555.フリーマーケットに行こう 後編
「そ、それは流石にマズいのでは…?」
リンダは深刻な顔をしてそう呟いた。
サーラの口から説明された「星辰の錬金術師」という特性。
その辺の魔物素材や魔法鉱石から、みんなが古代の遺物と呼んでいる物がホイホイ作れるというゲームエリアではありふれたスキル。
しかしこの大陸においては完全にぶっ壊れスキルだ。
「そうねぇ、ちょっとマズいわねぇ…」
デーメ・テーヌは困り果てた様子で腕を組んで考え込んでしまう。
マーウーはあっけらかんとした様子で口を開いた。
「元々そんな特性無かったんだからさ?創造神様が消しちゃえばいいんじゃないのー?」
マーウーの意見に同意な一同はうんうんと頷いた。
しかしベルヴィアが肩を竦めながら口を開く。
「天界側から子らの特性を消すのは出来ないわよ。そんな事できたら神様が恐怖の対象になっちゃうでしょ。背いたら雑魚にされちゃうって。」
「ふーん、面倒臭いんだね。」
肩を竦めるマーウー。
ララミーティアは呆れ顔で口を開く。
「それで天界はどうやって納めるつもり?リンダとカーターの子孫に発現していったら、その時はもう収拾つかなくなっちゃうわ。」
「うっ…そ、そうね…」
デーメ・テーヌはチラリとサーラに視線を送る。
しかしサーラはぷいと顔を背ける。
「私は知りませんよ。あんな事さえなければこんな事にはという事は分かりますが。」
「そんなぁ!サーラちゃん意地悪ぅー!」
テュケーナがそう言うと頬を膨らませてポコポコとサーラの肩を叩き始めた。
「他のに変えられないの?消すのはダメでも、変える事は出来ないの?」
ペロが地べたに胡座をかいて座っているデーメ・テーヌの膝の上に座りながらそう尋ねる。
デーメ・テーヌはそんなペロを抱きしめつつ思案を始める。
「変える?流石に無理よ。」
「じゃあ新しい本で効果は変えられないの?パパの料理みたいにね?お砂糖を入れると酸っぱくなくなるみたいに。ねえ?」
ペロの言葉にデーメ・テーヌとテュケーナはハッとした顔をして頷き合う。
しかしイツキが慌てて口を挟んだ。
「待って待って!それじゃあ子孫の問題が解決しないでしょ!子孫にそれらが同時に発現しなかったらどうするんですか?根本解決になってないですよ!」
「うわぁ…お話だったら「それよっ!」ってなるのにぃ。イツキちゃんったらぁ…」
ぶーたれるテュケーナにイツキはツンと澄ました顔をする。
「神様達はさほど困ってないようだ。うん、俺達は視察に…「わぁ!わぁ!待ってよぉ!!」
慌てたテュケーナがイツキの頭を抱き締める。
テュケーナの胸がモロに顔に当たったイツキも大慌てでテュケーナを引き剥がした。
「どわっ!ちょ、ちょっと!!むむ、胸が当たってましたよ!!」
「ちょっとイツキ!!テュケーナの胸が目当てでわざとやったでしょ!!」
「デーメ・テーヌ様まで!!そんなわけないでしょ!!今はスキルどうするか問題が先決でしょ!!」
神様と揉め出すイツキの様子を呆れ顔で見守るリンダとカーター。
そこでマーウーが再び口を開く。
「じゃあさじゃあさ、天界でさ、スキルを変えちゃう道具を作ればいいじゃん!それならさ、別に創造神様が直接変えた訳じゃなくない?」
マーウーの意見に、イツキの胸倉を掴んでグラグラとイツキを揺らしていたデーメ・テーヌの手が止まる。
「んー…まぁ…それくらいなら…」
「リンダがスキルブックを発動しちゃったのと同じじゃん?ねえ?」
マーウーはそう言ってイツキに同意を求める。
「確かにそうだね…というかそれしか思い付かないな…」
「そうですねぇ、それしか無いですねぇ。イベントアイテム枠で一個だけ作ればぁ、いけますねぇ。」
テュケーナはウィンドウ画面を操作し始めた。
遮音結界を張っていたとは言え、デーメ・テーヌやテュケーナがわざわざやってきてイツキ達のやいのやいのやっていた光景に、一帯は交通整理が入るほど大混雑となっていた。
これまでデーメ・テーヌやテュケーナの姿を見たことがない者達が殆どで、辺りはパンダの檻の見学会場の様相を呈していた。
そして暫くしてテュケーナが一冊の本を出現させた。
「変更可能なスキルの中でぇ、一番マシそうなスキルを選びましたぁ。」
テュケーナの言葉にデーメ・テーヌが頷きながらウィンドウ画面をチェックする。
