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ダークエルフと暮らす異世界間違い転生  作者: 三沢 七生


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559.凄い名前

教国歴四十一年秋の期 4日




秋の期に差し掛かり、本邸の周辺も朝晩はひんやりとしてきた頃。

コツコツと太刀や脇差しを作り続けるダグのために、ニコは刀の鍔を作る職人を連れてきた。

そんな訳でイツキはダグの工房の隣にオボグ工房をそのまま召喚して設置していた。


「ダグさーん!鍔を作る職人を連れてきました!」


ニコが大声を張り上げながらダグの工房目掛けて走っている。

ニコの後には金髪の少し華奢なドワーフがトテトテ走ってニコの後を追っている。

そんな様子に気がついたイツキ達は本邸からゾロゾロと出てきた。


「職人って確かオチルとアンのところのペリーヌちゃんよね?」


ベルヴィアがそう尋ねると、ララミーティアがこくっと頷く。


「ええ、そうね。オチルに似てその手の繊細な作業が得意だからどうかって白羽の矢が立ったみたいね。」

「何個かサンプルを作ってきたみたいだし、後はダグさんが気に入るかだなー。」


そう言ってイツキは頭の後ろで手を組む。




イツキ達がダグの工房に足を踏み入れると、早速ペリーヌがお試しとして作ってみた鍔が4つ程並べられていた。


「一切妥協がねえな…、一から全部お嬢ちゃんがやったのか…?」

「ええ、私の父が彫金や細工が滅法得意でして、どうやらその血を色濃く引いたようで。一応武器や防具も作れますが、私はこのような物を作る方が自分の才能を効果的に活かせると思います。」

「ふむ…」

「ちなみにトウシロウさんからお借りしたというカタナ?を見させて頂きましたが、細工も含めた鞘作りや柄の部分の巻きなども十分に出来そうだと思いました。」


そう言ってダグに一本のレイピアを取り出すペリーヌ。

レイピアはオチルが得意としそうな繊細な装飾がふんだんに施されているものだった。


「ちなみに私が貴族向けに作った作品です。この手のゴテゴテした物を好まれるようなお客様が怪我でもされたら厄介ですので、見た目重視のなまくら。レイピア自身の品質はお気になさらず。」


ペリーヌからレイピアを受け取ったダグは鞘に収まったままで眺め、そして鞘から抜いたレイピアをじっくりと眺める。

ペリーヌはアンの娘らしく、緊張はおくびにも出さない様子でニコニコしながらダグを見守っている。


暫くレイピアを眺めていたダグは、納得した様子でゴトリとテーブルの上にレイピアを置いた。


「ふむ…お嬢ちゃんなら任せられそうだな…」

「そうでしょうそうでしょう!ペリーヌは父親であるオチルさんの血を引いた教国随一の彫金職人なんです!ペリーヌさんもこちらで仕事をする形で良いですか!?」


ニコの言葉にペリーヌはニッコリと微笑む。


「お願いします。「金なら払う!だから俺にも武器を作ってくれ!」などと金で何でも買えると思っている類の露払いも私が対応しますのでご安心下さい。」

「ははっ!こりゃ頼りになるな!」


ペリーヌの余裕溢れる言葉にダグは珍しく声を上げて笑った。




そんな訳でそれぞれの領分を分けてダグとペリーヌと協業は始まった。

一人だとどうしても面倒だったり手間がかかるような作業はすべてペリーヌが一手に引き受ける形で仕事を進めていた。

オチルとアンの娘として育った影響なのかハーフリングの血が色濃い影響なのか、カズベルクのドワーフ達とは違ってペリーヌは言われる前に先回りしてダグのかゆいところに手の届くフォローをしていた。


