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ダークエルフと暮らす異世界間違い転生  作者: 三沢 七生


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557.ようこそ

教国歴四十一年夏の期 74日




まだまだ夏真っ盛りなこの日。

ウーラガンとデーメ・テーヌが本邸へやってきていた。

他にはイツキ達夫妻の他にニコとコルムが顔を出している。

一同は食事というわけではないが、ダイニングテーブルに座っている。


そしてベルヴィアだけ席に着かず、大きなスクリーンのようなウィンドウ画面の前に立っていた。

ベルヴィアは咳払いを一つしてから徐に口を開く。


「今回、この地に転生させる候補者が決まりました。この世界とは別の世界に居るエルダードワーフ族という種族の者で、その名をダグと言います。この世界のドワーフとは背丈が若干異なりまして、例としてイツキを隣に並べてみます。」

「おいおい、なんで比較対象が俺なんだ?」

「それはあれよほら、イツキを転生させた時のデータが丁度あったから流用。ほらほら、こんな感じ。」


そう言ってウィンドウ画面に映されたドワーフはイツキの胸の辺りくらいまでの背丈で、この世界のドワーフよりも少し背が高く感じられた。

筋骨隆々な点や長い髭を貯えているところは概ね同じようだ。


「ふぅん、確かにドワーフにしては背が高いわね。ふふ、見るからに頑固そうよ。」

「だねー!へぇ、違う世界のドワーフってこんなんなんだー?」


ララミーティアの言葉にマーウーもワクワクした様子でそう言った。

ニコとコルムも概ね満足なのか、満足げな様子で頷いている。


「実はもう既に本人の魂を確保しててね、あれやこれやと話は済んでるの。だから降臨させるだけの状態まで整ってる。色々話を聞いて同意も得ているわ。平和で穏やかな環境で鍛治に専念できるって聞いて本人もやる気マンマンね。」


ベルヴィアの言葉にイツキが口を挟む。


「って事はあんま平和で穏やかな環境に居なかった感じなのかな?」

「そうなのよ。詳しい事は本人から聞いてもらうとしてね?ざっくり説明すると…」




ベルヴィアによるざっくりとしたエルダードワーフのダグについての身の上話が始まった。


とある世界のとあるドワーフ王国。

40歳という、元の世界でもかなり若いエルダードワーフ。

そして若くして王国仕えの筆頭鍛冶師だったダグ。

しかし人間国家が侵略戦争を仕掛けてきて、はじめのうちはどうにか持ちこたえていたものの、人間の数の多さには勝てず瓦解。

その世界の人間国家が編み出した奴隷紋で自由を奪われたダグ。

奴隷紋による強制で無理矢理武器や防具を作らされ続け、やがて流行病に倒れて死んでしまったとの事だ。


家族や仲間が殺され奴隷にされ、本人の信念やプライドを全て踏みにじられ、言われるまま武器や防具を作らされ続けた辛くて悲しい人生だったと漏らしていたとベルヴィアは語った。


「…殆どの魂はすぐに輪廻の輪に戻るものなんだけどね?このダグって子だけは魂が余程強かったのね、ずっと輪に戻ることなく停滞してたから「これは…!」と思って決まった感じね。」