しかし眉をひそめながらテュケーナのおでこを弾いた。
「ちょっと馬鹿ねっ!!なんでマシそうなスキルがよりによって「魔導機工師」なのよ!文明レベル的に機械弄りできる人が居ちゃだめでしょ!」
「だってだってぇ、他の候補はぁ「詐欺師」か「暗黒僧侶」かぁ「蛮族」ですよぉ?えいっ!!」
テュケーナはそう言いつつデーメ・テーヌのおでこを弾き返す。
「いだっ!!うー…た、確かに…!!」
「はは、いずれも神様から賜る職業ではなさそうですね。」
傍らで聞いていたフランクが笑いながらそう言うと、マーウーとララミーティアもクスクス笑い出した。
「あはは!そんなん悪い神様じゃんね!」
「ふふ「デーメ・テーヌ様より詐欺師の称号を賜った!」なんて言ったらデーメ・テーヌ様の神経を疑われるわね。「俺達の神様って実はヤバいヤツなんじゃないか?」って!ふふ、こっちも詐欺師なんて名乗る人を捕まえるべきかどうなのか困っちゃうわ!ふふっ!」
ララミーティアの言葉にリンダやカーターだけでなく、護衛の兵士達も笑いが止まらなくなる。
「と、兎に角!リンダちゃん、その本に手を当てて「我にこの本の知識を授けたまえ!」って言ってみてちょうだい?」
デーメ・テーヌはそう言ってリンダに本を手渡した。
リンダは頭を下げながら本を受け取る。
「ありがとうございます。えーと…我にこの本の知識を授けたまえ!」
リンダがそう言うと再びリンダはまばゆい光に包まれる。
そして光が収まると、リンダは本を隣にいたカーターに手渡し、不思議そうに自身の両手を眺める。
「す、凄い…!知らなかったハズの情報が…!」
「へぇ、リンダ凄いじゃないか!いいなぁ、僕もこの本の知識を授けて欲しいよ!」
興奮気味に本をポンポン叩きながらそう言うカーター。
するとなぜかカーターまでもが光り始める。
そんな様子に驚いてしまうイツキ達。
デーメ・テーヌはテュケーナの両肩を掴んでグラグラと激しく揺さぶる。
「ちょちょ!ちょっと!!な、なな、何で使用回数の制限がないのよ!?っていうかなんでカーターは星辰の錬金術師持ってないのに魔導機工師をゲットしちゃってんのよ!!」
「あわわわ…設定間違っちゃったかもぉ…」
「あわわじゃないわよあわわじゃ!!あわわはこっちのセリフよ!!」
「えーん、ごめんねぇ!テーヌちゃぁーん!参考にするアイテム間違っちゃったよぉ、でも確認を怠った方も悪いっ!」
「うっ、五月蠅いわね!れ、連帯責任よっ!!」
激怒するデーメ・テーヌに泣きべそをかくテュケーナ。
リンダとカーターは呆然と見つめ合う。
イツキ達は「またやらかした」という顔でデーメ・テーヌとテュケーナを冷たい視線で見つめる。
もはやカーターから新たな特性を奪うわけにも行かず、結局カーターとリンダ夫妻はこの大陸での初めての魔導機工師夫妻となってしまった。
フランクは視察の案内を中止。
そのまま政府関係者を集めてリンダとカーターから魔導機工師についてヒアリングを行うことに。
テュケーナは頭に大きなたんこぶをこさえたまま突貫工事で作った本を回収、そのままデーメ・テーヌと共に天界へと帰ってしまった。
そしてイツキ達の案内役は偶然通りかかったサーラの子孫のポピーが対応する事に。
「あはは、そんなその場で何とかしなくても後でゆっくり対応すればいいのに、本当にそそっかしい神様達だねー。」
イツキから事の顛末を聞いたポピー。
ポピーは頭の後ろで手を組んで歩きながらそう言って笑った。
「ペロも笑っちゃった!」
「ふふ、そりゃ笑っちゃうよ!でも魔導機工師かぁ、想像付かないなー。」
そう言ってペロと「ねえ?」と言い合って笑うポピー。
その後もあちこちの露店を見て回り、サーラは年季の入ったアンティークのアフタヌーンティースタンドを、ベルヴィアは木製のペーパーナイフを買った。
ペロは木製で手触りの良い丸っこい鳥のオブジェを買い、マーウーはこれから産まれてくる子供のためにと、ペロが鳥のオブジェを買った露店で木製の玉を買った。
「ほら、これ転がすと中からコロコロ音がするんだよ。スベスベしてて気持ちいいし、赤ちゃんが喜ぶかなって。」
マーウーは先ほど買った木の玉を手に、ニコニコしながら歩いている。
