らかな不機嫌を顔に出すアリス。片眉を下げ、片眉を上げた不機嫌そうな表情。彼女のこんな表情はシルフでさえも見た事は無い。
更にエーギルへ向けた視線に至っては、殺意に満ち溢れていると言っても過言では無い。彼女は普段シルフに向けていた視線は一切向けておらず、視線と同様に明らかに態度も違う。
そして、アリスの方から圧が。そんなアリスの様子にエーギルは、全てを察した表情をした後にすぐにいつもの様な愛嬌のある表情へ。
エーギル「Ah-ha?なるほど、そう言う事ですか~。」
独り言の様に呟く彼女の声色は、明らかに気分の高揚した物。対するアリスの表情は嫌悪その物。相反する感情を見せ合う2人は何処か対照的で、不思議と互いの持つ蒼い瞳も2人を表す様に似ている。
そんな、まるで鏡写しの様な状態。彼等の間に挟まれるシルフはと言えば、双方からの圧迫感を感じ、困惑と動揺に支配されていた。
___時は数時間後の魔法学校。太陽が天頂に登っては学生達の昼休みを彩る。各々が好き勝手に自由時間を過ごす中、シルフは当然の様にアリスと行動を共に。
シルフ「あの...アリスさん、授業中...どうしたんですかアレ。鉛筆折っちゃって...」
アリス「えっ、あぁ...えっと、あの転校生、来て早々馴れ馴れしすぎないかしら、って。」
シルフ「そんな猿山のボスみたいな考え方持ってましたっけアリスさん。」
アリス「例え最悪なんだけど。」
談笑を交わしつつ、2人は普段通り平穏な空間を構築しようとする。しかし、それを乱す不協和音が背後から奏でられた。正確に言えば、不協和音では無く彼の聴覚に響くのは楽しそうな女性の声音。
敷かれた真紅のカーペットの方から白い影が滑る様にして近付き、彼の背中に優しく触れる。彼にとっては背後からの奇襲で、思わず肩を振るわせた後に振り返るシルフとアリス。
エーギル「Hey!お二人共、随分仲がよろしいですね?確か...シルフさんに、ア、ア...」
アリス「アリスよ。エーギル。」
エーギル「Oh!そうでしたそうでしたアリスさん。私の名前、覚えて下さってありがとうございます。嬉しいです!改めて宜しくお願いしますね!」
アリス「えぇ、此方こそね。」
一見仲睦まじい会話に見えるが、当の本人達は敵意を露わにしつつある。エーギルは崩れぬ笑みを浮かべながら、アリスへからかいを。対して金髪の彼女はエーギルの行為に対して嫉妬を抑える事に必死だった。
エーギルの行為。それはシルフへの腕組み。アリスの方へ一歩踏み出すと同時に、シルフの腕へ自身の腕を忍ばせてギュッと引き寄せた。更に彼の首筋に頭を乗せ、華奢な身体を押し付ける。更に可愛い子アピールか、アリスの方へ丁寧にウインクまで。
そんな大胆な行為にシルフは驚愕の声を漏らしたが、エーギルは一切行動を止めない。
シルフ「ちょっ、エーギルさん!近いっ、近いですって!」
エーギル「Hmm?私には何の事だかさっぱり。」
シルフ「アリスさんも助けて下さいよ!!」
アリス「ええ、今すぐにでも引き剝がしたいわよ。」
エーギル「あらっ、やっぱり嫉妬していたんですね?私の方がよっぽどMr.Sylphの近くにいますから、それが気に食わないのですか?」
アリス「あら、私は何の事だか。それに、そんな見え透いた演技で騙されるとでも思ってるの?」
エーギル「おぉ、そうですかそうですか。まさか私が演技しているとは思わなかったです。ですが、私としても...そんな事を言われてしまったら困ってしまいますね。」
互いに威嚇をし合う犬猿の様に火花を散らせるアリスとエーギル。火花と言っても散らしているのはアリスの一方的な物。エーギルは状況を楽しんでいるのか、シルフに好意が無いのか、真相は不明だが、余裕綽々と言った雰囲気でアリスの怒りを受け流している。
しかし、一方的に精神的ダメージを与えられているアリスはと言えば、彼女の様子に更に嫉妬に火が付いてしまい。そんな中、シルフの首筋に更に彼女の頭が触れた。更に押し付けられる身体。
しかし、その状況も突如として終わった。エーギルは何事も無かったかの様に離れ、2人の方へ向き直る。
エーギル「まぁまぁ、お遊びは閉幕としましょう。何を隠そう、私は貴方達に用があってお話しているのですから。」
シルフ:アリス「えっ。」
エーギル「Yes。お二人に、一つ質問が。きっと答えられると思うのです。」
唐突に真剣な眼差しを2人に向ける彼女。先程までの茶番劇の続きかと思いきや、エーギルは一切ふざける素振りを見せない。流れる雰囲気は一気に変化し、エーギルは海原の様に蒼い瞳を片方閉じて見せた。
何処か、シルフはそれを不吉に感じて。しかし、それはアリスも同様。そして、次の言葉に耳を傾ける2人は緊張に包まれる。エーギルの様子から、只事では無い事を予感させた。
そして、その予感は的中する。
エーギル「シルフさんにアリスさん。『古代魔法』について何か知っている事は御座いませんか?」




