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ダークエルフと暮らす異世界間違い転生  作者: 三沢 七生


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558.なまくらソード

ダグにとってただの子供にしか見えないペロが適当に渡してきたドラゴンの鱗。

ダグが元居た世界でも超高級な素材でもあるドラゴンの鱗。

ペロが差し出したものは明らかに上位龍の鱗、ダグは「困ったときは本邸へ」という言葉通り、本邸へやってきた。


本邸の中にはルキアとトウシロウ、それにキョウシロウ、そしてマーウーしか居ない。

ダグは頭をボリボリとかきながら本邸のなかに入ってきた。

ダグの後を追うようにペロとエステルがついてくる。


「あれだ。この世界では…ドラゴンの鱗はガキでも持ってるものか…?」


そう尋ねるダグにトウシロウ達は思わず顔を見合わせてしまう。

トウシロウが腕を組みながら口を開く。


「いやぁ、なんせドラゴンだからなぁ…倒せるわけもないし、買う金もないだろうし…普通は持ってないと思うぞぉ?」

「そうだね。ダグさんどうしたの?」


ルキアの問いかけに、ダグはチラリとペロに視線を送りつつ口を開いた。


「ペロのヤツが俺に上等なドラゴンの鱗をやるって言うもんだからよ…そうか。」


そんな風に言われてもペロは後ろで手を組んだままニコニコしている。

マーウーが手のひらを拳でポンと叩きながら口を開いた。


「あー分かったー!それペロの身体から剥がれた鱗だよ!ペロはドラゴンになれるからねー。」


そんなマーウーの言葉にダグは驚いた様子でガバッと振り返ってペロの顔を見つめる。

ペロはダグと目が開うとニッコリ笑って大きく頷いた。


「そ、そんな真似出来る種族が居るのか…!こりゃ驚いたな…!」

「はは、そういう事ね?ペロはそれあげちゃっていいの?」


ルキアの言葉にペロはニッコリ微笑みながら頷く。


「うん!ダグね、良い魔力の人だしね?鱗は良い武器が作れるってウーゴが言ってた!」

「まぁ本人がそう言うんだし、有り難く貰っときゃいいんじゃないかい?」


トウシロウはそう言ってニッコリとダグに微笑みかけた。


その後、ペロは本当にドラゴンになれる事をダグに見せることに。

すっかり人前で見せなくなったペロのドラゴンの姿に、偶然来ていた首都ミーティアからの観光客も興奮していた。

ダグの居た世界ではドラゴンに変身出来る種族など存在しなかったようで、ダグは興味深そうにしきりにペロの身体を撫でていた。




カズベルクの里より兼ねてから「是非に挨拶がしたい」と言う話があり、日程調整の末にバトサイハンとベアトリーチェが曾孫のニルツェツェグを連れてやってきたのはその翌日。

事前にその話を聞いていたイツキとララミーティアはバトサイハン達を迎えることに。


「おーい!来たぞぉ!!」


迎えに行っていたポピーを先頭に、結界で覆われたバトサイハン達がふわりとイツキ達の前に着地する。


「いらっしゃい、ダグは丁度工房に籠もっているわ!今日の事はちゃんと伝えてあるから見学して大丈夫よ!」


ララミーティアはそう言ってダグの工房を指差す。


「ありがとよ!みんなお久しぶりだねー!」


ベアトリーチェはニコニコしながらベルヴィアやサーラと包容をかわし、もとい抱きつき、そしてララミーティアにも抱きつく。


「皆さんお久しぶりです、ニルツェツェグです。」


そう言ってペコッと頭を下げるのはナランツェツェグに良く似ているが、身体のつくりはドワーフらしくがっしりとしたボルドとナランツェツェグの娘、そしてオチルの妹のニルツェツェグだ。