そんなベルヴィアの説明が終わり、イツキは不安そうな顔をして口を開いた。


「じゃあ俺達人族に嫌悪感みたいなのがあるんじゃない?大丈夫かな…」

「その辺は大丈夫そうよー?元いた世界とは全然違う世界だし、これから行くこの世界は割と平穏だって説明したら納得してた。」


ベルヴィアの言葉に本邸内には安堵の雰囲気が漂う。




ベルヴィアによる説明も終わり、本邸で会議をしていた面々はぞろぞろと集落の方へと足を運ぶ。

そこでデーメ・テーヌがウィンドウ画面を操作しながら空き地を指差した。


「鍛冶屋が出来るのはこの辺りね。彼の要望通りの鍛治工房を出現させるから立ち入り禁止よ?」


デーメ・テーヌがそう言ってウィンドウ画面の操作に戻る。

すると程なくして石を積み上げて作ったような無骨な建物が出現した。


「おー!へぇ、結構手作り感のある建物だなー!」


イツキはそう言いつつ建物に近寄る。

ララミーティアも歩みを進めつつ口を開いた。


「折角だから鉱石を召喚して用意してあげましょうよ?ねえ?」

「おお、そうして貰えると助かる。くれぐれも良くしてやってくれ。ひょっとすると無愛想かもしれんが、それが彼の世界のドワーフという種族なのだ。」


ウーラガンのそんな言葉にイツキ達はニッコリ頷く。




急に姿を現した無骨な建物に広場の住人達は入れ替わり立ち替わりやってきては外から様子を伺っていた。

とは言え勝手に入るのは如何なものかと誰しもが考えているようで、中にズカズカと入り込む者は居ない。

そんな空気を察知したのか、ペロとエステルも手をつなぎながら外から建物を眺めるだけで、付き添いのイツキにあれやこれやと質問を投げかけていた。


そんな中、マーウーが「この世界に来たらみんなで歓迎会をしよーよ!」と提案。

その日の夕方頃に出現予定との事だったので、広場では手の空いてる者達が着々と歓迎会の準備を始めていた。

やがてララルージュ達やララグレース達も広場に帰還。

ララミューズ薬局もカミラが手伝ってさっさとノルマを終わらせ、早めにポーション製造の手を止めて準備に参戦。

ゲオルグ達も早々に牧場から引き上げて準備に参戦。


広場では今か今かとダグを待ちわびている状態になっていた。


そしてベルヴィアが指定したエリアに後光が差し込み始める。


「来たわよ!来た来た!みんな心の準備は良い!?」


ベルヴィアが広場に集まっている面々に声をかけると、広場に集まった面々は口々に了解した旨を告げ、固唾を飲んでダグの登場を見守る。


そして後光の中に徐々に人型が現れ、完全に姿が見えると光は消えた。


「ダグさん、ようそこ新しい世界へ!!」


予め組んでいた段取り通りイツキが声を張り上げる。

すると残りの面々が口々に「ようそこ!」と声を上げた。


状況がイマイチ理解出来ていないダグはキョロキョロと辺りを見回し、そしてベルヴィアの姿を確認するとベルヴィアに向かって深々と頭を下げた。


「女神様、本当にありがとう。なんとお礼を言えばいいか…」


そんなダグにベルヴィアはパッと駆け寄ってダグの肩をポンポンと叩く。


「みんなあなたが早く来ないか来ないかって歓迎の準備をして待ってたのよ!ほらほら、とりあえず飲みましょうよ!ねっ?」


ベルヴィアの言葉に漸く頭を上げるダグ。

ダグはコップを持ったままワクワクした顔をしている面々をぐるりと見渡し、目に涙を浮かべながら大声を張り上げた。


「初めてお目にかかる!俺の名前はダグ!見ての通り…か?エルダードワーフ族のダグ!俺は鉄を打つ以外に脳がねえ男だ!丁寧な言葉遣いなんて出来ねえ!すまねえがそこんとこは勘弁してくれ!」

「うはは!こりゃ骨のある男が来たなぁ!俺はハイオーガ族っつー種族のクラウスだ!一つよろしくな!」


クラウスは一目見てダグが気に入ったようで、ワッとダグに駆け寄ってガッチリと握手を交わす。

ダグもクラウスの満面の笑みを見て緊張が少しほぐれたような顔をしている。


「おう、よろしくな。しかしあんた…滅茶苦茶つええな。」

「分かるか分かるか!俺と同じくらい、それ以上に強いヤツもゴロゴロいるぞ!まぁどいつもこいつも気さくで良いヤツばかりだからそう構える事はないぞ!ここは言葉遣いを気にするやつなんざいねえ!なぁみんなっ!?」