「ペロのもスベスベ!気持ちいいの!」
ペロも先ほど買ったばかりの鳥のオブジェが余程気に入ったようで、しきりに頬ずりしていた。
「それを売ってたドワーフのおじさんもそうだけれど、趣味でそこまで精巧な物が作れるなんて大したものね。」
ララミーティアはマーウーから手渡された玉を手にとってしげしげと眺める。
玉はまるで機械で作ったように精巧な仕上がりで、ユラユラ揺らすと中で木の玉でも入ってるのかカラカラと音がする。
「いやぁ、これはハッキリ言って凄いよ。俺が居た世界でも結構良い値段が取れるよそれ。」
確かにマーウーの持っている玉もペロが頬ずりしている鳥のオブジェも形が歪んでおらず、片手間で作ったとは思えない仕上がりだった。
「ところでティアは何か欲しいのないの?」
イツキがそう言ってララミーティアに水を向けると、ララミーティアは木の玉をマーウーへ返し、うーんと唸る。
「そうね…何かキッチン周りの物が欲しいかしら。」
「おー、奇遇だね。俺も包丁が見てみたいと思ってたんだよ。」
「包丁も良いわね。私達が使う包丁ってイツキの召喚で出すものですし、確かに気になるわ。」
イツキの言葉でララミーティアの表情も明るくなる。
イツキとララミーティアはキッチン周りの物が欲しいという事で歩き回っているうちに、イツキはお目当てだった中華包丁のような大きな刃の包丁を人族の夫婦がやっている露店で入手。
ミスリル製の少し値の張る包丁だったが、ララミーティアやサーラも使いたいと言い出し、迷わず言い値で購入する事に。
「へぇ、最近大マーリングから?へえ!」
露店を開いていたのは人族でガルシア夫妻。
雑談をしていると、ガルシア夫婦は軍靴の音が聞こえ始めたかなり序盤のうちに大マーリングから首都ミーティアへ移住してきたとのことだった。
「町でも戦争については話題になってましたからねー、領土拡大と金を搾り取る事しか考えていない国より、総本山のある神聖ムーンリト教国の方が絶対幸せになれるに決まってますからね。」
「うちは雇われで皮革業に従事していたので割と移住しやすかったんですよ。聖護教会時代からの信徒でしたし、もう大マーリングも潮時だなと言うことで両親とともに越してきました。」
そんなガルシア夫妻にララミーティアが興味津々で尋ねる。
「そんな時勢でうちの国に移住出来るものなの?」
そんなララミーティアの問にガルシア夫妻の夫のジョセフが肩を竦めた。
「大マーリングは他領に移り住む事すら許されないので、全うに行けば神聖ムーンリト教国に移住など許可はまず降りません。」
「そーなの?じゃあどーやって移住したのー?」
マーウーがジョセフにそう尋ねる。
ガルシア夫妻の妻のメアリーがクスッと笑いながら口を開く。
「私達信徒はムーンリト教の信徒として白いローブを着て、司教や司祭の移動の側仕えとして紛れ込む事が出来るんです。」
「ふふ、人族国家は聖護教会時代からその辺りの教会事情に無関心というか疎いというか…まあ胡散臭い腫れ物扱いでしたから、いくらでも誤魔化しが効くんですよ。殆どの町では家屋台帳みたいなもので住民を管理していますが、常に住民の移動に目を光らせている訳ではありませんしね。ローブを着て顔を伏せていれば兵士も気がつきようがないですよ。」
サーラがそう言うとベルヴィアが眉を八の字にしながら口を開く。
「まぁ宗教って興味ない人からすれば胡散臭いって感じるかもしれないわねー。尤も今じゃ超大国の組織だから怖くては下手に口出し出来ないんでしょ。」
「はは、その通りです。下手な扱いをして総本山に報告されたくはないでしょうからね。孤児も貧困層も一手に受け皿になってくれるケースが多いし、多少ならお目こぼししちゃうんでしょうね。」
ジョセフがそう言って肩を竦めて笑う。
ガルシア夫妻と雑談をしているうちに、目に留まった陶器製のキャニスターを気に入ったララミーティア。
そのままガルシア夫妻からお揃いのキャニスターを五個全て購入し、イツキ達のフリーマーケット視察は大好評のうちに終わった。
フランクはイツキの提案を受け、次のフリーマーケットからは商人向けにB級品などに限った販売区画も用意。
国内の商人も出店する為に首都ミーティアへ集まる、大陸でも屈指の一大イベントと化していた。