「良く来たねー、どう?鍛冶の修行は?」


イツキはそう言ってニルツェツェグと握手を交わす。

ニルツェツェグは眉を八の字にしながら言葉を返した。


「腕は親父も認めてくれていますけれど、なんかこう…「これだ!」って物に巡り会えていない感じがあると言いますか…はは…」

「それで今日ダグの見学に同行した訳ねー?」


ベルヴィアはそう言ってニルツェツェグを抱きしめる。

ニルツェツェグが照れくさそうにはにかみながらも頷く。


「ええ、何か良いヒントになればなーと。」

「よし、じゃあ早速だし行きましょう!」


イツキはそう言ってパンと手をたたく。




ダグはいつも通り黙々と作業をしていた。

ペロとエステルに小突かれて金鎚を持つ手を止める。


「おお、あんたらがこの世界のドワーフか…」


そう言って徐に立ち上がるダグ。

その辺のドワーフよりも背が高く強靭な肉体をしており、バトサイハン達は目を丸くしてダグを見つめる。


「異世界のドワーフってのは随所と背が高いなぁ!俺はこの国のカズベルクっつー場所で頭張ってるバトサイハンってんだ!よろしくな同胞!」


バトサイハンがガハガハ笑いながらダグと握手を交わす。


「…ダグ。エルダードワーフ族っつー種族だ…」

「そうかそうか!うはは!」


意味もなくガハガハ笑うバトサイハンと、無表情のダグ。




そんな訳でダグの作品を見る前にバトサイハンはニルツェツェグの習作を見せるようニルツェツェグを小突いた。


「流石に恥ずかしいよ!私まだ工房も構えてないのに…!」

「こういうときは照れるもんじゃねえぞ!ニルだってましなもん作るようになったろ!ほれ!」


バトサイハンに言われ渋々といった様子でアイテムボックスからロングソードを取り出し、テーブルにごとりと置いた。


「これはミスリルのロングソードです。一番の自信作です…」

「見てもいいか?」

「は、はいっ…!」


ダグはそう言ってロングソードを慎重に手に取った。

そして隅から隅までじっくりと舐めるように見回し、表情一つ変えないままゆっくりとテーブルに戻す。


「切れ味は良さそうだ…」

「あ、ありがとうござい…「でもそれだけだ。ミスリルなんて贅沢なもん…ふんだんに使えば、そりゃよく斬れるものが出来て当たり前だ。つまらん。」

「なっ…!?」


ニルツェツェグは密かに己の作品の中で一番自信があったようで、露骨に顔をしかめる。

しかしダグは表情を変えないまま言葉を続ける。


「俺は職人だ…お世辞なんざ言えねえ。つまらん武器…いや、玩具だ。」


そう言ってダグは再び椅子にどっかり座る。

ニルツェツェグは頬を膨らませて顔を真っ赤にする。


「な、なんだいっ!?じゃああんたのつまらなくない作品を見せてみなよ!!」


そんなニルツェツェグにバトサイハンとベアトリーチェは苦笑気味だ。

イツキ達はダグと過ごす機会が多いので、特に意外という事もなく事の成り行きを見守っている。

ダグは小さくため息をつくと側にあった引き出しから取り出した脇差しのようなものをゴトリとテーブルに置いた。

ニルツェツェグは真っ先に脇差しを取り上げてジッと見つめ、すぐにため息混じりに口を開く。


「何だい!あんたこれただの鉄じゃないかい!」


ニルツェツェグの言葉にダグはチラリとニルツェツェグを見て、漸く表情を変えたかと思えば呆れたような顔で小さく笑ってみせた。

ニルツェツェグの顔は溶鉱炉のように真っ赤だ。

しかしバトサイハンがニルツェツェグの手から脇差しを引ったくり、ベアトリーチェと眺め始めた。


「いや…こりゃあ何か混ざってるな?なんだ…?魔核とミスリルか…?」

「鉄だけじゃないのは確かだねぇ…あたしらの周りじゃこんな事をするのは居ないよ…」

「人族国家の鍛冶職人が口伝でやってるっつー話は聞いたことがあるな。でもまだまだイマイチな仕上がりだったぞ?」


バトサイハンとベアトリーチェはダグが作り出した脇差しのオーパーツぶりに即座に気がついたようで、興奮気味に語り合っている。

ダグはバトサイハンに手を伸ばして脇差しを受け取ると、刀身をジッと眺めながら口を開いた。


「元の世界じゃ万年戦争…ミスリルなんざそう滅多に打てねえ…原石を拝むことすら出来るもんじゃねえ。いつも屑鉄みてえなもんを寄せ集めてどうにか武器にしてたんだ…」


そう言って脇差しに何か魔力を込めると、ニルツェツェグが取り出したロングソードを床に突き刺した。


「おいお前。」

「な、なんだい!?」

「このなまくら、叩き斬ってもいいか…?」


ダグの言葉にニルツェツェグは腕を組んで大袈裟にため息をついた。


「はんっ!やれるもんならやってみな!そっちの剣がダメになってもメソメソ泣くんじゃないよ!」

「魔力でも込めておけ。」

「人を小馬鹿にしやがって…ちょっと格好いいからって調子に乗るんじゃないよっ!」


そう言ってニルツェツェグは床に突き刺したロングソードに魔力を込める。

魔力を帯びたミスリル製のロングソードは淡く光り輝いた。