クラウスの言葉にワッと盛り上がる面々。

ダグも照れくさそうに笑った。




ダグは祝いの席であろうと、見たことのない酒が目の前にあろうと、狂喜乱舞せずに淡々と飲むという、この世界のドワーフからすれば有り得ない様子で酒を飲んでいた。


イツキはここぞとばかりに高級な日本酒や焼酎を召喚してダグに勧めていたが、ダグはそんな酒も水のように淡々と飲んだ。

言葉の少ないダグだったが、それでも晴れやかな気持ちである事はその表情から伺えた。


ダグの感覚では病気で苦しみながら死に、すぐにベルヴィアに拾われ、そしてそのままこの世界にやってきている。

そんな訳で歓迎会は夜遅くまで続くことはなく、割と早いうちに終わってしまった。




「必要な物は俺達で用意しますんで、とりあえず家の中を一緒に見てみましょうか?」


イツキはそう言ってダグの為に用意した家を指差す。

ダグは目を細めながら天界側で用意した家を眺めていた。


「ああ…頼む。」

「よし、じゃあ行きましょう。」


そう言ってダグの家に向かって歩みを進めるイツキ夫婦。


とは言え一通り天界側でリサーチ済みだったようで、ダグから追加で欲しいものは特になく、ダグはイツキ達が用意した鉱石を手にとって眺めていた。


「めぼしい鉱石は用意したんですけど、そんなんで大丈夫そうですか?」


イツキがダグにそう尋ねると、ダグは小さく頷いた。


「おう、信じられねえ…ここじゃ稀少な鉱石じゃねえのか…」

「そうですね。ありふれているとまでは言いませんが、稀少という程でもなくなりつつありますね。」


サーラはそう言ってヒョイとミスリルインゴットを拾い上げる。


「明日の朝から早速試しに打ってみる。」

「ご飯はあっちの丸い建物で用意するから、気兼ねせずにいらっしゃい?」


ララミーティアはそう言ってダグにウインクしてみせる。


「すまねえ。分かった。」

「兎に角困ったことがあったらいつでも丸い建物に来て下さい。それじゃあ帰ろうか。」


そう言ってイツキ達はゾロゾロとダグの家を後にしようとする。

するとダグが声をかけてきた。


「あの…!」


振り返るイツキ達。

ダグは言葉を続けた。


「何というか…ありがとうな。こんな機会を…」

「気にしなくて良いわよ!これからご近所さんとしてよろしくね!」


ベルヴィアはそう言ってニッコリ微笑みかけた。




それからダグは朝になると本邸にやってきて、イツキ達とともに朝食をとった。

エルダードワーフ族とはそういうものなんだと予め説明されていたのもあり、ダグが無口でブスッとしていても気に留める者は誰もいなかった。


昼食についてはペロとエステルが仲良くダグの家まで昼食を運び、夕食の時間にも同じくペロとエステルが声をかけに行った。


ペロは魔力的な面を見た上でダグを気に入り、何かにつけてダグに声をかけたりご飯を渡しに行ったりする役を買って出た。

そうなるといつも一緒のエステルも、ペロが言うんだからと思っているのかダグに懐いていた。


そして天界からの観光客がダグの工房を見学するようになった。

絵に描いたドワーフに観光客達は大興奮。

しかしダグは興奮する観光客達の事など特に気にせず、黙々と作業をしていた。




「ダグ、天界の人たち「わーっ」って来て気になんないの?」


ダグが水を飲んで一息入れている時、そばの椅子に座って様子を見ていたペロがそうダグに尋ねた。

ペロとピッタリくっ付いて見学していたエステルもそれには同意なようでコクコクと頷いている。

しかしダグは小さく笑いながら口を開いた。


「そんな事くらいじゃ気は散らねえ。」

「しょくにんだね!」


エステルはそう言って楽しそうに足をブラブラさせる。

ダグは再び水を呷り、腕で口を拭うとペロとエステルに向かって口を開く。


「お前ら…俺なんかと居て…楽しいか?」


ダグはそう言いつつ金鎚を拾い上げ言葉を続ける。


「この集落のヤツらより…俺は口下手だ。つまらんだろ?」


そんなダグに、ペロはニコニコしながらダグの膝の上に勝手に乗った。


「ダグの魔力、優しい人の魔力だよ!ペロ、ダグ好き!」

「ペロちゃんがそーゆーからエステルもダグすき!」


エステルもはしゃぎながらダグの膝の辺りに纏わりつく。

ダグは再び小さく笑って金鎚をテーブルに置くと、ペロとエステルの頭を撫でる。


「ダグにこれあげる!」


ペロはそう言ってアイテムボックスから何かを取り出してダグに手渡した。

ダグは無数のそれらを受け取ってジッと眺めると、思わず声を上げてしまう。


「お、おい…!こりゃドラゴンの鱗じゃねえか!?それも上等な…!」

「うん!ペロの鱗だよ!武器とか防具に使えるからとっとけってウーゴが言ってた!」

「お前の鱗って…どういう…」


急に手渡された一級品の素材に困惑するダグ。

ダグは途方に暮れて本邸の方を見つめる。


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