秋も深まってきたある日。

納得のいく太刀が仕上がったという事でイツキ達はダグの工房まで呼ばれていた。


なかなか広い工房の中で、鞘に収まっている太刀がテーブルに二本置かれていた。

ダグはそんな太刀を眺めながら独り言のように口を開いた。


「白い方はイツキの旦那、黒い方はトウシロウの旦那、それぞれあんたらにやる。」


ダグの言葉にイツキとトウシロウは思わず興奮してしまう。


「えっ!?貰っちゃって良いんですか!?」

「おおっ!!滅茶苦茶嬉しいなぁ!!」


イツキとトウシロウはそう言いつつも恐る恐る太刀を受け取る。


「イツキの旦那のヤツはペロの鱗を素材として使ってる。あとは折角あるしよ、ミスリルだとかヒヒイロカネだとか砕いて織り交ぜている。配合は秘密だ。」


ダグの説明を受けてゆっくりと鞘から太刀を抜くイツキ。

刃が白く、光の加減で玉虫色に光る芸術品のような刀だった。

鍔はドラゴンが咆哮している様子が掘られており、柄の部分も白い糸が巻かれている。


「で、旦那。」

「あ、はい!いやぁ、これは最高に格好いい…!格好良すぎて…!」

「格好いいのは当然だ。ちなみに銘なんだが…」

「銘…あー名前かぁ。」


イツキは刀のネーミングについて聞かれたかと思って考え込んでしまう。

そんなイツキの苦悩などさておき、外野が盛り上がり始める。


「銘って名前って事ー?」


マーウーが興味津々でイツキに向かって質問を投げかけた。

イツキは刀を眺めながら言葉を返す。


「だなぁ。村正とか正宗とか?うーむ…備前…そうさなぁ。」

「ペロの色とペロの鱗だからね?それ「ビゼンペロ丸」だよ!」


ペロの言葉にぎょっとしてしまうイツキ。

ああでもないこうでもないと盛り上がっていた面々は、子煩悩なイツキならペロの為に「それでいいよ」と言うだろうなと、それぞれ笑いをこらえる。


(あっ!銘って柄に彫るんだっけ?そうか…もう命名済みなんだ)