ニルツェツェグの言葉に少しだけ顔を赤くするダグ。


ダグは脇差しを両手で構えて振り上げると斜め下に向けて脇差しを振り下ろした。


ニルツェツェグのミスリルロングソードは見事真っ二つに斬れてしまっていた。

この結果にはニルツェツェグやバトサイハン達だけでなく、イツキ達も唖然としてしまう。


「魔法金属がふんだんにあるってのも困ったもんだ。ふん…」


そう言ってダグはニルツェツェグ達に背中を向けて再び椅子に腰を下ろす。


「俺のビゼンブレードはイツキの旦那から貰った鉄の鍋を溶かして作ったもんだ。鍋に負ける純粋なミスリルか…とんだお笑いだな。」


再び金鎚をにぎって元の作業に戻ってしまった。


ニルツェツェグは頬を膨らませて地団駄を踏む。

バトサイハンとベアトリーチェはテーブルに適当に置かれたビゼンブレードと呼ばれた脇差しをひたすら眺めていた。




その日の夕食の席でダグの作品がミスリル製の剣をいとも簡単にぶった斬った事について盛り上がった。

ダグは自身のアイテムボックスから件の脇差しを取り出し、そのままトウシロウに差し出した。


「それ…あんたにやるよ。」


まさか貰えると思っていなかったトウシロウはダグの言葉を受け、少年のように目を輝かせる。


「えっ、いいのかい本当に!?」

「ああ…あんたが一番そいつを活かせると思った。」

「ありがとよ!いやぁ、脇差しかぁ!いやぁ!!こりゃ業物だねぇ!!」

「そこらのなまくらとは訳が違うぞ。」


ダグはそう言って少し嬉しそうな顔をしながらカレーライスを黙々と食べ始める。

トウシロウは夕食そっちのけでダグから唐突に貰った脇差しをうっとりと眺めている。

イツキもトウシロウの脇差しを眺めながら口を開いた。


「やっぱり刀は格好いいよなぁ、刀がミスリルの剣を斬った瞬間さ、俺ゾクゾクしちゃったよ!」

「で、それはビゼンブレードっていうの?」


ララミーティアがダグにそう尋ねると、ダグはカレーライスを咀嚼しながら小さく頷いた。


「ああ、俺のいた世界にも異世界から来たヤツってのが居た。」

「イツキやトウシロウと同じ口ね。」


ベルヴィアがそう言うと、ダグはベルヴィアに視線を送りながら小さく頷く。


「そうだ。ビゼンブレードはその異世界人が伝えたと聞く。」

「ビゼンってぇと…やっぱあの備前刀で有名な備前だよねぇ?」

「刀…有名だもんなぁ、備前って。」


トウシロウとイツキは認識が一致したようで互いに頷き合う。

そんなやりとりを見ていたゲオルグが困惑気味に口を開く。


「あの…転生者として選ばれるのはお二方の故郷だけなのですか?よもや世界にお二方の国しかない訳ではないでしょう?」

「あーそれ私も思った。前見せて貰った世界地図だとスッゴい小さい国だったよね?」


ジーニャもゲオルグに同意しつつそう言った。

その質問にはダグも多少興味があったようで、チラリと再びベルヴィアに視線を送る。


ベルヴィアは頬をポリポリとかきながら口を開く。


「そうねぇ…イツキ達は日本人っていうんだけどさ、異世界に転生させる!っていう空想の書き物?まぁそういう架空の冒険譚を記した作品が一番盛り上がっていたのよ。もうさ、剣や魔法って言えばってすぐに連想されるレベルで浸透してる変な国なのよね。」

「ふぅん、転生させてもすんなり状況を受け入れるって訳ね?」


ララミーティアの言葉にベルヴィアはコクコクと頷く。


「そっそっ。まぁそんな感じ。夢見がちな人が多いっていうか、もう一過性のものじゃなく、文化として定着してるって感じ。」

「俺が死んだ後もずっとその手の作品が続いてたんだなぁ、へえ。もう市民権を得たジャンルなんだ…」


イツキは腕を組んでうんうんとゆっくり頷く。

しかしトウシロウは首を傾げながら口を開く。


「おいおーい、ちょっと待ってくれよ。俺の時代には、んなもん無かったぞぉ?テュケーナ様にこの世界に連れてこられてさぁ、暫くチンプンカンプンで途方に暮れちまったなぁ。」

「おー、そうだよ!トウシロウさんの時代なんて明らかに俺の時代とは背景が違うよ?多分ダグさんの世界の日本人もさ、それ確実に江戸時代以前の人だし。」


イツキがそう言うと、サーラがニコニコしながら口を挟んだ。


「それについては私も天界で学びました。天界でも魔力融通について発覚した当初、最初期の頃は特に「この国から!」と、偏る事は無かったそうなのです。しかし地球の時代が過ぎてゆく中で、日本列島から連れてくる者は他の大陸と者と比べて転生先で大きなトラブルが生じない傾向が何故かあった。そして偶然日本列島から転生させた武士…侍が非常に格好良かったという点。そういう要素が絡み合って日本人が選ばれやすいという背景があるそうです。」

「はは、天界って結構そういうミーハーなとこあるよね。なんか親しみを覚えちゃうよ。」


ルキアはそう言ってクスクス笑う。


いつも通りの何気ない賑やかな夕餉は過ぎてゆく。



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