イツキは刀の銘について漸くピンと来てしまい、改名できない事を知ってしまう。

とは言え可愛い娘であるペロが鱗を提供し、ペロがつけた名前。

最早文句の一つも言えるハズがなかった。


「ペ、ペロ丸…?そう…だね…、んーと…備前ペロ丸?」

「うん!パパの為にね?ペロの鱗使ってるんだもん!備前ペロ丸だね!」


キラキラと目を輝かせてイツキを見上げるペロ。

満面のひきつり笑いでペロを見つめるイツキにダグまでもが笑いを堪え、隣で立っていたペリーヌに脇を肘で突っつかれていた。


「そ、そうなんだ。なんせ…ペロの鱗を使ったからな…旦那もよ…さぞ喜ぶだろうってな…」

「そうかそうかー、ペロありがとうなー?可愛い名前で嬉しいなぁ!あれだ、ス…スッゴい嬉しいよ!」


イツキの言葉に満面の笑みを浮かべるペロ。




なお、トウシロウが貰った太刀は焦げ茶色の鞘に収まっており、刃は橙色がベースの玉虫色の刀だった。

銘は「備前夕雲(びぜんゆうぐも)」というらしい。

夕暮れ時の空を漂う雲をかたどって作られた鍔がペリーヌの仕事の繊細さを表していた。


「夕暮れ時の雲…かぁ。いやぁ、これは本当に嬉しいなぁ。本当にありがとうなぁ。」


感無量といった様子のトウシロウは目を細め、今にも涙がこぼれ落ちそうな顔をしている。

ダグは腕を組んだまま満足げにイツキとトウシロウを眺めていた。


「トウシロウさん、ちょっとどれだけ斬れるものなのか早速試してみたら?」


少年のように目を輝かせるトウシロウにルキアがそう声をかける。


「見てみたいわねぇ!ちょっと岩でもこうズバッとさ!」


ベルヴィアが期待に胸を膨らませながらイツキの背中をバシバシ叩く。


「それもそうだなぁ。今日の昼頃に天界から観光客が来るからさ、ちょっと派手にいらない鎧とかぶった斬ったりしようかね?」


そんなイツキの言葉に、それまでニコニコしながら見守っていたニコが興奮気味に口を開く。


「それ良いですねっ!是非ともそうしましょう!!さあ、そうと決まればいらない鎧を用意しないとだなぁ!!」


誰の同意も得ずに張り切るニコに、トウシロウが苦笑しながら口を挟んだ。


「いらない鎧なら俺たくさん持ってるから提供するぞぉ?」

「素晴らしい!!いやぁこれは盛り上がりますよ!!さあ用意しましょう!!さあ行きましょう!!やれ行きましょう!!」


張り切って小屋の外へ飛び出してゆくニコ。




その後、適当な丸太を地面に突き刺し、トウシロウがアイテムボックスで眠らせていた戦利品の鎧や兜を丸太に装着させた。


「あらら、これエルデバルトの兵士の防具ですか?」


鎧を眺めてたサーラがふとそう尋ねると、トウシロウがカラカラ笑いながら頷いた。


「だねぇ、何百年前か分かんないけど、ちょっかいかけて来たヤツらをこう…ねぇ。その時に有り難ーく頂戴したもんじゃないかねえ。」

「あのいやーな国だ?もう無いよね?」


サーラと寄り添うように鎧を見ていたマーウーがそう尋ねると、サーラがニコニコしたまま頷く。


「そうですね。今では大半がランブルクですよ。」

「ふーん、もう無い国の鎧とかなんてさ、高く売れたりしないのー?希少価値?ってやつ?」


そんなマーウーの疑問には、トウシロウの側にいたルキアが苦笑しながら答えた。


「はは、どうだろうね?別に惜しまれつつ消えた国でもあるまいし、ミスリルとかが使われてる訳じゃないし、鉄くずとしての価値しかないと思うよ?」

「ふーん、いやーな国だったもんね。」


そう言って鎧に軽くパンチを入れるマーウー。




結果としてイツキとトウシロウによる試し斬りは天界からの観光客に大好評だった。

単なる鉄の鎧程度なら勢いをつけなくとも真っ二つに出来るとダグが豪語。

イツキが先陣を切ってダグに言われたとおり、豆腐を切るように兜から鎧まで真っ直ぐに太刀を入れると、丸太ごと綺麗に斬れてしまった。


ミスリル製の武器に魔力を込めれば同等の事は出来たが、流石に太刀の自重だけでスッと斬れる程ではなかったので、斬ったイツキ本人も異常な切れ味に震えてしまっていた。


次に気を利かせたトウシロウは抜刀から微塵切りにして納刀。

丸太ごと防具はサイコロ状に粉々にバラバラと地面に散り、天界からの観光客は大興奮。

サイコロ状になった丸太や鎧の欠片を欲しがり、記念品として欠片はなくなってしまった。


なお、それぞれの太刀の名前を尋ねられ「備前ペロ丸」という銘は天界からの観光客達も唖然とされつつも、イツキの隣でニコニコしているペロが「ペロの名前だよ!」と胸を張る様子に、微笑ましくペロを見守っていた。




「ダグが私にも作ってくれると言った!はっ、早く私もカタナが欲しい!」


ダグに作って貰えると聞いたララハイディは大興奮で晩御飯の肉じゃがを頬張っていた。

同じく作って貰える約束をして貰ったリュカリウスもニコニコしている。


「そんなホイホイあげちゃって良いの?」


ララミーティアが心配そうにダグに尋ねるが、ダグは小さく微笑んでから口を開いた。


「良い。気ままに好きなものを好きに作れる今が…最高に嬉しいんだ。」

「ふふ、ダグさんったら楽しそうな顔をして鉄を打ってますもんね。」


ペリーヌがクスクス笑いながらそう言うと、ダグは顔を赤くして慌てた様子で口を開く。


「そ、そうか…?」

「そうですよ。まるで鉄と楽しそうにお喋りしているようです。」

「そうか…そうかもしれないな。」


ダグはふっと笑って肉じゃがを頬張る。

そこでゲオルグがペリーヌに向かって口を開いた。


「ペリーヌさんも高名な鍛冶職人の後継者な訳ですが、やはりこうダグさんの技を目で見て盗んで、いつかはダグさんと同じようなカタナを作りたいと思うものですか?」


ゲオルグの言葉にペリーヌはニコニコしたまま首を横に振った。


「覚えたいとは思います。思いますけれど、私はダグさんの手が回らない所を補うのが仕事ですし、ダグさんの楽しそうな背中を見ている方が楽しいです。」

「実際…ペリーヌは細工や彫金の腕は確かだ。そっちを伸ばす方が俺は良いと思う。師匠であるペリーヌの親父さんの腕が余程良いんだろうな。」


ダグの言葉に父親であるオチルを褒められたペリーヌは嬉しそうに頬を赤らめてはにかむ。


「ニルちゃんと親戚になるけどさ、ペリーヌちゃんはニルちゃんと全然毛色が違うわねー?」

「あはは、そーだね?」


ベルヴィアの言葉にマーウーはそう言って頷く。

ペリーヌは苦笑しているが、ダグは先日の一件を思い出して苦い顔をした。


「あのお嬢ちゃんか…」

「鍛冶の腕は決して悪くないとは思うけれどね。飛び抜けているかと言われれば…」


リュカリウスはそう言って肩を竦めると、ダグが深く頷いてみせた。


「人間のような有象無象相手なら飛ぶように売れるだろうけどな。」

「ニルは負けず嫌いですから、今頃地団駄を踏みながら新たな物を作っている事でしょう。」


ペリーヌはそう言って肩を竦めた。



ーーーーーーーーーー


おまけ

ペロの鱗を使った太刀が完成した時の様子



「…よし。完成だ。」


ダグはそう言うと、まだ柄巻きもしていない太刀をゴトリとテーブルの上に乗せた。


「ついに完成ですね。お疲れさまでした。」


ペリーヌは賺さずタオルでダグの汗を拭い、ダグに水の入ったコップを差し出した。

ダグは少し照れながらも小さく頷く。


「あ、ありがとよ…」

「それでは失礼して…これはなんと美しい…創作意欲が駆り立てられますね。」


ペリーヌはそう言ってニッコリと微笑む。

ダグは満足げに微笑むと、再び太刀を手に取る。


「さて、あとはコイツの銘だ。どうするか…」

「ペロの鱗を使ったからね?それ「ペロ剣」だよ!」


側でジッとダグとペリーヌのやりとりを見ていたペロが右手をピッと上げてそう声高らかにそう宣言した。

エステルは「わぁ!」と興奮気味だが、ダグとペリーヌはギョッとしてしまう。


「た、確かにペロの鱗を使わせて貰ったけどよ…?もうちっとイツキの旦那が喜びそうな名前をだな…?」

「えー?どんなのー?」


ペロが眉を八の字にしながら口をとがらせてそう言うと、ダグはしどろもどろになりながら言葉を続ける。


「例えばな?えーと…ビゼンなんとか…とかな?なんとか丸とかな?」

「じゃあビゼンペロ丸だね!」


エステルが大声でそう宣言すると、ペロはワッと跳ねてエステルと抱き合う。


「それ良いね!パパ喜ぶかな!?」

「うんうん!よろこぶね!!」


キャーキャーはしゃぎあう二人にペリーヌは肩を竦めて微笑んだ。


「イツキさんの事ですからきっと喜びますよ…」

「おいおい…本当に喜ぶか…?」

「とは言えペロちゃんの鱗を使った訳ですし…」

「まぁ…いいか。」


ダグはそう言って柄の部分に銘を彫り始める。

こうして「ビゼンペロ丸」が誕生した。


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